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2 農林水産省消費・安全局長賞 <食生活向上分野> 神奈川県平塚市
 神奈川県立平塚農業高校食品科学研究班

「ゆっくり食育・やっぱり食育」から、食育の元祖「村井弦斎」へ
〜再現した弦斎レシピが学校給食に〜

発表者:山田早苗 さん

■これまでの食育活動

 私たちの研究班では、食育基本法が施行された2005年、2006年の食育推進基本計画の発表を受け、高校生に対する食育活動を行いました。さらに、2007年には子どもに対するメタボリック症候群の基準がつくられたこともあり、小さな子どもたちへの食育活動も行いました。

 よく「野菜のきらいな子どもが多い」と聞きますが、野菜は身体の調子を整える食品として非常に重要です。そこで平塚市役所に相談して、平塚市内の保育園、幼稚園に協力してもらい、「野菜の好き嫌い」アンケートを実施しました。
 その結果、肉や魚と比べて野菜のきらいな子どもが多く、4人に1人が「野菜はきらい」と答え、特にナスやピーマンでは半分以上の子どもが「きらい」と答えました。

 そこで私たちは子どもたちに野菜を食べる大切さを知ってもらい、野菜を実際に食べてもらうにはどうしたらよいか、話し合いました。そして、アンケートの結果を参考にして、「きらい」が2番めに多かったピーマンとニンジンを入れたクッキーを作りました。

 はじめは「プクプクはなちゃん」という食育の紙芝居と食育カルタを持って保育園を訪問し、実際に野菜クッキーを食べながらピーマンとニンジンの着ぐるみ人形と遊ぶかたちで食育活動を展開していましたが、今ではこれらに加えて「おもちゃのチャチャチャ」の曲にのせて歌う「食育チャチャチャ」という替え歌を作り、内容をグレードアップして活動をつづけています。これは実際の訪問の風景です。

 さらに一昨年からは、牛乳を残さず飲んで欲しいという思いから、酪農家のお兄さんといっしょに牛乳の加工品についても説明をしました。白い牛乳がバターやチーズ、生クリームに変身することを聞いて、子どもたちは大変驚いていました。
 ここまでが私が1年生のときに、先輩達と活動してきた内容です。

■食育の元祖「村井弦斎」を知っていますか?

 これからの発表は、高校3年生として新たに平塚市に目を向けて活動をしてきた内容です。

 皆さん、村井弦斎という人を知っていますか? 私たちの学校から歩いていける場所に「村井弦斎公園」という人の名前がつけられた公園があります。遊んだ記憶はありませんが、公園の存在だけは小さな子どもの頃から知っていました。しかし、まさかこの人物に興味を持って活動するとは夢にも思っていませんでした。

 私たちの研究班では、食育基本法が施行された2005年から食育活動をはじめましたが、さらにその活動を発展させようと、「食育」という言葉や考え方の原点を調べているなかで、村井弦斎という人物が浮かび上がってきました。弦斎は、今から100年以上も前に『食道楽(しょくどうらく)』という本の中で食育論について述べています。
 100年以上も前にこんなことを述べていた人物がいたこと自体、驚きでしたが、この人物が私たちと同じまちに住み、冒頭に述べた公園の名前の主だとわかったときには、ほんとうにびっくりしました。

 平塚の地に暮らした村井弦斎ですが、私は生まれてからずっと平塚市に住んでいるにもかかわらず、弦斎のことを何も知りませんでした。もし、食育の活動をしていなければ、これからもずっと知ることはなかったかもしれません。そこで今回は、この食育の元祖ともいうべき村井弦斎にスポットをあてながら、食育活動をさらに発展させることにしました。

■わがまち平塚で食育を語るなら…

 まず、平塚に住む子どもたちが村井弦斎という名前と『食道楽』という本をどのくらい知っているか、小学生と中学生にアンケート調査を行いました。その結果、村井弦斎という名前を知っていたのは、小学生で54.5%、中学生で52.8%でした。
 弦斎の名前を知っている割合が多かったのは、平塚では小学校の給食に「弦斎カレー」が出ることがあり、弦斎が何をした人かは知らなくても名前だけは知っているという人が少なからずいるようです。しかし、「弦斎カレー」と村井弦斎が結びつかない人も多くいることもわかりました。

 一方『食道楽』という本については、8割以上の小・中学生が知らず、高校生の私も知らなかったことなので、予想通りの寂しい結果となりました。
 そこで、わがまち平塚で食育を語るのであれば、村井弦斎を避けては通れないと思い、私たち自身も弦斎について勉強をし、それをもとに食育に関する知識を深め、多くの人に村井弦斎と食育について伝えていくことにしました。

 次に、弦斎の書いた『食道楽』について調べることにしました。『食道楽』は1903年、新聞に連載され、その年には単行本となり、大ベストセラーになりました。タイトルからはただのグルメ本を連想しますが、その内容は食育論、栄養論など、メッセージ性のあるものとなっています。
 さらに、当時としてはハイカラな料理名が数多く登場し、その数なんと600を数え、一部はレシピとしても紹介されています。また、カロリー計算や腐ったものの見分け方など、実用書としての側面もあります。

 私たちの研究テーマである食育についてはどうでしょうか。食育論の項で、「体育よりも知育よりも食育が大切ではないか」、つまりキチンと食べなければ勉強や運動もできないということを書いており、知育・徳育・体育を重んじた当時の教育を考えれば、弦斎がふつうの人にはない独特な考えの持ち主だったことがうかがえます。
 そして弦斎は、脚気はビタミンB1不足が原因で起こることがわかる前に、「米の滋養分は糠にあるから玄米で食べるほうが非常に栄養になる」と書いており、弦斎の幅広い知識と洞察力には目を見張るものがあります。

 さらに1920年には、18年間の研究を増補した『食道楽』を出版し、食物の原則、料理の原則、食事法の原則について述べています。これらを読むと、弦斎が時代を超えて現在の地産地消やスローフードのムーブメントを予測していたかのように思えてきます。

■「弦斎カレンダー」と「弦斎米粉カステラ」に取組む

 このように見ていくと、当時は当たり前過ぎて誰も意識していなかった地元で穫れた季節の旬のものが一番よいことに、弦斎は既に気づいていたことがわかります。

 そこで私たちは、この季節というキーワードをヒントに、弦斎の言葉と料理のレシピを紹介するカレンダーを作ってみることにしました。できあがったカレンダーは、幅広く配布することを考えていたので、載せる料理については大人の意見も必要と考え、食育活動で交流のある食育推進団体の方々に相談させていただきました。

 そして、『食道楽』のレシピを再現した料理4品と、地産地消をテーマに地元の特産品を使ったオリジナル料理8品を実際に作り、写真撮影を行いました。これらに加えて、多くの人に弦斎のことを知ってもらうため、弦斎の足跡を記した年表と弦斎にまつわる話題を紹介するページ、さらに料理のレシピを載せたページもつくりました。

 カレンダーは、A4サイズの1ヶ月めくりとA3サイズの2ヶ月めくりの二種類をつくり、平塚市役所へ持っていったところ、「これなら売れるよ」と言っていただき、社会教育課が窓口となり、A4サイズのカレンダーを販売していただきました。
 また、A3サイズのカレンダーは平塚市内にある46の小・中学校と10ヶ所の公民館に配布して、弦斎の紹介をすることができました。

 また、小・中学校を訪問するにあたり、『食道楽』でも紹介されているカステラを作ってみることにしました。『食道楽』では原料に小麦粉を使っていますが、私たちは玄米と地産地消の話をするために、平塚産キヌヒカリの玄米と白米を粉にして、小麦粉をまったく使わないカステラ作りを試みました。
 そして、試行錯誤の結果、玄米粉と米粉を1対1の割合で作る「弦斎米粉カステラ」を完成させました。これを訪問した小・中学校で食べてもらったところ、「小麦粉のカステラと少しちがう食感がおいしい」と好評でした。

■給食で再現! 『食道楽』のレシピ「野菜飯」

 このカステラのほかに、弦斎と食育について説明するためのスライドや、地産地消の話をするために地元の特産野菜のカードゲーム、それに弦斎カレンダーなどを持って小・中学校を訪問し、総合的な学習の時間を利用して、100年前に地元で活躍した村井弦斎の紹介をしました。

 しかし、小・中学校は休みがほとんど同じで、訪問できる時間に限りがあるため、効果的な弦斎の紹介方法として、学校給食への弦斎レシピの導入を試みました。
 給食メニューにできそうな『食道楽』のレシピを再現し、学校給食の栄養士さんに食べていただきました。そして地産地消も考え、地元産の野菜をたっぷりと使えることから、『食道楽』の米料理百種 西洋料理の部第九に書かれている「野菜飯」が採用され、子どもたちに食べてもらいました。

 そして、88%が野菜飯を「おいしい」と答え、85%が「弦斎料理をまた食べたい」と答えてくれましたが、「弦斎のことをわかった」と答えたのは少し少なく残念でした。二回目を予定しているグラタンに期待したいと思います。

 また、玄米粉を使った弦斎米粉カステラは、地元のイベントなどで試食や販売をしていますが、イベント以外でもお店で販売してもらえる地元の特産品を使った弦斎商品を作りたいと考え、県下一の生産量を誇る地元産のサトイモと、生地に玄米粉を入れたパンやパイを試作しました。
 そして大磯にあるパン屋さんの「パンの蔵」さんと共同開発をすすめ、ねっとりとしたサトイモとサクッとしたパイ生地の食感を活かした商品「弦斎米粉パイ」が完成しました。湘南の海をイメージしてシラスを合わせた「海のパイ」と、平塚の農家さんが育てた落花生を使用した「山のパイ」ですが、味噌で味付けした和風味のパイです。

 

 

■弦斎の食育論は100年経っても新しい

 最後に、私たちが村井弦斎について調べていて一番驚いたのは、食育論です。

 2005年にできた食育基本法の前文に、「食育を、生きる上での基本であって、知育・徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付ける」と書かれていたことを思い出し、読み比べてみたところ、表現こそちがいますが、同じ意味のことが書かれており、これには鳥肌が立つほど驚きました。

 晩年の弦斎は、自身の理想とする食べ物や料理方法、食事のしかたを、自らを実験台にして実践したことから、まわりからは奇人変人あつかいされたと言われています。時代を100年も先取りした弦斎の考えは、おそらく当時の人たちにとって到底理解のできないことだったのでしょう。

 しかし、100年後に生きる私たちにとっては食育の元祖であり、地元の誇れる人物です。これからも弦斎から学び、多くの人に伝える活動をしていきたいと思います。
 以上で発表を終わります。

(要約文責:地域に根ざした食育推進協議会 事務局)


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