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研究課題名

食の生産から消費まで理解できる食教育カリキュラムに関する研究

代表研究者/発表者 小金澤孝昭 宮城教育大学

 食教育あるいは食育の目標というところでは色々な立場がありますし、今日の発表の中でも色々な角度から食教育の取り組みがなされています。私どもの取り組みはどういう角度かといいますと、「食のつながり」つまり食という食べる行為から派生して、身体とのつながり、農業や水産業、林業つまり生産とのつながり、またひいては環境とのつながりというように、食べるという行為が色々なところにつながっているということをどういう風に理解させていくのか、という意味での食教育のありかたを考えてきました。その意味で栄養学とは異なって、授業実践の中でどういう風に子どもたちに体験させていくのか、実感をともなわせてどのように理解させていくのかということを考えてまいりました。

 まず食の何が問題なのか。これは子どもの食べる力が弱くなっていることといわざるを得ません。食べる力というのは、食べることに関する基礎的な知識が、あまりにも便利な飽食の生活の中で食に関する基礎的なことが分からなくなってきているということです。そのことが先ほどの研究にもありましたように、子どもたちの体調や栄養バランスに大きな影響を与えてしまっているという現実があります。特に私たちが注目しているのは、ボタンを押せばすぐ食べ物が出てくる社会で私たちが暮らしているということです。これまで食べる力つまり食に関する基礎知識は大人になれば身についてくるものだといわれてきました。ところが現代ではそれが通用しなくなってきています。大きくなっても身に付かないという事態になっています。そのため子どもたちの世代から食に関する基本的な知識を具体的に理解させるということが大事になってきています。子どもたちの食べる力や栄養バランスの問題が何故出てきたかというと、私どもの考え方では、現代風の他人任せの食生活を続けるならば必然的に食の問題が発生せざるを得ないのではないかということです。これほど豊かな食品に囲まれて生活していると、どれをどのように選べばよいか分からなくなってしまいます。だから選択する力が相当落ちてしまっていますし、どの季節でも同じような食品が食べられるという周年消費は便利ではあるけれども、生命リズムの中で生きているということが段々分からなくなってきているという現実があります。また、中食、外食も含めて食の外部化がますます進んでいます。つまり食を他人任せにすることによって、調理や加工の技術を失っていきます。生まれたときからそういう出来合いのものが、お金を出しさえすれば何でも買えてしまいます。その食品がどのように作られているのか全く分からなくても買ってしまうということになります。これをどうやって防いだらよいかというと、子どもの頃から色々なことを体験させるということが必要です。また、ただ体験させればいいというものではなく、どういうシナリオあるいはストーリーで体験させるかということが大事だと思います。

 次に食教育を進めていく上でその目標を整理する意味で、少し遠回りになるかも知れませんがアメリカの現状と比較してみようという調査を行いました。アメリカでも学校給食の他に、食教育が実践されています。調査したのは、ウィスコンシン州マディソン市のリンカーン小学校を中心にした地域の栄養士さんや給食センターの方が行っている食教育です。日本では食の洋風化や外部化が進行していますが、アメリカではジャンクフードの普及という食の単純化が非常に進行しています。食生活の問題点でいうと、貧困による欠食や肥満が大きな問題になっています。この肥満対策では食教育や学校給食の役割が非常に大きくなっています。ただし、学校給食は栄養バランスよりも、欠食を避けるということを軸に置いています。ですから日本の学校給食のように、自校方式やセンター方式で当日作られるのではなく、前日からパックにして当日は電子レンジでチンするだけという給食が増えています。メニューとしてはピザ、ナゲット、ハンバーグといった簡単なものです。ただ貧困家庭で朝食を欠食する児童が多いので、朝ご飯給食、昼ご飯給食が行われています。食教育の内容では肥満対策に重点が置かれています。とりわけ砂糖のとりすぎについて、栄養指導員が地域を巡回して学校に入って指導するということが行われています。日本で学校栄養士さんが栄養指導をするような内容ではなく、単刀直入に肥満対策に重点が置かれます。そのアメリカと比較すると、日本の食教育は日本型食生活をベースにした取り組みがなされているといえるでしょう。また栄養バランスをきちんと考えるという指導をしていますから、日本型食生活に根ざしたかたちで実践されているといえます。その意味で、日本の食教育は日本らしく食と健康、農業や環境とのつながりをよく見せていくことによって、日本型食生活を軸にした食教育ができるのではないでしょうか。

 これはアメリカの給食実態(pdf)です。さきほど申し上げましたようにパックになった食事です。栄養指導員は一つひとつの食事について、砂糖の量がどの程度入っているか説明するという授業(pdf)を行っていました。これ(pdf)はプレゼンテーションの道具ですが、それぞれアイスクリームとかキャンデーとかの展示をして、その後ろに砂糖の実物があってその量が分かるようになっています。また農業との関係では、アメリカも地域農業と連携する試みがなされています。小学生が地域の農家を訪問して体験学習(pdf)をしています。これ(pdf)は芽キャベツの収穫です。また地域のファーマーズマーケット(pdf)との連携も進んでいます。このように農業との関係では色々な試みがなされていますが、食教育という点では日本の方が豊かであると思います。

 そこで私たちの実践研究目標は、1つ目は「食のつながりから分かること」ということを食教育の目標に置きました。食べることから日本の農業が見えてくる。体験学習を通じて自分たちの食べているものがどのような生産関係で出来ているのかが実感できる。また、それが水や山、地域環境との関わりでどうつながっていくのかということです。2つ目は「日本型食生活から、食の情報・基礎知識を見につけること」です。主菜・副菜・汁物のバランスという日本食独自の関係を見直すことです。3つ目は「豊かな食材を活用すること」です。多種多様な食材を活用することによって、調理や保存の知恵を理解させることです。食べ物にこのように色々な情報を付加することによって、食べ物が教材に変身するということを伝えていきたいと考えます。4つ目は「生きた教材・本物の教材としての食材を、地域・学校で共同開発すること」です。できれば、野菜の生産においても低農薬野菜にチャレンジさせたいし、生ゴミを堆肥化してリサイクルするというような「つながり」を考えるようにしたい。5つ目は「自分の健康と食べ物の関係が分かる」取り組みにしたいということです。

 次に共同研究の具体的実践をご紹介します。まず宮城県大郷町立粕川小学校は、地域の特産物を取り上げています。この地域はリンゴ生産が盛んなので、リンゴ調べ学習をしています。リンゴ園に小学校3年生の児童が1年間通って、リンゴ生産のプロセスを理解するという授業です。もうひとつはバケツ稲調べを行っています。これも籾まきにはじまって収穫の後の稲わらまで利用します(pdf)。稲わらでわら半紙を作ったり、納豆を作ったりといった「つながり」を体験的に学習します。またこの地域の農家は肉牛も肥育しているので、リンゴと米だけでなく、生き物も含めた「つながり」を学習します。ここで注意しなければならないのは、現場の先生方が季節ごとにどのような体験ができるか、1年のストーリーをていねいに立てるということです。

 次に子牛田町立子牛田小学校の実践例です。ここの実践は米作りですが、よくあるイベント的な米作りではなく、米の生産過程を、1年を通して見せていくために、苗作りから取り組みます。苗も通常の植え方ではなく、「1本植え」(pdf)を行います。「1本植え」であれば、1本の苗からお米が何粒とれるかということも具体的に分かります。また「1本植え」では最初は、頼りない育ち方に見えますが、段々と「分けつ」してたくましく育っていく様子がよく分かります。稲の生命力が目に見えて実感できるというわけです。そして、また除草にはアイガモ(pdf)を使うことによって、農薬を使わない稲作りの意味を生き物との「つながり」の中で体験理解することができます。

 最後に消費の問題です。子どもたちにとって生産体験は分かりやすいのですが、生産から消費への「つながり」はよく見えません。そのため、子どもたちに「合同市」(pdf)のような場所で販売体験をさせて見ることも必要です。その中で生ゴミから堆肥をつくる活動をしている人たちから話しを聞いたりする(pdf)こともできます。

 私たちがこのような体験学習を通じてねらっているのは、生産・流通・消費・廃棄という繰り返しのプロセスを子どもたちがきちっと理解するということです。また1年間のストーリーをしっかり立てて、一つひとつの場面の位置づけを全体のストーリーの中でしっかりさせるということが必要だと考えています。


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