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研究課題名

地域における3世代共同農業体験学習の教育効果に関する研究

代表研究者/発表者 木島温夫(このしまはるお) 滋賀大学

 この研究は、学校の教育課程での授業実践ではなく、放課後の時間を子どもたちがどう過ごすかという、学校外・地域での体験学習です。また、子どもたちだけでなく、親世代あるいは祖父母世代と一緒に農業体験をすることが、それぞれの世代にどのような教育的効果があるのかということが研究テーマです。

 滋賀大学は大津市の石山小学校学区に位置しています。この石山学区は最近宅地化が進み、農地がなくなり、若い世代の核家族がたくさんあるという地域です。そしてその若い世代はその親の世代もほとんど農業体験がないという家庭が多くなっています。しかし、また農業経験と人生経験が豊富で、しかも地域の環境や食農教育・食育に関心を持っておられる高齢者のグループもあります。この方たちは地域の核家族世帯に接触して、ともに地域づくりをしたいと思っておられます。

 大学は地域の存在として、知的資源、物的資源を地域に開放していくことも一つの役割だと考えています。そこで、大学と地域とが連携して食育に関わる農業体験をしていきたいと考えて実践してきました。今年で4年目になります。

 目的は「三世代共同農業体験活動が子ども・保護者・地域高齢者にどのような食育的教育効果を及ぼすのかを検証し、今後のよりよい活動の在り方を考える」ということです。つまり「三世代」ということにポイントを置いています。そこで、滋賀大学教育学部は「活動企画の立案」「指導補佐」「場所の提供と管理」「活動記録」「活動準備」等を行います。そして地域の公民館に関わってもらい、公民館が「参加者の募集」「連絡窓口」になってもらいます。そして地域環境に関心を持っている地域の高齢者が「石山ネイチャークラブ」というグループを作っておられます。このグループが実際に子どもと保護者に対して農作業の指導をしてくれます。活動日は毎週水曜日の午後3時から4時に設定しています。学校5日制になってから土曜日・日曜日の活用の仕方がよく話題になりますが、この週休2日が定着してくると、各家庭で予定を入れることが多くなってきます。また小学生低学年では水曜日は授業が早く終わるので、この時間帯が空白になることが多いという理由があります。またこうした生産に関わる農業体験は、一過性のイベントでは子どもたちに定着することがありません。農業・農村をまるごと体験するためには1年間継続して体験することが大切だと考えて、4月から翌年3月まで、毎週1回計34回の活動を行っています。

 具体的な活動内容(pdf)をご紹介します。まず午後3時に大学の農場に集まって貰います。そこで、学生が指導役になりまして、今日の作業の説明を黒板に板書(pdf)します。子どもたちはそれで作業内容を確認しノートにつけていきます。その後、畑に出て、今度は地域の高齢者が指導役になります。ここでは保護者も含めて親子が一緒に作業します。終了時にはまた学生が指導役になって1日のまとめをします。そこでは子どもたちに今日の作業内容を確認して、感想を聞きます。さらにその感想をノートに記入します。このような体験活動の場合、その教育効果をどのように評価するかということは大変難しいことです。私たちは、その評価のために、学生たちが記録をするということを行っています。その学生の記録をもとに子どもたちにどのような変化があったかを確認するという作業です。

 これ(pdf)は4月から6月までの春のプログラムです。8品目の野菜を作りました。そしてただ植えるだけではなく、育ち方を観察(pdf)しようということで苗の大きさを毎週測ります。そうすると1週間でどれだけ生長したかということが具体的に分かって、植物の生命力を感じ取るようになります。また色んな作物を作っていると、ときどき事件が起こります。例えば虫に食われてしまったとか、雄花と雌花の違いとか小さな変化に子どもたちの関心が広がっていく様子が分かります。もう一つは、毎週の活動ですから、時には同じような作業が毎回続くこともあります。そうすると子どもたちは少し飽きてきますから、そのような時の為に、1ヶ月に1回くらい、ゲーム感覚の理科学習的な時間を設けています。例えば、「キューリ・トマト花当てゲーム」とは、雌花だけでその作物が何かあててみようというゲームです。6月には田圃の生き物を顕微鏡で観察するということもやります。この農場は大学教育の場であり、子どもたちの体験学習の場でもありますから、無農薬で実施します。すると当然、色々な虫が生息します。その虫を観察することは理科教育に近いものがあります。

 7月、8月(pdf)になると学校はお休みになりますが、この活動は学校教育課程のものではありませんから、春と同じようなペースで実施します。特に秋野菜等は8月に種まきをしますので、8月は種まきが主要な作業になります。またこれ(pdf)はピーマンの収穫時の様子です。一般的に子どもはピーマンが嫌いですが、自分が育てた野菜ということになると別で、収穫作業も喜んでやりますし、家庭でもよく食べるようになるようです。またこの時期は昆虫等小さな生き物たちがたくさん活動する時期でもあり、子どもたちもこの昆虫によく注目(pdf)するようになります。農業、農村、農家という環境はそれ自体が独自の文化を持っているわけで、何か特定の農作業をすればそれで農業、農村、農家が分かるというものではありません。周辺の自然も含めて農業の偉大さを理解していくのだと思います。そういう意味でこのような場所を提供することが大切だと考えています。

 10月から12月(pdf)については稲刈り・脱穀等、米の収穫作業は当然行いながら、秋野菜の栽培を継続します。11月になると農場周辺でドングリがいっぱい取れます(pdf)。時には父親も参加して、ドングリでコマを作るというようなイベントも実施します。12月は恒例の餅つきをします。餅つき(pdf)は高齢者が最も得意とするところですから、子どもたちも改めて高齢者の知恵や技術に感心する場面です。

 1月から3月(pdf)にかけては畑で作業することは少なくなります。そこで、昨年はケナフを用いて紙を作り(pdf)、その紙で修了証書を作りました。このときにも当然高齢者が活躍していただきます。またこの活動には学生が大勢参加してくれました。指導的役割をする学生の他に、ボランティアとして入れ替わり立ち替わり、次から次へと大勢の学生が手伝ってくれます。学生がその子どもたちと出会うことも教員養成として重要なことです。

 さて、子どもたちの変化をどう見ていくかということですが、保護者と高齢者の方にアンケート(pdf)をとると、「植物や昆虫に目をむけることが多くなった」とか「偏食が緩和された」という感想が返ってきます。学生の記録ではさらに克明に子どもたちが変化していく様子が分かります。また親子が一緒に参加することの効果としては、小さな子どもは親がそばにいることで安心できて、また親は家庭では見られない子どもの姿を発見するということができます。そして保護者は高齢者世代と一緒に活動することで、核家族の中での問題について助言を受けるというようなこともありました。さらに高齢者グループは孫世代の子どもたちを指導することで生き甲斐を感じていただけるという効果(pdf)もあります。

 食への関心は食材の生産現場を知ることから始まるのではないか、食材生産の知識というのは農への関心から深まるのではないか、したがって農の体験というのは子どもたちの社会性を豊かにする、そして農への関心は生活そのものを変える力になる、ということを1年間を通した活動を通じて私たちは強く感じました。


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