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◆食と農の応援団劇場◆

 会場の一角に設けられた「食と農の応援団劇場」では、食育を楽しく、わかりやすく学ぶためのさまざまな催し物がおこなわれました。

武田健さんによる実演試食「おいしい野菜の見分け方・作り方」 コント集団 ザ・ニュースペーパーによる「食育笑学塾in大阪」 「うかたま」編集部が出題「うかたまクイズ」
坂本廣子さんによる講演
「幼児期からの食育」
  坂下喜佐久さんによる講演
「保育園の給食を和食にしたわけ」


◆講演:幼児期からの食育

講師:坂本廣子/坂本キッチンスタジオ主宰

キッズ・キッチンは体験の場

 「台所は社会の縮図」と考える坂本廣子さんは、生産者の立場から考えた料理づくりをすすめる食育・料理研究家です。また、小さい子どもたち自らが包丁をもって料理をする「キッズ・キッチン」の活動も、長い間にわたって続けていらっしゃいます。子どもたちに「いろいろなことができる喜び」を実感してもらう食育についてお話しいただきました。

 講演場所わきに設営されたキッズ・キッチンで、「午前中すでに20人の子ども達とご飯をつくってました」と話す坂本さん。この日の献立は、肉じゃが、お豆腐のおみそ汁、雑穀の入った三穀ご飯、キュウリのゴマ酢あえという、ニッポンのご飯。ただしこれは、子どもたちに料理を教えているわけでないのです、と言います。

 「実は(キッズ・キッチンとは)、料理を体験することでいろいろなことを自分で学んでいく、体験の場なのです。たとえば、三穀ご飯。きびと煎りダイズを混ぜたお米を、ガラスのお鍋を使って自分で炊いてもらいます。ウワーッと吹きあがったお米がご飯に変わる、その体験をしてもらいたいから、ガラスのお鍋を使います。ひょっとしたら一生に一回かもしれない体験を、ここで一回でもいいからしてほしいのです。」

 それは、人が人として育っていくとは、体験したことを意味のある音の塊=言葉に置き換え、それを頭の中にたくさん記憶として残していくことだからと坂本さんは言います。

 「人間は、土台にリアルな先行体験がなかったら、いくら本を読んでも、そこから先のほんとうの理解には結びついていかないのです。だから、できるだけ本物に、できるだけちゃんとしたものに、はやめに出会わせてあげる。この体験が入れば、いいのです。
 今日もキッズ・キッチンで使っている昆布は、利尻の天然の一等の真昆布です。それできっちりとお出汁をとる。いりこは、長崎の天日干しです。それでちゃんとおみそ汁をつくったらどれほどおいしいかという体験をしたら、今度まがいものを食べたときに、まがいものという判断がつくのです。

 だから、ちゃんとしたおいしい本物の味の体験をすれば、『それ、食べちゃダメ!』と言わなくても、子どもたちは自分で判断する力を体験から身につけるのです。
 だからこそ、私は今、ちょっと面倒のように思っても、必ず、子どもたちに私たちが伝えたいもの、残したいものをいっぺんでも体験してもらうというかたちで、子どもたちの体験料理教室をしています。それは、ただ単に味だけ、栄養だけの問題ではないのです」。

根っこの自信をつける

  また大人になる前に、「自分は素晴らしい」と自信をもってもらうためにも、「豆腐の手の上切り」体験をしてもらうそうです。

 「『お豆腐のミミのないところを8分の1、ここにまっすぐ包丁をおろします。あたったかなと思ったら、まっすぐ上にあげるのよ。引っ張ったら血みどろ豆腐になるからね』と言うと、子どもたちはもうすごく真剣に見ます。こんなにむずかしいことを『さぁ、今から自分はやるんだ』と思って、豆腐を手のひらに乗っけます。すると、包丁を持ってから息をするのを忘れる子もいるのです。もう『息して、息して』みたいな感じで(笑)。口を半分開けた子は、よだれを出しながらやって、切り終わったとたんに『ハァ〜、できたぁ!』って。

 これが、ゆるぎない自信になるのです。端で誰が何と言おうと、自分でこんなむずかしいことをすることができたという実感をもつわけです。そうすると、大きくなったときに何かに出会っても、とてもむずかしいことでも自分はできたんだからと根っこの自信がつくのです。だから、一回でもこれをさせてあげたいと、今日もやっています。

 食育とは競うことではなく、子どもが自分で一歩からでもできる喜びであるとか、自分が一つでも知る喜びであるとか、自分で体験して見つけてもらうというのが一番大切なのです」

 そして、子どもたちがそれらの体験を通して自分で判断して選べるようにしてほしいということ、それには「いい食べ物」「わるい食べ物」と大人の価値判断を押しつけないでください、と結ばれました。


◆講演:保育園の給食を和食にしたわけ

講師:坂下喜佐久/きのみ保育園・きのみむすび保育園園長

子どもたちの好みが親を変えた

 「成人式を3回迎えましたので」と、真っ赤な足元が印象的な姿で登場された坂下喜佐久さん。30年前に北欧の教育事情を視察されたことがきっかけで、生後まもない乳児からかかわることの大切さに目覚め、保育園を設立されたそうです。その園で現在、子どもたちに食べさせている給食はすべて和食。

 ただし、最初からそうだったわけではないといいます。
  「親御さんが今、自分の子どもがどれくらいの分量を食べると認識しているのか、また今、どんなものを食べさせたいと思っているのかを、知りたかったのです。そこで、土曜日だけは親御さんに『弁当を作って持ってきてください』とお願いすることにしました」。

 そして保育園開設当時の昭和52年から、子どもたちの土曜日のお弁当をすべて、記録にとっていきました。
 「親御さんが我が子に食べさせたいと思っている食材は、保育園では使わなくてもいいのではないかと思ったのです。そして親御さんが弁当に入れてくれる食材を、限りなく園の給食食材に使わないことを続けて十数年経ったとき、ふと気づいたら、それが見事に二千数百年続いてきた日本の伝統食でした」。

 つくってきた弁当は、写真に全部撮影します。すると…
 「子どもが家に帰ったら、『園長先生なぁ、ボクの弁当なぁ、写真に撮していたで』とお母さんに言うそうです。母親や父親がそのことで私に言ってきたことはありません。だけど皆、知っているのです。『また、園長、どこかであれを発表するかもしれんから、気ィつけて弁当作っておかないかんで』と。それが私の耳に入ってから、なんかしらんけど、できばえが変わってきたのです」。

 それは、子どもたちの食べ物の好みが、親を変えたからだといいます。
 「1歳4ヶ月の子どもが『白米のご飯だったら、食べない』と言うのだそうです。園の給食のご飯は食べるのに家に帰ったら食べない。でも、お母さんがおたより帳を見ると『今日もご飯をおかわりしました』と書いてある。
  『先生、ほんとうにうちの子、ご飯食べているのですか? 家ではひとつも食べないのです。口の中に入れたら、皆、ベェベェって出してしまうのです』とスタッフに聞いてきたので、『お家ではどんなご飯ですか?』とたずねると、『白米です』と答えました。

 それで『白米は好きじゃないかもしれないから、玄米を少し混ぜていただくか、五穀米をちょっと混ぜて頂いたらどうでしょうか?』とアドバイスをすると、子どもが食べたというのです。1歳4ヶ月の子どもでもちゃんと味覚があるということを私は確認できました。

 こういうかたちで、子どもが食べないからやむを得ず分づき米とか、五穀米を入れるとか、玄米にするとか、親御さんが変化してきました。家庭で精米器を買われて、お家で分づき米をつくって食べている方もいます」。

先生の給食、おいしい!

 では、子どもたちの好みを変えた園の給食は? ということで、献立の数々が紹介されました。

 まず、週5日のうち2日はお魚。サンマの干物に鰯のショウガ煮などが出るのを見て、見学にきた栄養士さんが『先生、こんなの食べさせて、喉に骨がささったらどうするのですか?』『親御さんが、文句を言うてきませんか?』と聞くそうです。でも骨が刺さった時にどうするかを自分の体験から知ってもらうためにも、あえてそのままだすといいます。さらにご飯は分づき米、おみそ汁も必ずつけます。野菜の煮物をするときには、皮をすっかり取ることなく、亀の子ダワシでざーっとこするくらい。

 そうやって「なるべくそのものの味わいを全部捨てないで届けてやりたいと思っています。身体にいいものを少し頂く、その頂いたものを全部エネルギーにして、活動の糧にしてもらいたいのです」。

 こういう給食をいただいてしばらくすると、子どもたちが実にいい表情をするようになるそうです。
 「やはり、身体の調子がいいと、いい表情になるのです。今、三百何十人の子どもがこういう表情で、私の園で生活をしてくれています。
  お時間のあるときにお立ち寄りください。突然に来て頂いても大丈夫ですからね。ほんとうか嘘か、試しに来てください。」とお話しになっていました。

 会場には園の子どもたちも応援にかけつけ「先生の給食、おいしい!」と元気な声をあげていました。



(要約文責:地域に根ざした食育推進協議会 事務局)