1 農林水産大臣賞 <教育分野> 上越市立 高志小学校5年生「いただきます」のために〜お米を売る体験で「食べる」側から「育てる」側へ〜発表者:舘岡 真一 さん ■初めてお米を「味わった」子どもたち
子どもたちが自分で育てたお米を初めて食べた時の様子です。【子どもたちの声(音声)】 この日初めてお米を味わったという子どもが大勢いました。子どもたちは、「食べる」と「味わう」とは違う、と言うようになりました。子どもの「食べる」が「味わう」に変わっていたのはなぜでしょうか。 ■テーマは、「食べる」でつながる自分に気づくこと ■児童87名に87枚の田んぼ? 高志小学校は、上越市の中心部にあります。周辺は宅地化が進んでおり、その中にわずかに残った4アールの田んぼで子どもたちが米作りをしました。 田植えの様子をご覧ください。実は4アールの田んぼを、児童数と同じ87の区画に分けています。こうすることで、子どもたちは自分の田んぼを自分の責任で管理することになるのです。田起こし、代かき、田植え。作業はほとんど自分たちの手で行います。中でも特に大変だったのが草刈りです。ぐんぐん伸びる雑草と、戦いはひと夏続きました。そして待ちに待った実りの秋です。心配した病害虫や台風の被害もなく、約60kgのお米を収穫することができました。 ■ぼくらも春祭りをしよう! 4月、学校の近くの神社がにぎやかに飾り付けられていました。翌日、その写真を子どもたちに見せました。「普段の神社の様子と違うよね、なんでこんなにきれいに飾られているんだろう?」、聞いても子どもたちには分かりませんでした。春祭りの意味を知らなかったのです。そこで調べてみることにしました。「先生、米の豊作を願うために祭りってするんだって。あのね、夜になると、神社に大人たちが集まって、お酒飲んだりごちそう食べたりするんだって」 子どもたちは地域の神社の春祭りが米作りと深くかかわっていることを知ります。「ぼくたちだって米作りしてるんだから、春祭りしなきゃいけないよね」と言います。すっかりやる気満々です。では、どんな活動をすればいいか、さらに調べてみました。 こうして子どもたちは春祭りを楽しみながら、先人たちの米作りに対する思いを感じ取り、それぞれの地域の祭りには先人の努力に感謝し大切にしようという気持ちが込められていることに気づいたのです。地域とつながる自分に気づきます。 ■高志の田んぼ水の旅 田んぼの水ってどこから来てると思う? と聞くと、子どもたちは、「すぐ脇を流れている正善寺川からだよ」と答えました。ところが実際に歩いてみると、その用水は全く別の方向へと進んでいきます。資料を使って、高田平野の用水を調べると、高志小学校から用水路の入り口は約10km離れていることが分かりました。さらにその川をたどっていくと、川の源流は妙高の山々につながっていることが分かります。
7月に「高志の田んぼ水の旅」という活動をしました。用水から出発して町の中を通り、3時間かかって、ようやく矢代川頭首工に到着しました。「こんなに遠くから、僕たちの田んぼに水ってやってきているんだね」、子どもたちから驚きの声があがります。さらに翌日は藤巻山に登山し、現地ガイドの方から藤巻山に広がるブナ林のはたらきについて教えていただきました。 【子どもたちの声(音声)】 ■本気を出させた、育てたお米の完売作戦 収穫した米の半分を、おにぎりにして文化祭で販売することにしました。用意する30kgのお米は、おにぎり約500個分になります。もし米が売れ残ったら処分する、という条件を出しました。自分たちが何気なく食べ物を残すことで、作り手がどんな気持ちになるのか、自分の身になって考えさせ、なんとしても500人に食べてもらいたい、と本気になって売り切るためです。
「ポスター書けばいいよ」 そこで、米のパンフレットを作って地域に配ることにしました。これまで、ほとんどの作業を自分の手で行ったこと、農薬を使わず、豚ぷんを撒いて、栄養のある土を作ったこと、夏休み中、何度も田んぼに出かけて草刈りを行ったこと、など自分だけのこだわりや工夫を伝えようとしました。 500食÷87人ですので、5.6食、つまりが1人で6人のお客さんを呼ぶことができれば、500食が完売できることになります。1人が6軒の家にパンフレットを配る、子どもやお孫さんがいないお年寄りのご家庭に配るという子どもたちもいました。このパンフレットを配る活動が最も心に残った、という子どももいます。 【子どもたちの声(音声)】 でも、同じ町内の人でも、とても緊張しました。最初は顔見知りの人の家に行きました。顔見知りのおばさんに話しかけるとき、緊張するなあと思いました。話しかけるとおばさんは、午前中は予定があって行けないけど、午後は行けるかもしれないよ、と言ってくれました。僕の心の中は嬉しさでいっぱいで今にも踊り出しそうでした。でもその次に行った家では、玄関で、うちは米を作っていて米はたくさんあるから、私は行かないことにするよ、と断られてしまいました。パンフレットももらっていただけなくて、しょぼん、としてしまいました。もうやめようかな、なんていう考えまで浮かんできてしまいました。こんなんじゃ駄目だと思い、次の家に行きました。そこからはトントン進み、6枚すべてを配り終えました』 子どもたちにとって、パンフレットを配るという仕事は、ものを買っていただくという難しさを知るとともに、地域の人々の温かさを知る機会になったのです。 ■激論!おにぎりの値段をいくらにするか 次におにぎりの値段を決めなければなりません。「1個60gのおにぎりをいくらにする?」と聞くと、100円! 120円! 150円!、と値段を言います。理由を聞くと、どうやらコンビニのおにぎりの値段を参考にしているようです。お客様からお金をもらっているのに、そんな適当な値段の付け方しちゃ駄目だよ、じゃあ、お米の値段って、誰がどうやって決めるの? これが次の課題になります。
一人の子どもが、今年の農協の仮渡金が示された資料を持ってきました。みなさん、コシヒカリのおにぎり1個、いくらだと思いますか?今年のコシヒカリは一等米で60kgが一万円です。割り算をしていきます。 【子どもたちの声(音声)】 『僕たちの米は特別栽培米と同じで、有機肥料を使っていてさらに無農薬です。しかも、田植え、代かき、稲刈りを手作業でしました。でも水は、特別栽培米の方がいいので2円引いて40円にしました』 最終的には結論が出ませんでしたので、実際に食べていただいたお客様から値段を決めていただくことにしました。「そんなことしたら、一番安くするに決まってるじゃない」、と大反対する子どももいましたが、そのようにしてみました。 ■お客様が「味わってくれた」おにぎり販売 文化祭当日は、大勢のお客様が来てくださり、子どもたちは大忙しです。自分がパンフレットを配ったお客さんを見つけると、うれしそうにそばに寄って行きます。パンフレットを配ったお年寄りのご夫婦もきてくださいました。子どもたちが作ったパンフレットや値段を設定した理由を掲示しました。多くの人がそれをじっと見ながら値段を考えて下さっています。
販売から2時間後、用意した30kgのおにぎりは無事完売しました。周りの子どもたちから大きな拍手が沸き起こりました。食べ終えたお客様にはアンケート調査を行いました。値段を決めた理由や、食べた感想を書いていただきました。そこにはお米の味はもちろん、子どもたちのこれまでの努力を認めてくださる励ましのお言葉、当日の接客の態度、米の値段の安さを知り、予想以上の安さに驚いたという感想や、農家の方の苦労をもっと我々は考えるべきだ、という問題提起もありました。子どもの予想は外れ、約300枚のアンケート、そのうちの200枚以上が一番高い50円を付けてくださいました。ですが、子どもたちにとって、値段はもう大きな問題にはなっていないのです。 【子どもたちの声(音声)】 『お客様にお米を売ってよかったと思いました。私は外の案内や呼びかけの係でした。声がかれるほど呼びかけを頑張っていました。すると一人のお客様が声をかけてきました。そしてこんな言葉を言いました。あなたたちのお米すごくおいしかったわ、また食べてみたいねえ、と言ってくれました。私が、はい、ありがとうございます、と言いました。こんなに喜んでもらえたのは初めてでした。あの時は嬉しかったです。嬉しさがあふれてきました。その人はにこにこ顔でした』 「ありがとう」の言葉がどれほど人をうれしい気持ちにさせるのか、大切な人の笑顔がどれだけやる気をあたえてくれるのか、やってよかった、子どもたちの顔が満足感でいっぱいです。 ■なぜ、給食のお米を「味わって」いなかったのだろう? 自分のお米だと味わえるのに、人のお米だと味わえないんだよねー、という子どもの感想をもとに、他の子どもたちにも聞いてきました。これまでの給食を思い浮かべて、全員の子どもたちが、給食のお米は味わっていないといいます。その理由を聞くと、給食のお米は特徴のない普通のお米、毎日食べている当たり前の米、給食というものはお腹いっぱいにするために食べるもの、おしゃべりに夢中になっている。つまり、誰も味わっていないのです。
自分たちのお米を味わってもらってうれしい、という体験をした子どもたちなのですが、実は、自分は給食のお米を味わっていないということに気がついたのです。給食のお米は、誰がどこで作っているんだろう。新しい疑問が生まれました。 上越市の小中学校では平成13年10月から地元産100%のコシヒカリが使われています、子どもたちにふるさとの味を覚えてほしい、そう願って、上越市認定農業者会の皆さんが寄贈してくださったことがきっかけです。当時の会長の宮橋源太郎さんにお会いしました。 【作文引用】 宮橋さんの『コシヒカリをふるさとの味と思って食べてほしい』という言葉が私の心に残りました。新潟県はコシヒカリの産地。そのふるさとの味が分からなくなってしまうかもしれない。昔よりも今は米の味なんてどれも同じ、という人たちが増えている。そのことを宮橋さんはいったいどう感じているんだろうか。宮橋さんは自分で作った地元産コシヒカリを寄贈している。宮橋さんは認定農業者会会長で仲間がいっぱいいる。上越市全部の学校のコメだから、1人1俵寄贈してくれているのに、宮橋さんはなんと2俵寄贈してくれている。宮橋さんのおかげで、給食のお米に対する気持ちが変わった。お米なんてどれも一緒と思ったときもあった。宮橋さんに会って、人の苦労で作った米の味は違うんだと分かった。 私はシートに、自分が育てたお米だと味わうのに、なぜ給食のお米は味わわないんだろうと書いた。それは味わう気がなかったからだと思う。宮橋さんは、自分のお米を味わってほしいと言っていた。だから私も味わって、宮橋さんが喜んでくれたらいいなと思う。人の気持ちを考えている人だから、給食に米を寄贈できるんじゃないかと思う。 「食べる=人に良い」と書いて「食」。人に良い食べ物を作ってくれる宮橋さん、私は安心安全なお米を、食べるのではなく味わいたい。最初に言ったように、「食べる」と「味わう」では全然違う。宮橋さんは味わってほしいと願っている。私と宮橋さんは、同じ米作りをした人として、私はこれからご飯を味わって食べようと思う。――引用終わり―― ■「給食の残食」に「育てる側」の悲しみを感じる 子どもたちは自分の「食べる」を振り返ります。ある日、給食の後片付けの様子を見学しました。この日のご飯の残量は4kgです。この4kgを子どもたちは少ないと感じるでしょうか、多いと感じるでしょうか。全校児童が542人ですので、一人当たりにすると8g弱です。こう考えれば少ないと感じるでしょう。教室に戻って、1年間の米作りの写真を見ながら子どもたちに聞きました。
「みんなのなかで2kgの米を収穫した人いますか?」4-5人の手が挙がります。ほかの子どもたちは2kgに達していません。「4kgのご飯、炊く前はお米の状態で約2kg。つまり、あなたの半年間の仕事は、今日1日で食べ残されたご飯と同じ量なんです」 【子どもたちの声(音声)】 子どもたちは1年間の学習を通して、自分の「食べる」が多くの人や自然、地域に支えられていることを実感しました。そして自分を支えてくれている人の気持ちに共感できるようになったとき、自らの「食べる」を振り返り、これからの「食べる」を考えるようになったのです。 ■地域の皆さんと共につくる授業そして今、全校の給食の残量を何とか減らせないかという課題に挑戦するため、宮橋さんや調理員さんの思いや願いを、全校に広める学習に取り組んでいます。新しい学習指導要領では、総合的な学習の時間は、現行の110時間から70時間へと削減されます。しかし、高志小学校では教科との関連をさらに図ることで、70時間になっても現在と同じ質の総合を展開していく考えです。今日ご紹介した子どもたちの姿は、総合でこそ育つ姿です。米が子どもたちを変えたのではありません。まして、私が子どもを変えたのでもありません。米を通して出会った地域の皆さんが子どもたちを変えて下さいました。総合的な学習は、地域に生きる皆さんの力あってこそ充実したものとなります。これからも地域のみなさまの力をお借りしながら子どもたちと共に学んでいきたいと思っております。本日は大変ありがとうございました。 (要約文責:地域に根ざした食育推進協議会 事務局) |
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