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研究課題名

乳幼児期における食育カリキュラムの開発
―地域の農産物生産者との連携を軸として―

代表研究者/発表者

師岡 章(もろおか あきら) 白梅学園短期大学保育科助教授

昨年、厚生労働省から保育所向けに、『楽しく食べる子どもに〜保育所における食育に関する指針〜』というものが通知されました。我々はそちらにも関わったという経緯があります。

しかし、そちらの食育指針は、保育所向けのいわゆるナショナル・カリキュラムという性格もありまして、具体的に「何歳でこれをやろう」というような内容の提示はしておりません。基本的な方向性を示したということだけで、現場ではそれらを受けて具体的にどのように食育を進めていったらいいのか、やはり悩みは尽きないわけです。それをもう少し具体的な取り組みという形で考えていくときに、この食と農の関係を視点におきながらとらえてみよう。そんな動機からこの研究プロジェクトを進めました。

【研究の目的】

まず、研究の目的は大きく2つあります。1つ目は、乳幼児期の保育を担うその保育現場に向けて、食育の実践の目標・内容・方法を含んだ食育カリキュラムの試案を示そうということを掲げました。具体的には「食」と「農」を関連・結合させた活動に関心が向けられるようになる、特に幼児期の後半を対象に、年齢別の指導計画を作成、提案していくことを最終的な目的に掲げて取り組みました。

実際に実施した内容、方法は、大きくいって4つです。1つ目は、先ほども述べましたとおり、厚労省から示された食育指針、その内容、特に指導計画等に関する留意事項をもう一度整理をしてみて、特に幼児期の保育の特質に沿った形での食育カリキュラムのあり方、編成のポイントというのを確認してみようということです。

2つ目は、単にトップダウンでこうあるべきだと示すのでは逆に現場を混乱させますので、やはり今後の具体的なあり方ということを考えたときにも、その先進的な実践の取り組み、特に「食」と「農」を関連・結合させた実践を展開している保育所から学ぶ必要があるだろうということです。そこで平成16年度、ブロック別の児童福祉施設給食関係者研修会等で提案された魅力的な実践に取り組んでいる園の指導計画、実践記録などを収集して、資料の分析を行なうということです。

3つ目は、地域性を考慮して選択したその園を対象にして、具体的にヒアリングを行ない、その実践のあり方を把握して、食の視点を加味した計画と実践のあり方というものを考察いたしました。

4つ目は、それら、特に2と3を合わせて、「食」と「農」を関連・結合させた活動に関心を向けられるような幼児期後半を対象にした指導計画、その試案をつくったということです。

【研究の結果ならびに考察】

まず1点目の食育指針に関しての考察は割愛して、2つ目の食育の視点を含んだカリキュラムの実際がどのようになっているか、そちらから報告をいたします。

18の自治体ならびに保育所に資料提供をお願いした結果、全国から23の回答が得られました。それらの資料をトータルに考察してみますと、今ごらんいただいているようなおよそ6つのスタイルに、今現場でとり行なわれている食育の実践のベースになるカリキュラムがあるのではないかと考えました。

1つ目が食事を対象とした大綱的なカリキュラム、2つ目が食に関連する活動分野を網羅したカリキュラム、3つ目が食に関する特定分野を特化したカリキュラム、4つ目が年齢別の視点を加味した食育のカリキュラム、5つ目が食の多面性を視野に入れた食育のカリキュラム、6つ目が保育に融和させたカリキュラムということです。

『食事を対象とした大綱的なカリキュラム』

その実際例を1番目から見ていただきたいと思います。ごらんいただいているのは、1番目に示した、食事を対象とした大綱的なカリキュラム。東京の公立の保育所の例ですが、食事の働きかけの中心とみなされる給食を窓口に、食に関する指導を、調理する立場からコンパクトにまとめたもの。実際にここに給食計画というふうに書いてありますが、そのことをある意味で典型的に示していると思います。

調理側が献立作成だけに留まるのではなくて、保育者と連携しながら食育を進めていくときの糸口を得るといったときに、こうしたシンプルな形で調理する側の意図を明確にしておくということは有効性をもつだろうと思います。特に、大きく1年間を4つに分けまして、ねらいと配慮と、そしてそれぞれの方向性などを非常にコンパクトに書いてあるわけですが、大まかに園全体の給食および食に対する重点的な指導事項、方針を示すということでは、まさに大綱的、大まかな方向性を示しているカリキュラムのパターンだろうというふうに感じました。

『食に関する活動分野を網羅したカリキュラム』

2つ目は、食に関する活動分野を網羅したカリキュラムの例ということで、岩手県の公立の保育所のカリキュラムをごらんいただいています。先ほどお見せした食事を対象とした大綱的なカリキュラムと同様に、こちらのほうのカリキュラムも、食事の働きかけの中心と見なされる給食を窓口に、食に関する指導を調理の立場から作成しているものです。

ただ、先ほどごらんいただいた東京の公立の保育所のパターンとはちょっと異なりまして、ここで編成されている項目がやや細かくなっております。1年を4期に分けていることは同じですが、まず「保育の目標」、それから「めざす子ども像」、さらに「給食目標」「具体的目標」というものをねらいの経として掲げながら、具体的な部分でのねらいと内容の項目では、その期ごとの目標、指導内容および留意点、さらに「食育」「集会」それから「畑」「クッキング」。

特にこの「食育」「集会」「畑」「クッキング」ということが、単に食事する時間帯ないし献立だけに視点を置いた中で給食ないし食育を考えるのではなく、食に関連する活動分野を幅広くとらえながら、それを当然献立の計画も視点としては含むわけですが、一覧としてカリキュラム化して、トータルにその給食の年間計画を考えようという取り組み。その一端を示しているパターンであろうというふうに思います。1の大綱的なカリキュラムよりも、食育実践の幅を広げる可能性を示しているカリキュラムの一例ととらえられます。

『食に関する特定分野に特化したカリキュラム』

これは3番目の食に関する特定分野に特化したカリキュラムの例ということで、愛媛県の公立の保育所の例です。一番上に「クッキング食育年間計画」というふうに書いてあります。まさにクッキング、言い換えれば調理保育ですね。そのことにのみ絞って1年間、4、5、6、7、8というふうにおいてあるわけですが、その中にテーマ、ねらい、そして具体的な活動内容などを項目として分けながら、4月は何をつくろう、5月はどんな取り組みをさせようということを、繰り返しになりますが、クッキングのみに絞ったカリキュラムということになります。

特定の分野に絞ったという分、かなり詳細に計画がなされています。保育という現場は、言葉が悪いかもしれませんが、ややもすると思いつきないしは慣習的な部分で「毎月これをやっているから今年もやろう」ということが実践の中では正直なところ多いのです。しかし子どもの育ちに責任をもった意図的、計画的な指導展開を考えたときに、こうしたある分野に絞ってていねいな指導の系統を、ねらい、内容、さらには活動分野を幅広くとらえながら計画しておくということは非常に貴重な取り組みと言えるかと思います。

ただ一点懸念もありまして、こうしたクッキングならクッキングに特化したカリキュラムを編成するということは、保育現場における食育を小学校以上の教科主義的な取り組みにも傾斜させる可能性もあるだろう。その点も、もう少し乳幼児期の発達特性を踏まえながらの実践を考えたときに、その実践の前提となる計画の段階も、小学校以上での指導計画のパターンとは異なるものがまだまだ模索される必要もあるかもしれない。そんなことも感じさせる例です。

『年齢別の視点を加味した食育のカリキュラム』

これは4番目の類型として挙げました、年齢別の視点を加味した食育のカリキュラムの例。宮城県の、これも公立の保育所の例です。今3つごらんいただいたものは、特に何歳児ということを限定して示したものではありませんでした。少なくても幼児食が始まる2歳ないし3歳児以降ということを視点におきながらの、給食ないしはクッキングの計画。

しかし、こちらでごらんいただいている園は、もちろん縦軸には4月から3月まで時間をおいているわけですが、ここのところ、これが4〜5歳児。そしてこちらのところが3歳児。もちろんそれ以外にも2歳、1歳もあるわけですが、今ごらんいただいているのは3歳児以上児を対象にしたクラス別のカリキュラムです。

一般の保育での計画も、その年齢の発達あるいは生活を踏まえて計画を立てることは当然なわけですが、食育が調理側ないしは給食室からカリキュラムが示されるということになりますと、こうした年齢的な発達を考慮することがなかなかむずかしい。しかし、この園では調理室側だけではなく保育者も関わりながら、こうした年齢を加味した食育のカリキュラムを計画しています。

特にその内容も、「育ってほしい姿」「環境構成と配慮事項」「具体的食育案」という3つの窓口があります。まずは「育ってほしい姿」では、単なる食べ方やしつけという問題ではなくて、子どものその時期の生活に根ざした主体性ですとか自主性を加味した中で、どのようにそこに食育ないしは食というものを絡めるか、そういう視点からカリキュラムが編成されている。まさに保育と連動した食育実践を展開する可能性を有している取り組みというふうに言えると思います。

『食の多面性を視野に入れた食育のカリキュラム』

次にごらんいただいているのは、5番目の類型として示しました、食の多面性を視野に入れた食育のカリキュラムの例です。岡山県の公立の保育所の例です。一番上に「何でもよく食べ、よく噛んで、みんなと一緒に楽しく食べる子ども」。これがこの園の食育を視点にした保育を進めるときの大目標なわけですが、それをもう少し具体的に、「食のリズムがもてる子ども」「食事を味わって食べる子ども」「一緒に食べたい人がいる子ども」「食事づくりや準備に関わる子ども」それから「食生活にも関われる子ども」というものをおいている。それがさらに具体的な活動例ということでは、「自然との関わり」「料理づくり」「人との関わり」「文化との出会い」、「食べることを通して」。こういう具体的な活動の窓口も示しているわけですね。

皆さんもご承知とは思いますが、食というとただ食べること、さらには栄養補給ということではなくて、一緒に食べる人がいるから食もおいしくなる。さらに一緒に食事をするから人との出会いも深まる。さらには食と言っても食べることだけではなくて、その手前につくること、それは調理という意味でのつくることもあれば、生産ということもあるでしょう。そうしたことがまさにこの食育の中では多面性として視野に入り、保育の中でも実践が展開されること、これが求められるだろうと私どもは考えています。

まさにそうした多面性をしっかりと目標とするような、具体的な子ども像の部分でも、さらには活動の窓口となる内容のパターンとしても、5つおいていることというのが、先ほど3番目でお話ししたような、ある活動分野だけに特化した、ないしは従来の給食計画の延長線上でどう献立をつくり、その献立を食する子どもたちに栄養面、食品面の中からどんな観点の学びをさせようかという、ある種限定的な取り組みではない、もっと生活に根ざした、ないしは生活を通して食育が育まれる。そういう可能性を示したカリキュラムの一例と言えるかと思います。

『保育に融合させたカリキュラム』

これは長野県の公立の保育所です。一番最後の、6つの類型の6番目にお話しした保育に融合させたカリキュラムの一例ですね。ごらんいただくと、一番上の方に園目標というのがございまして、その後に年間の目標、そして横軸に時間がとってあるわけです。これは5歳児の例です。1年を4期に区切りまして、それを目標、健康面、人との関わり、それから認識、表現などという内容を掲げながら、1年間どのように保育していくかということがカリキュラムになっているわけですね。

一見すると「これがいったい食育のカリキュラムなのか」というふうに言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この長野県の公立のG保育所の先生方は、大変自信をもって、胸を張って「これがうちの食育のカリキュラムです」というふうにおっしゃっていました。

つまり、これはまさに普通の保育のカリキュラムそのものではあるのですが、例えばちょうど1期、4月5月の「認識と表現」の3項目目に、「畑づくりや花壇づくりについてみんなで考え合い、認識などを育む」ということが書いてあります。こうしたように保育の通常の流れ、営みの中に食育の視点も入れてカリキュラムを編成する。それこそが、先ほど5番目のところでも少しお話ししました食の多面性を、生活を通しながらということを、もっと保育現場として展開するときの一つの計画ないしは見通しとして大変貴重な計画の立て方、パターンだろうと思います。

つまり、通常の保育に食育という項目を1項入れるというよりも、今まで入っていたさまざまな内容あるいは保育の領域的なものの中に食育的なものを加味しながら全体の保育の計画を編成していくというものですね。まさに日常的な生活から遊離した食育というものがあり得ない限り、今後取り組まれるべき計画の、ひとつの最も典型的なパターンというふうに言えるかと思います。

【「食」と「農」を関連・結合させた実践例】

次には内容の大きく3つ目ということになります。「食」と「農」を関連・結合させた実践例ということで、大きく7つの特徴的な実践を、さまざまな資料を送っていただいたり、あるいはヒヤリングをする中で受けとめることができました。1つ目は身近な自然の活用、2つ目が畑づくりの開始、3つ目が世代間交流による畑活動、4番目が地域の農作物生産者との連携、5番目が地場の農作物の活用、6番目が米づくりへの挑戦、7番目が農園設置による実践というものです。

この7つ、必ずしもどれが良いということではありません。それぞれの園の実態、地域の現状が違えば、同じようにできるということはありません。しかし1番目から7番目まで、ある種身近なものから「食」と「農」の関連を結合させ、最終的には本格的な農園設置にまで至る、こうした一つの流れというものも、この掲げられている7つの中にはあると言ってもいいかもしれません。でも、それは7番目の農園設置こそが一番良いのだということを言いたいわけではありません。

『身近な自然の活用』

では、その具体例をいくつか紹介しておきたいと思います。まず秋田の保育所です。この園は自前で畑をつくるスペースもそう豊かにはない。さらには1年の半分近くは雪で埋まるという中で、なかなか温暖な地域ほど畑などはできない。では、それでは「食」と「農」を関連させた取り組みはできないのかというと、いやそうではなくて、天気のいい時季、あるいは春夏秋という時季に近所のところに散歩に行き、さまざまな食べられるものをとってくる。ささやかですが、こうした取り組みがもう一度この「食」と「農」を関連させた取り組みの中で注目されるほど重要かということを気づかせてくれた取り組みでした。

『畑づくりの開始/世代間交流による畑活動』

これは愛媛県の取り組みで、畑づくりの開始。早い話、畑がなければ自分たちでつくろうと考え、そして園よりもちょっと離れたところに土地を借りて、保育所の子どもたち、さらには地域の方たちも協力していただいて取り組んだというものです。

次は長野の保育所です。ここの園はその畑活動をかなり長期にわたり、さらには年を越えて次の学年にも引き継ぐ。そうした取り組みをしているのですが、そうするとその管理運営も含めてなかなか保育所だけではむずかしい。そんなときに、在園児のおじいちゃん、おばあちゃんたちに協力を仰ぎながら進めているという取り組みです。

これは1年間、地場の野菜を活用しながら取り組んでいる一例です。茨城の例ですが、例えば7月などにはその土地でとれる茶摘み、さらにそれを給食に活用するということに取り組んでいます。

さらには同じ農園でも収穫されたものを自分で口にするだけではなくて、さまざまな生活の中で起こる行事、例えばここにあるのは卒園式用のコサージュをつくっている写真ですが、こうしたものにも活用しながら、つくること、食べること、さらには生活に生かすことをこの本格的な農園づくりの中で取り組んでいるという一例ですね。

【まとめと仮説】

以上、取り組んだことを整理してみますと、保育現場で食育に視点を置いたより精緻な年齢別指導計画を作成するためには、やはり改めて小学校以上の教科的な発想を脱皮した中で、体験を通しての学びが保育現場にとっては重要だろうということを感じました。

2つ目は、豊かな体験を育むためにはやはり環境が非常に重要。特に「食」と「農」ということではそれを改めて考えなければいけないと気づかされました。

3つ目は、食と農のつながりを子ども自身が気づき、大切なこととして受けとめていくためには、日常生活の中での栽培が自然な形で生活の中に位置づくことが必要だろうということも感じました。

4つ目は、そのためには保育者が「食」と「農」の結びつきを大切に考え、さらに地域で栽培等のノウハウをもつ大人たちとのふれあいも不可欠であるし、園だけですべてを完結させるという必要もないだろう。そのことがまた、継続する中で各園の文化にまで「食」と「農」の関わりが高まっていくことが重要だろうと感じました。

以上を踏まえて、いくつか仮説ということで、4歳と5歳児の例を示しておきます。今、2つが4歳で、これが5歳。

先ほど長野の例でお話ししましたように、保育の計画の中に自然に溶け込ませる形で4歳と5歳の試案というものを考えてみました。ですから、当然月単位に保育の区切りを考えるのではなくて、起案的なものということで、まず時間軸を立てながら、内容としては「子どもの姿」「ねらいと内容」「環境構成と援助のポイント」、そして「保育者の視点」という4つの窓口から年間の指導計画レベルを考えてみたわけです。

特に「ねらいと内容」「環境構成と援助」は、通常はもう少し細かく分けるという方法もあるわけですが、切れ目のない生活を通しながら食育も育てていく、ないしは子どもの主体性も育んでいく保育においては、あまり細かく分けるのではなくて、関連性を考えながら示すというパターンを考えました。

そして、特に「ねらいと内容」の中に、例えば5歳の11月ごろの、これは5期ですが、収穫祭等も取り組みながら、さらに秋の自然を感じたり、畑の収穫物調理うんぬんの留意事項なども設けながら、通常の保育との連動性を考えたひとつの試案を示してみました。

座長丸井
師岡先生、どうもありがとうございました。各種の現場での活動をご紹介いただきました。後ほどポスターセッションで個別にいろいろ質問していただけると思います。

最後に試案を出していただきましたが、基本的には、それぞれの園の環境に応じて、ご紹介いただいたような個別のカリキュラムをつくる能力をそれぞれの園で育てていく必要もある、ということであろうかと思います。


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