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4 農林水産省消費・安全局長賞 <農林漁業分野> 上天草市4Hクラブ(若手農業後継者会)

ベジタブ先生―wants農業からのしょく農教育 
〜考えたい・やりたい・つなげたい農業のために〜

発表者:藤島幹大 さん

■地元と農業をもっと知ってもらうために

 「4Hクラブ」とは、若手農業後継者の集まりです。4Hの意味は、Hand、Head、Heart、Healthの4つのHを表しています。より良い農村、より良い日本を作るため、全国に組織された団体です。
 私の住む熊本県は、平成17年度小中学校の給食の都道府県産食材使用率で全国平均が23.7%となっているなか、それを大きく上回る42.9%と全国1位になった経緯があります。これは、地場産物の活用の推進がおこなわれており、とれたてで新鮮な農産物を使用することにより、栄養価の高い給食ができているということです。

 しかし、上天草は温暖な気候に恵まれ、農水産物が豊富にとれる環境にある一方、近年、少子高齢化がすすんでいる地域でもあります。また産業別就業者人口を見ると、1960年に58.7%もいた第一次産業就業者が年々減少し、2005年には15.5%となり、農業の盛んな上天草市でも農業離れがすすんでいることがわかります。
 そこで将来の農業や生活環境、地元の活性化などについて関心、不安を抱き、自分たち生産者に今、できることは何だろうと思うようになり、農業という職業の魅力を知ってもらうために地域の学校などと交流し、食や農について体験してもらうことが重要だと考えました。


■体験活動を通じ、食と農をつなぐ

 その頃ちょうど、熊本市の小学校の先生から「職業としての農業を話してほしい」と依頼され、今まで農業無縁だったためハウスなど見たこともない子どもたちの前で、職業講話のチャンスをもらいました。子どもたちは、想像していた農業のイメージと私たちの話の違いに、かなり驚いていました。
 後日、児童から感想文が送られてきました。その内容には「農業に手をのばしてみたい」「将来、植物関係の仕事につきたい」など、農業への関心が数多くあり、接することで農業の分野に関心が得られるという実感がありました。これをきっかけに、クラブ員全員に協力してもらい、より身近な地元で食育や農業の重要性を理解する活動を展開していこうと考えました。

 しかし今までは、4Hクラブが学校と交流したくても思うようにできないのが現状でした。それは、学校のカリキュラムがすべて決まっていたからです。そこで、私は上天草市の食育推進検討委員の1人となることで「生産者との交流が大切である」と発言し、同意を得ました。後日、大矢野ブロックの上小学校から「野菜の先生=ベジタブ先生」として、活動の依頼を受けることができました。

 上小学校は、「地域に根ざした食育コンクール2005」で最優秀賞を受賞するなど、食育等に力を入れており、学校が考えた食育ステップのもと、私たちはSTEP3「育てて、作って、食べる体験活動を取り入れよう」STEP4「育てた作物を学校給食で使い、みんなで食べて、感動を共有しよう」という項目に、地域人材ゲストティーチャーとして指導にあたらせてもらいました。
 それぞれの目的として、私たちのクラブでは、体験活動を通じて食育や農業の重要性を理解してもらう活動がしたいと思っており、学校側も体験活動を取り入れながら、食としての農業から、農業県だからこその食としての農業、キャリア教育も学んで欲しいという子どもたちへの願いがあったそうです。


■キーワードは、「wants 農業」

 食に関する問題に終着点が見えないなか、身近にできる解決策の一つは「地元のものを地元で消費する」ことであると考えます。生産者が見える食、感謝ができる食、環境に配慮した食、地元を考える食、自給率を考える食、これらは地場産物の活用でできることなので、力を入れて活動しています。また、これらのことを考え、行動していくことにより、担い手の確保や農業への理解、それを取りまく環境への変化につながると考えています。
 現在、日本は生活が豊かになり、食生活も贅沢になりつつあります。また、手軽に輸入農産物が手に入る利便性や経済効果等を過度に追求してきたため、ここ数年、食品についての問題が絶えません。

 上小学校の学校給食では、JAや学校給食納入者と連携し、地場産物の給食がすすんでおり、約6割の学校給食の食材を地域でまかなっています。しかし、このまま農業従事者が減少していくと、30年後の給食には、見た目は変わらない給食でも地元の食材がほとんど入っていないかもしれません。全国的にも国産の給食は少なくなっていくと思われます。そこで、上小学校での体験活動では、単なる農業指導ではなく、食と職としての農業を伝えることに重きをおき、取り組みました。

 その中で、子どもたちにもってもらいキーワードは、wants農業=したい・考えたい農業、やりたい農業、つないでいきたい農業でした。私たちが参加したのは主に、農業に関する講話とインタビュー、それから畑に出て野菜の栽培をいっしょに体験することでした。
 インタビューでの工夫は、「あなただったらどうしたい?」と記憶に残るような返答をし、実生活の中でふり返りができるようにしました。講話では、地域の農業の現状を伝えるだけでなく、自分たちが持っている情熱や誇りが伝わるようにしました。体験活動の工夫では、「農業って楽しい」「農業って命を育てる大切な職業なんだ」「私たちも成功したいな」ということを感じることのできる体験をいっしょにしました。

■体験活動は効果的

 上小学校での実施期間、実施期日、参加人数、経費の内訳ですが、作物の収穫と重なった時期は4Hの参加人数が少なく、貴重な時間をとっていただいた学校側には大変申し訳なかったと思っています。
 経費はほとんどかかっておらず、10月5日にクラブ員宅からミカンを寄付してもらい、ちょうどミカンの収穫時期に、子どもたちに食べさせてあげることができました。上小学校以外にも、熊本市の小学校、上天草市への職業講話を3回ほどおこないました。

 体験活動のようすですが、教室ではクラブ員が担当する野菜ごとに班を作って効率良く会話できるようにし、育てる野菜の特徴などわかる範囲で教えました。質問にもしっかり対応でき、給食を例にあげ、「毎日、生命を食べて生活しているんだよ」と農業の大切さも話せたと思います。また学級園で、手が汚れるのにも構わず、一生懸命苗の定植をしました。
 このような体験を通じて、子どもたちが自分の口にする農産物に興味を示してくれるのを肌で感じとることができました。家に帰ってからも体験学習の話題が出ることにより、食を元に家族の団らんが広がるのではないかと感じていました。

 実際に「食べ物の栽培が楽しくなったか」というアンケートを市内の全小学校の生徒1750人に実施し、その中で私たちが指導にあたった上小学校の2、3年生を全体と比較してみました。
 2年生の指導は1回しかなく、「楽しく思うようになった」との答えはプラス4.3%とあまり差はありませんでしたが、定植から栽培、給食までおこなった3年生では、同じ市内全3年生と比較したところ、「思うようになった」が55.9%もあり、全体よりプラス11.6%も多かったことから、私たちの活動の効果が現れたのではないかと思っています。
 市内では全小学校で体験活動をおこなっているそうですが、やはり教師だけでなく、実際に農業を営み、農業に喜びを見いだしているクラブ員による指導が効果的であったと考えられます。

■感想文の内容を目に見える形で分析

 また、今回接した児童・生徒のうち、約6割にあたる105人から感想文をいただきました。それをもとに、テキストマイニングという手法で体験の効果を分析しました。分析に使用したのはKH Coderというフリーソフトです。
 この手法は、文章を単語に分け、単語間の共通性や相関関係を発掘するというものです。分析の手順としては、感想文の全文をパソコンに入力し、データを抽出することで単語の使用頻度を調べました。また、それを並べ替えることで、対象学年ごとの傾向も分析しました。さらに、知りたい単語を意味的に分類・仕分けすることで体験の効果を可視化しました。

 全感想文の単語頻度のトップ20を見ると、上位に「ありがとう」や「楽しい」など、感謝・感動の言葉が多く、子どもたちのことを思い出し、うれしく思いました。学年別での使用単語数を見ると、学年が高くなるにつれて、単語数も多くなり、理解力が向上していることが伺えます。
 さらに単語の意味的分類をおこない、分類別の調査をしました。分類は、「感謝・感動」「興味・行動」「職業・農業」「農業体験・食育」「協調性」という5つのテーマに分け、右側の単語が使われるとカウントするように設定しました。その結果、対象学年の高度出現率を等高線グラフで可視化しました。低学年での体験では、素直に感謝や体験の言葉が多いことがわかります。
 3年生になると、興味や協調性が出てくることから、グループで考え行動する体験学習は、小学校中学年以上で効果的だと思われます。高学年の講話では、理解力が高く、興味・行動が起き、農業を職業として考えられることがわかりました。また、地元の中学生は、幼い頃から近所の農業を見ていることで体験しなくても農作業をイメージできているようです。しかし、農業に無縁の環境で育っていた子どもたちは、イメージすることができないことがわかりました。

 今までの分析結果から、農業従事者および関係者の理解・指導がより効果的であると考えられ、また体験活動は感受性の促進につながり、学年で理解力がちがうことや、育つ環境で大きく差が出てくることがわかり、考察として幼い頃からの農作業体験が食育・農業理解に効果的だということが改めて実証されたと思います。

■ベジタブ先生が保護者にも認められる

 これらの活動が徐々に地域に浸透し、各団体がリレー形式で食育活動を発表する食育祭りで活動の成果を発表する機会をいただきました。このとき、4Hクラブの存在を知らなかった人にも、「今後も応援するからがんばってね」と声をかけてもらいました。
 上小学校の3年生は劇中でベジタブ先生として登場し、栽培する過程での自分たちの感情や気持ちを発表してくれました。そのことで地域の各関係機関、指導にあたった児童に食育を通じて農業という分野を少しでも理解してもらえたのではないかと感じました。

 また、これらの活動が、学校では学級通信や子どもとの会話の中で親にも伝わり、本や新聞などメディアを使って掲載されることにより、多くの人に活動の内容を知ってもらえたと思います。保護者から届いた手紙の中に、「将来の夢がないなら4Hクラブに入ってベジタブ先生になったら? とアドバイスしておきました」といった一文がありました。保護者にとっても農業が子どもに選んで欲しい職業の一つになったのではないかと感じ、キャリア教育としての成功の一歩になったのではと思いました。

 その後は、毎日給食で飲んでいる牛乳ができるまでのことを子どもたちが勉強するために、酪農を経営しているクラブ員の牛舎にレンタカーで50分かけて勉強しに訪れました。現場では、生きている牛にミルクを飲ませたり、どうやってミルクを絞るかなど、何もかもがはじめてのことだったので、目を輝かせながら体験していました。最初は自分たちが学校に行くばかりだったけど、地域とのつながりができてうれしく思いました。今ではそのクラブ員は「牛乳先生」と呼ばれているそうです。

■これからも「wants 農業」を継続させるために

 その他に、生産者だからできることはないかと考えたときに、花を栽培しているクラブ員が多いことから、食育だけでなく、花育もしてみようということになりました。
 栽培上、どうしても短いものがでてしまうのので、それらを持ち寄り、イベントでフラワーアレンジの体験をしてもらうことにしました。
 誰がどのような花を、準備はどのようにしたらいいかなどの打ち合わせを重ね、イベント当日は年輩の方だけでなく、子どもにも体験してもらい、将来花を身近に感じて欲しいと指導しました。

 現在、児童の方から「学校に来て欲しい」という声や、他の学校からの依頼、上小学校においては2週間に1度、農業指導依頼の用紙を担任にまわすことが必須項目になりました。また、新聞でも農業体験の効果を取りあげており、今後も食育や体験活動を地域ぐるみですすめることにより、農業という職業のキャリア教育の推進や他産業との連携で地域の活性化につながれば、と考えています。

 今後の課題は継続性だと思います。未来の農業と食育につなげるためにも、この「考えたい・やりたい・つなげたい」wants農業を継続していかなければなりません。そのためには上天草市、熊本、そして日本の農業について課題認識を4Hクラブ員だけが持つのではなく、関わるすべての人たちの共通理解が必要です。現在の農業従事者ももちろんのこと、若い世代の農業従事者が自発的に将来のことを考え行動することが、次世代の担い手の確保や地域の活性化につながると思います。このような取り組みを全国の4Hクラブにも普及し、日本全体の地域の活性化につなげていきたいです。ご静聴ありがとうございました。

(要約文責:地域に根ざした食育推進協議会 事務局)


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