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研究課題名

地産地消による食育の実践:栃木県高根沢町の事例研究

代表研究者/発表者 宇田 靖 宇都宮大学

 この研究には共同研究者として多彩なメンバー(pdf)が参加してくれました。料理の専門家をはじめとして、農家の方、行政の方、また農業大学校で教鞭をとっておられる方もおられます。実はこのメンバーは、私も含めて「栃木の食と健康を考える会」のメンバーでもあります。私たちは、食と農を切り離すことはできないし、地域の農業振興がないと地域の食も豊かにならないというスタンスで勉強会を行ってきました。今回の研究にあたって、栃木県内から特に高根沢町を対象にした理由は、高根沢町が「循環型農業と地産地消」、「子どもたちの食と農業体験を重視する」という姿勢を持っておられることでした。ここに食育の一つの典型を見ることができないか、注目したということです。調査研究にあたって、まず町長をはじめ行政の方々と何回か懇談会を持ちまして、町の姿勢について調査資料等をいただきました。また町の施設等も見学させていただいて、高根沢町の取り組みを理解しました。また、行政とは独立した農業生産者のグループ「たんたんクラブ」や、JAしおのや青年部が中心になって活動している「アグリティーチャー」の方々、それから町の自主的な主婦のグループ「豆まめクラブ」というような住民サイドの方々と懇談会や体験談等をお聞きする会合を重ねて参りました。そして9月以降、高根沢町の産業振興課と教育委員会の全面的な協力をいただき、町内6つの小学校5年生全員と保護者、さらに町の認定農業者180人と、無作為に選んだ市街地域の住民100人に対して、町の進めている「地産地消、循環型農業の推進、給食」等について調査活動を致しました。

 高根沢町(pdf)は世帯数が1万程度、人口約3万人の町で、栃木県の中でも農業地域として抜きんでている地域です。町の総面積のうち60%が農地で、しかもその90%が水田という県内有数の稲作地帯です。この町は平成6年度から「リフレッシュビレッジ構想」(pdf)というものを持っております。これは町内の市街地域と農業地域の住民が協同して、それぞれから出てくる生活廃棄物、あるいは生産活動から出てくる農業廃棄物、具体的には牛糞などを有機質肥料として再生してこれを農業に利用するというスタンスがあります。そしてそれによって、安全良質の農産物を町民に供給するとともに、近隣の人々にも利用していただいて交流をはかる。そして全体として町民の心と体を養生して、その中で子どもたちの食に関わっていくという構想です。これを推進していく施設が幾つかありますが、その中で特に「土づくりセンター」と「元気あっぷ村」という施設があります。「土づくりセンター」(pdf)は水田地帯の中で広大な面積を持った施設であり、市街地の住民からは分別された生ゴミが毎日3トン程度持ち込まれてきます。町内の50戸の酪農家には乳牛と肉牛が約2,500頭います。この糞尿が17トンあり、その他に米作農家からモミガラが持ち込まれます。そしてこれらの廃棄物から年間約2,500トンの肥料が作られ、その肥料には「たんたんくん」というネーミングがされています。現在は需要が供給に追いつかないくらい町民の人気を得ています。

 この「土づくりセンター」が果たしている役割は4つにまとめられる(pdf)と思います。1つ目は、循環型農業をめざす町の取り組みになっていること。市街地の生ゴミも含めて市街地と農地が協同して循環型農業生産を行い、リサイクル機能を確立していくという町づくりの核になっているということです。2つ目は、この「土づくりセンター」で作られた肥料を使って、学校給食に米や野菜を供給するという積極的な生産者グループの「たんたんクラブ」が組織されていることです。3つ目は、小学生の社会学習の場にもなっているということです。小学生は4年生になると毎年この施設の見学(pdf)に来ます。彼らは、はじめ強烈なにおいと発酵熱を体験したあと、出口で無臭になった粉末を手にします。そこで自分たちが食べる野菜や米の肥料だということを想像するわけです。そして4つ目は、子どもたちがそういった体験だけでなく、大人たちが循環型の町づくりをしているのだということを意識できる施設なのです。市街地の住民にとって、生ゴミを分別するというのは手間のかかることなのですが、達成率は93%を越すまで定着しているそうです。

 この「リフレッシュビレッジ構想」について町民の方々がどのように感じているかということを知ることが大切だと考えてアンケートを実施しました。アンケート(pdf)によると、「土づくりセンター」の役割については生産者が堆肥作りにあるということを理解しているのは当然としても、市街地住民も生ゴミリサイクルをするのは当然だと考えていることが分かりました。製造されている「たんたんくん」という堆肥の利用については、認定農業者の6割が肥料として使っています。また市街地の住民の3割強が家庭菜園等で使っているだけでなく、もっと町がその利点をアピールすべきだというような意見も寄せられていることから、住民が大いに期待しているということが分かりました。

 ここで高根沢町の農業者の活動について触れておきたいと思います。特に食育に関連する活動としては「たんたんクラブ」(pdf)というグループの中でJA青年部に所属する18人の青年農業者が「学校給食応援隊」というグループを自主的に組織しました。平成14年度から給食用の米、さらに15年度からは11品目の学校給食用野菜生産を請け負っています。そしてこの「学校給食応援隊」の人たちは自分たちで「アグリティーチャー」(pdf)と自称して、子どもたちの農業体験をサポートするという活動をしています。子どもたちにとっては、学校の先生とは異なって、自分たちの地元の言葉で地元の人たちが教えてくれるので、大変興味を持って活発に質問するようです。「アグリティーチャー」の側も逆に子どもたちから元気を貰って励みになっているようです。また学校給食に納品するための圃場には「学校給食用農産物生産圃場」という札(pdf)を立てます。町民の人たちにも、この圃場の生産物は子どもたちのために作られているのだということが分かるようにしています。

 次に、子どもたちがこの「たんたんクラブ」や「アグリティーチャー」が作ってくれた農産物が給食に使われていることについてどう考えているのか知りたいと思いました。幸いにも非常に高い割合で「お米がおいしい」というアンケート結果が得られ、また町内で生産されていることも高い割合で知っておりました。これは先ほど申し上げたように、4年生になって「土づくりセンター」を見学していることも手伝っていると思います。

 では保護者はどう思っているのでしょうか。地場産野菜等の利用は歓迎されていますし、何よりも安全であることが望ましいという意見は当然としても気になる回答もありました。全体のわずか10%にすぎませんが、「食事のマナーを学校給食で教えてほしい」という回答がありました。もちろん食育はいろんな場面で実践されなければなりませんが、すべて学校にお任せというスタイルが保護者の中にあるということも明らかになりました。

 「元気あっぷ村」(pdf)という施設がもう一つあります。これは平成8年度に整備されて、温泉と宿泊施設(pdf)があります。それから豆腐やがんもどきの加工場としても機能しています。また小学4年生が夏休みになると、ここで合宿して豆腐づくりの実習(pdf)をするという体験場にもなっています。それを支えているのが「元気あっぷ村豆まめクラブ」という有志主婦のグループです。この方たちが非常に献身的に子どもたちの教育にも協力してくれています。子どもたちは、豆腐実習で作ったものを自宅に持ち帰って家族に食べて貰う。そこでおいしいと褒めてもらうことが大変重要な体験であると思います。

 これをまとめますと、高根沢町の「循環型農業」「地産地消」「子どもたちの食育」という活動は、三位一体の活動(pdf)として評価したいと思います。また成功の理由は、行政の推進政策を住民が多重的に関わっている(pdf)ところにあると思います。これからさらに地域に密着した取り組みにしていくことが重要であろうと思います。


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