地域に根ざした食生活推進コンクール2001 【前のページに戻る】

地域に根ざした食生活推進委員長賞

教育分野

「棚田探検からきゅうきょくの桜もちへ」

上勝町立上勝小学校4年(徳島県勝浦郡上勝町)

【活動の内容】

 第4学年で1年間にわたって「総合的な学習の時間」と教科・領域を相互に関連づけた全体的な教育課程で取り組んだ実践です。1年目は「棚田学習」を実践しました。そのカリキュラムを評価し、2年目は「きゅーきょくの桜もち」を実践中です。


1 棚田に学ぶ

(1)上勝紹介をしよう
 子どもの思いから始めて地域の人からの聞き取りや田んぼでの体験を通じて学ばせたいと考えました。そこで棚田と子どもたちの出会いを自分の関心のある地域の「もの」や「こと」をカメラで取材することから演出しようと考えました。上勝らしいと思う場所を写真に撮ってきてもらいました。朝の会で写真を撮ってきた子にお米作りや田んぼの話をしてもらいました。


 「これなあに?」、「棚田だよ」、「棚田って何?」、同じ上勝町の子どもでも棚田を知っている子も知らない子もいました。家でお米を作っている子,手伝ったことのある子,手伝ったことのない子にもたんぼへの関心の違いがありました。「棚田のことを案内してくれる人がいるから,田んぼを見に行こうか」と投げかけると,行きたいという声が起こりました。


 見学に訪れた樫原の棚田は全国棚田百選(農林水産省認定)になっている棚田です。「棚田を考える会」の谷崎勝祥さんに案内されて棚田を体感しました。用水路の堰や水田の幅よりも高い石積み,肥料として重要な草を刈るための石がけに出っぱっている石など知恵と技の一端を垣間見ることもできました。谷崎さんには学校にもう一度来ていただき動物の被害や水の話,「風が米を育てる」,「ゆっくり作るからおいしいお米ができる」,といった心に残る言葉で米を育てるたいへんさや喜びを語っていただきました。


(2)全国棚田百選に手紙を出そう
 NHK教育放送の「たった一つの地球」で「棚田」を視聴した時のことです。番組では新潟県安塚町の棚田が紹介されていました。子どもたちは樫原の棚田と生き物が違うことや作られなくなった田んぼが土砂崩れを起こしていること(上勝町ではウノハナが咲いている)に気づきました。「先生、棚田っていろいろあるんだね」、その言葉をきっかけに、「他のところの棚田のこと知りたくないかな」、「棚田のある全国の町や村に手紙を出そうか」と持ちかけました。


 上勝町のパンフレットとお願いの手紙を添えて一人で2カ所多い子は5カ所に手紙を出すことになりました。届いた返事には手紙と市町村の紹介パンフレットや棚田の写真が入っていました。どの手紙からもそれぞれの地域の棚田への思いや保全にかける願いが伝わってきました。また過疎と高齢化、耕作放棄といった共通の問題を抱えていることが分かりました。さらに上勝の棚田についてほめてもらえたり、自分たちの学習をはげましてもらうことで、外の目から地域の棚田を評価することができました。


 全国棚田百選のある市町村に手紙を出したとき、上勝町の紹介パンフレットを手紙に添えることになりました。子どもたちは放課後や休日に保護者の協力も得て、いろいろなパンフレットを集めてきました。ところが、棚田を紹介したものがなかったのです。すると自分たちで作ろうという話になりました。12月にどんなパンフレットにするかコンクールを開きました。作ってみたいパンフレットの見本を一人1点の返事に届いた各自治体の中から選び、その理由を添えて紹介しました。全員が投票して自分たちの作るモデルが決まり、3学期はパンフレットを作っていきました。


2 きゅーきょくの桜もち

(1)棚田で米作り
 1年目に棚田に主体的に関わっていくことができたのは、棚田の持つ豊かな教材性の力でした。その一方で、4年生の段階では特にもっと食にかかわる直接体験をたくさん盛り込んだ学習にしたいという反省点も残りました。さらにバケツではなくて、「棚田」でお米を作りたいとも考えました。棚田でお米を作るためにはその活動を支えていく教材が必要です。それは子どもたちにお米を作りたいという願いを持たせたり、お米を作って何かをしたいという活動の目標になるものです。


 1年目は、うるち米を育てたのですが、加工品がたくさんあるもち米の方がたくさんの体験を盛り込めるし、昔の道具を使いながら地域の方にも教えてもらえる体験が期待できそうです。そこで、子どもたちが簡単に作ることのできるお菓子で「桜もち」が思い当たりました。桜もち用の葉っぱの最大の生産地は、西伊豆の松崎町で全国の70パーセントを生産するといいます。上勝町にも同じように葉っぱを産業化している「彩(いろどり)」があります。ここからも交流の視点が生まれてきます。


(2)米作りが学校全体へそして地域へ
 初めて桜もちを作った時には、桜の葉っぱを用意できませんでした。それじゃあ、自分たちで桜の葉っぱを用意して本物の桜もちを作ろうと決まりました。材料の白玉粉を用意するにはもち米が必要なので、地域の方に田んぼを借りて、自分たちでもち米を作ろうと米作りはスタートしました。籾蒔きから育苗そして稲刈りまでJAの方に指導をいただき、棚田での米作りが可能になりました。


 当初は4年生だけが総合的な学習で収穫したもち米を使う予定だったのですが、これだけたくさんのもち米があるんだったら、全校で餅つき大会をしようと活動が発展しました。保護者や地域の方の協力と歓迎を得て、12月に行事が盛会に終わりました。


(3)桜もちから合成着色料の問題へ
 今年度の学習は、昨年度の棚田学習の反省から、実際に棚田で米作りをしたいという意図がありました。棚田での稲の生長を一年を通して眺めることで、子どもたちはたった一粒の籾も一つのいのちとしての輝きを持つこと、米がそうした輝きの結晶であることを心と体でつかんできました。多様な生き物や自然と共に生きてきた人々の知恵の偉大さに触れながら生態系の一員としての自分を発見したり、いのち、歴史の重み、自然と共生した営みである農業への気づきなど多くのことを学ぶことができたと考えます。稲の生長を通して育まれた米への深い愛情や「知恵」を先人から受け継ぐことの重要性も、子どもたちは知ったことでしょう。社会科でも棚田は、経済効率重視の風潮や担い手の減少などにより荒廃化が進み、今や存亡の危機に直面しているという日本の中山間地農業の問題にも触れてきました。


 さらにこうした棚田や農業の課題だけでなく、食の今日的な課題にも学びが広がって行きました。子どもたちが初めて桜もちを作ったときに、ほんの少量でピンクに染まる食紅が大きな関心事となりました。「どうやって作るんだろう」「あんなに色が付いて大丈夫なのかな」といった疑問が生まれ、身近な食品の着色料調べから食紅は安全性に問題があるという情報に出会いました。心配になった子どもたちは学校栄養士さんに意見を聞きました。


 「私は給食には、危険かもしれないものは使いたくない」という強い思いに出会って、子どもたちは、できれば食紅を使わないで桜もちを作ってみたいと、食紅にかわる自然の着色料を探し始めました。その中でアズキや赤米、紫イモが残り、その煮汁を出して桜もちに使えるか、和菓子職人の方に教えてもらいました。
 その間、子どもたちの考えは揺れてきました。危険だと言うけどよく調べてみれば、ぼくたちはほとんど毎日食べているよ、きちんとした検査を受けて安心だと合格したはずだよ、という意見。お世話になった方を招待して桜もちパーティをするんだからきれいなピンク色のもちを出したい、自然のものは色がはっきりしない、そんな思いもありました。


食紅はいやだからできれば使いたくない、でも食紅を使っても仕方ないよ、とさんざん悩んできました。食紅を使っている製菓会社、食紅の製造会社、和菓子屋さんに手紙を出して質問してみました。「天然のものの中から安全なものを選んで使っている」、「量の問題ですから大丈夫」、「いっさい食紅は使わない」とさまざまな回答がありました。またまた意見が分かれて、子どもたちは自分たちの作る桜もちには食紅を使うかどうかで、3ヶ月あまり議論してきました。


そして気づきました。「きゅーきょくの桜もち」に込められた「究極」のメッセージとは、「時間をかけて自分たちの手で作ることで、お世話になった方にもてなすんだ。」と言うことを。ピンクの色よりも手作りのものを出したいと、アズキ、赤米や紫イモで染めた桜もちを作ることにしたのです。2月14日には、米作りや桜もちでお世話になった15名の方を招いて桜もちパーティをする予定です。


3 棚田の持つ教育力
 「(前略)棚田はとても大切なものです。ぼくも棚田を守っていきたいです。棚田を守るには、棚田のことをもっと勉強していろんなひみつを知りたいです。生き物のことやお米作りのことや石がきのことや山や谷のことをもっと知りたいです。ぼくたちの町の棚田のことがじまんできるようにがんばります。」


 棚田にかかわり子どもたちは対象に働きかけて主体的に学んできたように思います。それは棚田や米の持つ豊かな教材性の力でもあります。これまでの学習が次の課題を生み、新たな学習へとつながっていく、そうした連続した主体的な学習活動の中に子どもたちの「生きる力」は育まれていくのではないでしょうか。


棚田のある地域に出かけ、まずそこに立ってみます。農業、自然、生き物、水利、食、人、文化、歴史・・そうした多様な入り口のおかげで誰もがこの豊かな世界に入っていくことができます。土に触れ、米を育て、共に働き汗を流すだけでなく、食やいのちの大切さを知り、さらには地域を巻き込み、子どもたちの感性を豊かにし実践力を培う棚田の力を感じます。


今後は生態系の視点や農業の抱える問題にも対応できるような棚田を中心にしたカリキュラムを作っていきたいと思います。


棚田の持つ豊かな教育力を子どもたちの生きる力の育成につなげたいと考えています。



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