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第2回食育フェア
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    「なつかしい未来へ〜地域に大きな食卓をつくろう〜」

    講師:結城登美雄 (ゆうき とみお)

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    ■みんなが話せる、食べられる、味わえる食卓

     そして、今度はそれを見にNHKの桜井洋子さんが来ることになりました。僕は「何もなくてごめんね」で調子に乗ってしまって。「あそこは食堂もないので」と言って、ロケハンのときに例のウニ丼のところに連れていきました。そうしたら、桜井さんもグラーッときて、「結城さん、おいくら払えばいいのかしら」と言って。「いや、払わなくてもいいですから」と言ったら、ここはすばらしいところだと。海のものと山のものと川のものを集めて、それでお鍋でやりましょうと。

     とやったら、画面がこう出ます。村始まって以来のNHK中継ですから、13人のお母さんに何か映すもの持ってこいと言ったら、家の前の畑から10月14日、150品持ってきました。お店からではないですよ。冷蔵庫から納屋から。前の日、4人のお母さんが「こんなんでいいかしら」って持ってきたのがこれだけです。いい中継ができました。

     それだけではないんです。今度は一品持ち寄って来たんです。これを「取り回し料理」と言います。皆さんの地域でもきっとあるはずです。集まったときに持っていって、「はい」って前に来たら、それを小皿にとって、「はい」と回してやる。またこっちの人もとって、「うまいねえ」とか、「やっぱりあの人のキンピラはピカ一だねえ」とか、「あれは私もやるけど負けるのよ。同じ材料なのになんでだろう」とか言ってね。

     そういう「取り回し料理」のところに子供たちがいると、今度はそこが食育の場になっていきます。僕は地域の食卓の一つのシンボルだと思っているんです。それぞれの家のを持ち寄って、それをお互い食べ合うと。そうしたら、「これは誰がつくったの?」「味つけは?」、思い出はいろんなものがある。もうとまらなく話が弾みます。

     ほら、「何もなくて」と言いながら、ご馳走なんですよ。辰巳琢郎君なんか目をクラクラさせて、「おれにも」って、中継中にこれに入っていました。テレビでうまくないのに「うん、うまい」なんてやっているのではなくて、本当にうまいから。

     これを本橋成一さんという人に話したら、今年の年賀状が来ました。この年賀状、きょう許可をもらってきたんですが、『アレクセイと泉』という映画があります。監督は『ナージャの村』をつくった映画監督です。チェルノブイリの汚染されたところにある泉は、いくら検査をしても何十年前の湧き水があるから放射能ゼロなんです。やがてそれが何百年か何十年か後に汚染されていくんですよ。大地を汚染していく動き。その泉の周りに一生懸命暮らす人たちがいる。そんな映画の人たちが、冬を越えて春になると、みんなが馬車で集まって、ピクニックで憩うところがあります。日本でも昔は「野がけ」と言ったり「遊び日」と言ったり、あるいは「花見」も今残っていますが、そういうふうにみんなでお弁当をつくって、楽しむ日がありました。ロシアにもあります。

     映画には出てこなかったんですが、ほら。これを見たときに同じだと思いました。北上町のお母さんたちとウクライナのみんなの持ち寄った食卓が同じなんです。きっとアフリカも同じでしょう。ヨーロッパもみんな同じでしょう。そこが楽しい、食べ物のことをわかり合う、みんなが話せる、食べられる、味わえる、食育を伝え合うもう一つの大事な場だったと思いました。

     お正月にいろんな準備をしていきます。これも食育のモチーフになります。全部食べ物と関係があります。オシラサマにお餅をあげます。農機具に感謝するように、漁師さんは船に感謝をします。家族が注連縄とお膳を持って、「1年間ありがとうございました」と。この子たちが胸に受けとめているもの、とても大事なものがあると思います。

     もうすぐ始まる悪魔祓いの春祈祷、そうすると、子供たちは「ごくろうさん」ということで、村の人が食卓をつくってくれています。

     去年この食育フェアに僕らが出しましたが、これは掛け魚という、いわば新巻鮭の贈答の起源になるようなものです。地域によってこんなに違いがあるんだということもわかってきました。そうすると、「おれにも授業させてくれ」と父ちゃんもやってきます。「お母さんたちほど授業はうまくできないけど、おれにも授業させてくれ」と、父が来たがる「地域の食卓」であります。おばあちゃんがつくり、お母さんがつくり、お父さんが陰で支えて、子供たちと向かい合う、「家族の食卓」以外の、「お店の食卓」以外の「地域の食卓」。

     そうすると、そこでどんなことが話されるか。「人間は生き物を食べています」というふうに言ったら、今野千恵子さん、この人は77歳です。パッと手を挙げました。「観音講というのは、女の人が働いて流産になんてならないように、ときどき休みをとって息抜きをする楽しみの日だった。お産というのは、今あなたたちを産んだお母さんにはいい病院があるけれども、昔は命を落とすこともたくさんあったんですよ。医療がよくなってそういうことは少なくなったけれども、産むお母さんたちは、いつだって棺桶に片足を突っ込む覚悟で子供を産んだものです。あなたたちもきっとそうです。それで、生まれたときは家族がみんなあなたたちの生まれたことを喜んでくれた。その喜んでくれたことを、家族だけではない、地域みんなで喜んでくれた。そして、名前のなかったあなたたちに名前をつけることで、あなたたちの命をみんなのものにした。だから、人をいじめないでください、自殺しないでください」と、何も言わないのにお母さんの先生は、おばあちゃんの先生は子供たちに、言ってくれるんです。それを真剣に聞く子供たちがいて、僕らがつくったささやかなテキストを見ながら、北上町では食育づくりをやっています。


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