同志社大学食育講座「間違いだらけの食生活 〜 一人暮らしの若者と『食事バランスガイド』」
(2006年11月27日 同志社大学寒梅館 にて)
「一人暮らしのあなた」に「食事バランスガイド」
学園祭でにぎわう同志社大学の一角で、11月27-28日の二日間にわたり、食生活を考えるイベントが開かれました。これは総合政策科学研究科が主催したもので、一人暮らしの若者たちに、日ごろの食生活を見直すきっかけづくりとしておこなわれたものです。
一日目は、勝野美江さん(農林水産省消費・安全局消費者情報官補佐)参加による食育講座「間違いだらけの食生活〜〜農水省キャリア女性官僚が同大生と語る」。
二日目は、京都を代表する料理人たちによる「食事バランスガイド弁当」の試食会、「食と命についてかんがえるお昼ごはん」。
両日それぞれ、「命―食―農」のつながりについて考える、中味の濃い企画となりました。
会場となった同志社大学寒梅館 |
当日の看板。二日間の企画を紹介するチラシを掲示 |
劇団 ザ・ニュースペーパーのコント
「安倍晋三首相の登場です!」 という紹介に、「おお!」とどよめく場内。安倍さんのテーマ曲「アヴェ(安倍)・マリア」が流れるなか登場する姿に、笑いがおこります。
それもそのはず、実はこの安倍首相、時事ネタを得意とするコント劇団 ザ・ニュースペーパー(トリックスター所属)の福本ヒデさんが扮したもの。
「食事バランスガイドのコマは、組閣のときにも使いました。安倍派から5人、××派から4人……と、コマにあてはめて人選したら、バランスがよすぎる、とあとで批判されました」など、世相と「食事バランスガイド」のことをからめたテンポのよい内容が続きます。
次に、X-Japanの「Forever Love」とともに登場したのは、小泉純一郎・前首相。こちらももちろん、ザ・ニュースペーパーの松下アキラさんです。
「いやー今日は、おめでとう、感動した、よくがんばった!! この3つを言っておけばたいていどこでもまちがいはないんです」と自己紹介をしてから、
「食べものは大事、いまおきている問題の根源はすべて食べものにある、だから食育基本法をつくったのはこの私だということを忘れないように!」
とこれまた、食に関するコントを連発、座をほぐしていました。
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小泉純一郎・前首相と安倍晋三・新首相に扮する、劇団 ザ・ニュースペーパーのお二人
(左:松下アキラさん、右:福本ヒデさん) |
「食事バランスガイド」って何?
そしていよいよ登場したのは、今里滋教授(同志社大学総合政策科学研究科)、司会の竺 和代(じく かずよ)さん(同研究科)、勝野美江さん。勝野さんは、農林水産省で「食事バランスガイド」の策定を担当し、現在もその普及・啓発活動を日々おこなっています。今日は同志社大学の学生たちと直接、ざっくばらんに「食事バランスガイド」や食生活について話ができる、と楽しみにされている様子。
まず勝野さんの説明によるスライドで、現代の若者の食事情が紹介されました。
「朝食の欠食率は、20代(20-29歳)が一番高く、女性27.4%、男性34.3%。なかでも、一人暮らしの男性だけを見ると65.5%にものぼります。
また、BMI18.5未満の「やせ」の女性が20代でもっとも多く、21.4%となっています。最近では、妊婦さんがダイエットをして低体重児が生まれるといったことも問題視されています。若い女性の間ではやせたいという願望を持った方が多いようですが、偏った食事でダイエットをするのではなく、バランスのよい食事をとって適度に運動することが大切です。
そこで今回の「食事バランスガイド」では、重点ターゲットを、一人暮らしの方、30代〜60代の男性(肥満気味)、子育て世代の3つにしぼって、特に今日は一人暮らしが多いと思われる学生さんにお話をしに来たということです」
と具体的な数字を挙げながら、説得力のある説明が続きます。
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朝食の欠食率や、「食事バランスガイド」ができるまでの経緯を説明をする勝野美江さん |
なぜ、農水省が?
そこへ司会の竺さんから「なぜ食生活(健康)のことなのに、厚労省ではなく農水省で、このようなキャンペーンをおこなうのですか?」という質問が。勝野さんはすかさず、「生産者がつくったものを消費者に食べてもらうところまで責任をもつのが、農水省の仕事なんです」と応じます。
「たとえば、世界各国の自給率ってご存じですか? 2002年の統計によると、フランス130%、アメリカ119%、ドイツ91%、イギリス74%。では日本は? というと、40%です。これが、日本の現状です。
ではこれらの国々と日本との違いはどこかといえば、食生活がこの数十年で大きく変わった、ということなんです。肉・油をたくさん摂ってご飯を食べない、つまり日本の国土にあわないものを食べる「需給ギャップ」が起こっているんです。一方このような食生活をおくるようになって、メタボリックシンドロームが最近、よく取り上げられるように、肥満の方が増えてきて健康上にも問題がでてきていますよね。
ただ日本人は欲張りなのか、「これだけ食べれば健康によい」という魔法の食べ物だけで健康を手に入れようとする傾向があるようです。
実は毎日の食生活を見直してもらうことで、身体も元気、日本の農業も元気になるように促していくことが、私たちの役割なんです」
司会の竺さんの鋭い質問で対話もはずむ |
勝野さんの食生活は?
では、こういう啓発をされている勝野さんの食生活はどうなんでしょう? という(少し)意地悪な質問に、
「農水省で職員約4,400名を対象に、「食事バランスガイド」のような食事ができているかと一週間、調査をしたことがあります。ところが、7日間ばっちりできていたのはたったの4人で0.1%、0日は83%という結果でした。
私は7日間ばっちりの4人のなかにめでたく(?)入ったのですが、たいへんでした(笑)。お弁当に副菜を2つ(SV)分入れるのが、一番骨が折れましたね。朝起きたら副菜をつくりまくって、それでも足りないときはお弁当に枝豆を散らしたりして。
でも、ぜんぶ手料理にしよう、ってがんばりすぎなくていいんです。デパ地下でお総菜を買ってもいいし、いろんなものを上手に使ってかまわないんですよ」
ある日の勝野さんの食事(一日分)。副菜の数をふやすため、お弁当のご飯に枝豆(副菜)をちらす工夫も |
会場からも質問
会場から質問を受ける時間もありました。
Q 「理想の食べ方があるとしても、実践はむずかしいとつねづね思っているので、先ほどのお話で、買ったものでも上手に使って、というのは、とても納得がいきました。
最近コンビニ弁当の味付けの濃さ、添加物が気になるようになってきたのですが、これから高齢化社会になるとますます、問題になってくると思います。なにか取り組みがされているのでしょうか?」
A 「高齢者の方向けに味付けや中味を調整したお弁当を試作し、ゆくゆくは販売できればという試みも始まっています。ただ、女性(家庭の主婦層)だけの責任で料理をつくるのではなく、男性もどんどん料理に参加してもらいたいですね」
Q 「バランスのよい食事をというお話がありましたが、薬局でアルバイトをしていたとき、サプリメントの数の多さと、それを効能や摂り方まで、実際的なアドバイスしてくれることに驚いたのですが、そのことをどう思われますか」
A 「サプリメントはあくまでも、栄養補助食品と考えていただきたいのです。アレルギーなど、何らかの理由で摂れない食品があるといった方が利用するなど、あくまでも補助。基本は食事で摂っていただきたいですね」
ほかにも、コマにのっている以外の食べ物は、なにをどれだけ摂ればよいのかわからないという質問には、さまざまな世代別に編集したサービング数付のレシピ集をつくりました、とお話をされていました。
司会の竺さんからは、
「11/25-26に京都の伏見区でおこなった『同志社大学食育祭2006』で、バランスガイドを紹介するものを配ったのですが、もらっていただくのが精いっぱい。説明するところまではとてもいきませんでした。
だから今日は、質問の時間をもう少しとって、勝野さんとじっくり対話できた方がよかったかもしれません。
大規模に講演するというよりは、関心の高い人に向けてじっくり説明する機会をもつことが向くのではと思いました」
と、これからの「食事バランスガイド」の伝えかたも含めた感想をいただきました。
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左から、今里滋教授、司会の竺和代さん、勝野美江さん |
長澤まさみさんのポスターで「食事バランスガイド」をアピールする、ザ・ニュースペーパーのお二人 |
「命―食―農」の連関を考える――今里滋 教授のお話
最後に、今回の主催である今里滋 教授からお話をうかがいました。
「そもそも政府が施策として食のことを提言するのではなく、私たち一人一人が食のあり方・その楽しみ方を見直していかなければいけないと思っています。そもそも日本は、一汁三菜を食生活の基本型とすることで、自然と地産地消になっていたのに、今は残念ながら手軽な食事が蔓延してしまいました。
だからこそ、健康な命をつくるのは食、健康な食をつくるのは農、と「命―食―農」の連関を考え、「食べておいしい・考えておいしい食事」を考える時代にきていると思うのです。
そこで今年度、私たちの研究室では
- 同志社大学を中心としたネットワークをつくる
- 京都府立大学人間環境学部食保健学科食事学研究室(大谷貴美子助教授)、京都市内の料理人、生産者のネットワークをつくる
- 啓発講演会をおこなう
- 一般市民向けの「同志社大学食育祭2006」を開催する
ことを目標に掲げてやってきました。その中の一環として、今日の講演会や、明日の京弁当の企画があります。
ほかにも、福岡市で「命と食と農をつなぐ コミュニティ・レストラン 筥崎(はこざき)公会堂」をしています。これは、「特定非営利活動法人 筥崎まちづくり放談会」が中心となり、農家楽(中国語でグリーン・ツーリズムの意)やイベリコ豚の飼育もおこなうなど、さまざまな活動をしています。
京都の大原には同志社大学の農園(※)もあって、学生が田植えや稲刈りをしたり、一口千円(3口以上)の野菜ファンドを募り、野菜の宅配もおこなっているんです。
(※)「農縁館・結の家」のこと。同志社大学大学院総合政策科学研究科の学外社会実験施設。
そもそも同志社大学大学院総合政策科学研究科は、独立専攻科ですから、学部を持たない分、法学部、経済学部、文学部など、いろいろな学部から学生が集まってきますし、多様な経験や背景をもった社会人も多く入学してきます。院生にもボランティアや社会貢献に関心がある人が多くいます。だからこそこれからも、人と人とのつながりをどうつくるかに関心をもち、社会起業家を育成する活動を続けていきたいですね」とお話をされていました。
今里滋 教授(同志社大学大学院総合政策科学研究科) |
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