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3 農林水産省消費・安全局長賞 <教育分野> 福島県南相馬市
 南相馬市立福浦小学校

大地の恵み “福浦 食の楽校” 〜子どもに育つ郷土愛・深まる世代間交流〜

発表者:木村政文 さん

■子ども一人ひとりに郷土愛を育むために

 皆さん、「さなぶり」をご存じでしょうか? 四国や九州では「そのぶり」といいます。「さなぶり」は田植えが終了したことを神に感謝し、祝うことです。そこで、田植え作業が終わった後に、赤飯を全校生徒に食べさせたいと考えました。「餅類はきらいな子が多いのですよ」という教職員の心配は、「赤飯っておいしいね」「はじめて食べました」と、赤飯を食べる子どもたちの笑顔や会話からどこかに飛んでしまいました。

 私たちが小さい頃はどの家でも、田植え後には赤飯を食べたり、近所に配ったりして、田植えの労をねぎらい、豊作を祈ったものです。しかし今では、機械化により、ほとんど見られなくなりました。

 本校では、食農体験や地域の伝統的な食文化にふれることで、子ども一人ひとりに郷土愛、のぞましい人間関係、豊かな心を育むことができると考えております。
 本校の活動の目的は、時代を担う子ども一人ひとりおよび保護者、地域住民を対象にして、学校が核となり、田や畑をフィールドに様々な交流体験を通した活動を展開することで、食育の理解・促進や地域の食文化の継承を図ることです。


■活動で求める子どもの6つの姿

 本校では、活動で求める子どもの姿を6つ設定いたしました。

○地域の気候・風土に根ざした食文化を理解し、郷土愛を育む子ども(郷土愛)
○食を通し、自然や人々との関わりのなかで感謝の心を育む子ども(感謝の心)
○楽しい食事を通して、望ましい人間関係や豊かな心を育む子ども(望ましい人間関係・豊かな心)
○準備・会食・後片づけなどを通して、協調性や社会性を育む子ども(協調性・社会性)
○食べ物のはたらきや栄養についての理解を深め、生活に活かす子ども(生活に活かす)
○望ましい食事の習慣を身につけ、自己管理能力を高める子ども(自己管理能力)

 

 

 

■実践の3つの視点

 本校の実践の視点は3つあります。

 「視点1」は、食に関する指導への組織的な取り組みです。学校教育のなかで、食育を組織的・継続的にすすめるためには、教職員の理解と意識の向上、教育課程の位置付けが大切です。そこで本校では、食育を校長の学校経営グランドデザインに位置付けるとともに、食育アクション2009、食育全体計画を作成し、より具体的な学校や学年の指導目標を設定しています。
 また、食育推進コーディネーターを中心に、食育と教育活動全体との調整を図り、給食の時間を核として学級活動や学校行事、各教科、道徳、総合との関連を踏まえた取り組みを行っています。学校経営グランドデザインについては、別紙配布資料をご覧下さい。

 「視点2」は、食に関する教育活動の充実です。ここでは次の2点に取り組んでいます。まず、食農体験、食文化体験を中心とする体験活動の充実です。これは、本校で取り組んでいる食育の柱となる活動です。農作物の栽培や収穫体験、地場産品を使用した郷土食や行事食などの調理体験、食育関係機関とのパートナーシップの充実に取り組んでいます。
 2点めは、各教科特別活動における指導の充実です。学校給食を生きた教材として活用し、各教科に位置付けた指導内容と食に関する指導を結びつけ、充実を図っています。

 「視点3」は、家庭(保護者)との連携です。食育を一層すすめるためには、家庭や保護者の食育への意識・関心を高める必要があります。そこで本校では、学校・家庭が担うべき役割を明らかにし、連携をすすめています。まず学校の役割は、食育の啓発です。
 そのために、後ほどふれますが、「福浦小 食の楽校(がっこう)通信」や校長が作成の「職員室便り」、学年や学級便りなどで随時、食育に関わる情報を発信しています。家庭の役割は、基本的な生活習慣の育成です。朝食を摂ることや早寝早起きの習慣化など、食に関する家庭でのしつけ、量や内容を重視した食事の摂りかたなどが重要です。そこで、保護者といっしょに食に関する活動や行事を行うことによって、家庭の役割の意識化を図り、少しずつ実践していただくようにしています。

■水田、畑での食農体験

 つぎに、本校の食育の柱である食農体験について説明いたします。豊かな食の学びが感性を磨き、将来のより望ましい食生活をつくっていけるように、水田や畑などをフィールドとした体験交流、世代間交流を行っています。子どもと保護者だけでなく、祖父母や地域住民とも交流することは、食への関心が薄い世代などに対する啓発とともに、豊かな人間性や感謝の心を育む基盤となると考えます。

 また、米や野菜などの栽培や収穫を通して、生産者と直接ふれあうことで、生産者の思いや工夫の理解、地域の産物への理解、地場産品などへの関心など郷土愛が育まれます。
 水田をフィールドとした体験では、米作りの体験活動を行っています。米は福浦の季節風土に適した作物であり、種まきからはじまり、田植え、稲刈りなど多くの作業を経て収穫できるので、生産者の工夫や努力に直接ふれたり、収穫の喜びをともに感じたりすることができます。

 米作りは、体験活動の中心です。田植えは、3年生から6年生までの子どもたちが中心となり、全校生徒、保護者や生産者、地域住民の皆さんと行っています。自分の足で感じ取る土と水の感触、田植えの大変さなど、生産者の苦労を実感しました。秋には稲刈りを行っています。

 現在、稲刈りはほとんど機械化されていますが、本校では鎌を使って稲を刈り、自分たちで束ね、はさがけをします。また、脱穀も子どもたちの手で行っています。脱穀が済んだ藁は、クリスマスリースに活用しています。
 藁をリースの土台にし、きれいに飾りつけられたクリスマスリースは、12月になると子どもたちの家々に飾られます。種籾蒔きからはじまって、稲刈り、脱穀など、子どもたちは農業の大変さ、収穫の喜びを感じました。

 「ご飯も残すことなくきれいに食べるようになり、食への関心が高まってきています」 このような保護者の感想から、具体的な活動や体験が感動といった子どもたちの感性を磨き、学習の基盤や望ましい食生活、郷土愛、感謝の心を育んでいることがわかります。

 また、畑をフィールドとした体験では、サツマイモやキュウリ、ヒラタケ、ナメコ、シイタケなどの栽培を行っています。サツマイモは栄養価が高く、苗の植え付けから収穫まで体験できます。今年は例年になく豊作で、軽トラック3台ほどになり、子どもたち、保護者、地域の皆さんで収穫を祝うとともに、適した時期に無理なく作られる旬の食べ物への理解が深まりました。

■収穫の喜びを感じながらの食農体験

 2年生は、生活科の時間を活用して、毎年キュウリの栽培を行っています。苗の植え付けから花の観察、収穫、そして試食と、一連の体験を通して、生産者への感謝の気持ち、身体を冷やすキュウリの効用など、実感として捉えることができました。また、夏休みでは家庭でキュウリの酢の物、ぬか漬けなど、キュウリを使った料理に挑戦した子も見られました。

 写真は、6年生のナメコの菌床の伏せ込み栽培、シイタケの原木へのコマ打ち体験のようすです。収穫したナメコは早速、ナメコ汁にして食べました。この体験では、風通し、排水、保温など、キノコの生育に適した条件を知ることで、生産者の苦労や郷土の自然への理解が深まりました。

 3年生は、ブナシメジやヒラタケを栽培しました。今年はじめて挑戦しましたが、豊作に収穫の喜びを感じるとともに、早速給食の材料に取り入れ、全校生徒で食しました。他の学年の子どもたちから、「おいしかったよ」という感謝の言葉にますますとびっきり笑顔の3年生でした。

 5年生は、福島県喜多方市で四泊五日の農家生活体験をしてきました。この時期の子どもにとって望ましい勤労観、職業観はもとより、自然体験、社会体験など充実を欠かすことができないと考えます。
 「農家の方と直接ふれ合い、家族の一員として農作業や民泊を行ったことで、地域の特性に応じた作物への理解、他人と協調できる協調性、挨拶や言葉遣いなどの規範意識などが育つとともに、改めて自分の家族や郷土を見直すきっかけになりました。

 うどん作り、花ずしづくりに参加しましたが、家ではなかなかやらないことなので、親もとても楽しく活動しました。子どもにも「こんなむずかしいものを自分で作った」という喜びがありました。親子で参加したので、家庭での話題も増え、子どもも家で台所に立つ機会が多くなりました」
 これは調理体験後の保護者の感想です。

■地域の食材を活用した食文化体験

 それでは、次にもう一方の柱である食文化体験について説明いたします。地域の食材を活用した郷土料理などの調理体験を通して、安全安心な食材への関心、おいしさの発見、社会性の関与、郷土愛などを育むとともに、親子でいっしょに体験することで食育の啓発につながると考えています。

 そこで、PTA学年行事で学年に応じ、親子で地場産品を使用した調理体験を行っています。2年生は親子花ずし作りを行いました。福浦地区で栽培している米は化学肥料、農薬が2割以上削減されている安心安全な米です。
 花ずしは太巻きの一種。花や果物などの模様の巻きずしで、お祝い事があるときに食べる郷土食です。保護者も「花ずし作りははじめて」という方が多く、講師の先生に親子で教わりながらの調理体験でした。この体験を通して、食材の関心、食べることの楽しさの実感など、感謝の心や郷土への理解が深まりました。

 3年生は、地元産の小麦粉からピザを作る「親子地産地消ピザ作り」を行いました。地元産の中力粉と強力粉をブレンドし、イースト菌と混ぜたり、トマトやタマネギを切ったり、3年生とは思えないほどの腕前でした。
 トマトの甘い香りと焼き上がった生地の食感に、食べることの楽しさを感じた子どもたちです。地元で生産される安心安全な食材にふれることで、地産地消の大切さを改めて認識することができました。

 他にも、4年生は地元で作られているカボチャ「九十九里」を使ったパウンドケーキ作り、5年生は地元産の「キヌアズマ」という小麦粉をつかった親子うどん作り、6年生は自分たちで栽培した「コガネモチ」を使って餅つきを行いました。キナコやナットウ、ダイズ、ジュウネンなども地元産のものを使用し、地場産にこだわりました。親子での体験が小学校生活最後の思い出作りになりました。

■「浦ざと秋のうめぇものまつり」を開催

 さて、本校の食育への取り組みを発展させ、子どもたちが栽培した餅米、サツマイモ、ヒラタケなどを使用して、餅つきや芋煮、焼き芋などを行い、食を視点とした地域の世代間交流を図る目的で今年からはじめた「浦ざと秋のうめぇものまつり」について説明いたします。
 うめぇものまつりは、世代間、行政区間を越えて、地域が一体となったまちづくりを目指す福浦まちづくり委員会と、本校の食を視点とした地域の世代間交流の考えが一致し、収穫祭の要素を兼ねてはじまりました。

 地域の方々と千本杵を使った餅つき。餅米は子どもたちが栽培した「コガネモチ」が使われました。煙に目をこすりながらの焼き芋、保護者の皆さんは「立派なサツマイモだね」といいながら汗だくでサツマイモを切り、サツマイモスティックにして地域の方々にふるまいました。
 そして、婦人会の皆さんと作った芋煮。地元産の小豆を使った「あんこ餅」を校庭に集まった地域の皆さんといっしょに食べる子どもたちの姿から、収穫の喜び、食べることや人とふれ合う楽しさなどが感じられました。

 また、老人会の皆さんとの昔遊びの道具作り。老人会の皆さんも、子どもたちとふれ合うことで「すごいね、上手だね」といった子どもたちの反応に自信がわいてきたと話されていました。投げ餅やフィナーレを飾る子どもたちによるお囃子……と、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

 この祭りでのとびっきり笑顔の子どもたちの姿は、食を通して本校で求める子どもの姿そのものであると感じました。また、地域の皆さんにも、この祭りを通して「自分たちの地域は自分たちで守り、育てる」という郷土愛が高まり、誇りや生きがいにつながっていただけたかと思います。

■「福浦小 食の楽校通信」

 食育の啓発の柱である「福浦小 食の楽校通信」について説明いたします。推進の視点にも取り上げていますが、食育をすすめるためには保護者や地域住民の食に対する意識の高揚、そして連携が大きなポイントとなります。
 そこで本校では、食育関係機関とのパートナーシップを図りながら、「福浦小 食の楽校通信」を活動ごとに随時発行し、学校の取り組みへの理解はもとより、食育に関する保護者、地域住民の啓発を行っています。

 また、まちづくり委員会でも「うらざと」を発行し、食への関心、世代間交流を呼びかけるなど、本校の食への取り組みが地域の食への関心を一層高めるとともに、元気な地域づくりへの起爆剤につながりました。

 

 

■今後の課題は5つ

 今後の課題は5つあります。
 1つめは、校長をはじめとした教職員の食に対する意識改革を一層すすめるとともに、食育推進コーディネーターを中心とした組織的な取り組みを行うことが必要です。
 2つめは、学校において食農体験などを効果的にすすめるためには、体験ありき…ではなく、体験の狙いを明確にするとともに、他教科などとの関連を明らかにして教育課程に位置付けることが必要です。
 3つめは、子ども一人ひとりに食べ物のおいしさや、食べることの楽しさを十分味わせたり、食べることそのものへの価値観を形成したりすることが必要です。
 4つめは、学校の取り組みの情報発信を核として、様々な場面で保護者や地域住民に対して食育の啓発を図ることが必要です。
 5つめは、学校において食育を効果的にすすめるためには、専門的な知識を有する人材の活用などにおいて、食育関係機関とのパートナーシップを今後ますます図る必要があります。

 私たちは、1年間を通して稲を育ててきましたが、一番嬉しかったのは、生産者の方が応援の案山子を立ててくれたことです。おかげでがんばることができました。
 本校の子どもたちは、食農体験や食文化体験を通して様々な方にふれ合いながら、感謝の心や郷土愛、社会性などを身につけてまいりました。
 これからも次の世代の親となる子どもたち一人ひとりに、食を大切にし、生きる力を育んでまいりたいと考えます。どうもご静聴ありがとうございました。


(要約文責:地域に根ざした食育推進協議会 事務局)


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