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研究課題名

こどもはほんとうに野菜が嫌いか?
―野菜の生産から消費の体験およびこどもの食歴と嗜好変化についての研究―

代表研究者/発表者 原 知子(はら ともこ) 神戸山手短期大学生活学科助教授

【研究の目的】

この研究の内容と目的は、調理教室の活動を通じて子どもたちの野菜摂取がどういう状況であるか、家族と一緒に参加した活動を通して、子どもたちにどのような変化が認められるか、また、本当に子どもたちが野菜を食べないのか、子どもは野菜が嫌いなのか、ということについて調べてみました。さらに、「こども野菜クラブ」の子どもたちの人数は限られておりますので、一般の幼稚園児、小学生、中学生、高校生についての野菜の摂取状況、認知度、食生活傾向などについても調べ、野菜クラブでの傾向と同様な傾向が認められるかどうか、特に野菜摂取と野菜への関心が関連するかについて考察しました。

【結果と考察】

1 こども野菜クラブの料理教室とアンケート調査

1)こども野菜クラブの料理教室について

昨年度の料理教室のメニューを示しております。メニューは土井信子氏が提供しております。いわゆる家庭料理で、旬の素材を取り入れ、生の野菜・茹でて「かさ」を減らした野菜を使う、あまり普段は食べないであろうニンジンの葉を使う、あるいは黄身の色を調整していない白い黄身の卵を使うなどして、理論でなく体験で違いを感じて、よい食材とは何かを考えてもらうきっかけを提供しています。

写真は、実際の料理教室の風景です。8歳ぐらいになりますと「任しておいて」と言わんばかりに、自分たちでさっさと仕事を見つけて働きます。お父さんもエプロン姿が似合って、男の子たちも積極的に慣れた手つきでお料理を楽しんでいます。コンテナにいっぱい盛り込んだ野菜を洗っていると青虫が出てきたりしますがこのような経験も大事にしております。また、小さな子どもも、自分でできる範囲を自分でやることで達成感を味わう事ができます。時間がかかるのでお母さん方は少々はらはらしてしまうのですが、家庭ではすぐに手を出してしまうところを、こういう教室ではじっくり見守っていける環境を作り出せるのではないかと考えています。

2)毎回の料理教室での食事状況(野菜に着目して)

メンバーのこどもたちの野菜の食べ方の状況を把握するために、毎回振り返りシートを記入してもらいました。メニューの中に出てくる野菜ごとに、「まったく食べなかった」「あまり食べなかった」「すべて残さず食べた」「好んで食べた」「普段の家庭の生活よりも喜んで食べた」「今まであまり食べなかったがこの教室で食べた。このメニューで食べた」の項目、さらに一カ月後に「教室の後自宅でつくって定着してきた」という状態を順に1〜7の7段階で「食べっぷり評価点」としました。

「食べっぷり評価点」において、5・6・7点はやはり特記すべき段階ということで、野菜が以前に比べて好きになった例とみなしております。例えばチンゲンサイについて、以前は家で全く食べなかったのに、教室でチンゲンサイの炒め物を食べてから大好きになったというようなケースもあります。このような特記すべき例数をみたところ、1年間の延べ148例において5以上のケースが一つ以上ついたのは41人に認められました。一方で「まったく食べなかった」「あまり食べなかった」という件数も、5以上より少ないですが出現しております。これについてはもともと食の細い人が量的に食べられないという状況、何品かのうちで全く手をつけないものが出てくるという状況もあります。嗜好的な要因や運動量が少ないために食べていないなど要因が多いため、今後の課題として残っております。また、個人ごとの同じ種類の野菜に対する評価の変化は、一定の子どもは少なく、評価点が変化することが多いということが観察されました。「とても辛味の強い紅ショウガが大好き」、「ニンニクが大好き」「ニンニクは大嫌い」、「ポン酢が大好き」、「すっぱいものが大好き」というように、その子一人一人の個性が感じられる場面が多く、全体に共通するような基本味の好みの傾向というのは、この1年間を通して、参加メンバーについては観察されませんでした。

3)子どもたちの野菜「たべっぷり」の変化は何に影響されやすいか?

野菜ごとにどういう評価点をつけられたかということを見ましたら、一番高得点をあげていたのがヨモギです。ヨモギ、絹サヤ、チンゲンサイ、セロリ、菜の花というふうに、後述のアンケートでは一般的に好まれないという野菜について高得点が認められています。従って、明らかに、好まれる好まれないということではなく、なんらかの状況によって「食べる、食べない」が変化していると考えられます。

評価点第1のヨモギは、団子作りで登場しました。自分たちの手でダンゴの触感を感じながら丸めるという作業が楽しく、気持ちが昂揚するということもあります。さらに、茹でるときに自分で大鍋に団子を投入した瞬間くすんだ緑色から透明感のある緑に変わる、それを見た子どもたちはワーッと歓声をあげました。そういう感動が評価点の良さになるというケースも多いと考えられます。

4)料理教室に参加したこどもたちの変化および一日の野菜摂取種類数

「たべっぷり」を記録する振り返りシートには保護者からたくさんのコメントが寄せられますので、その一部を紹介します。「だらだら食べの改善」「料理のレパートリーの広がり」「作る楽しさ」などが挙げられております。教室ではみじん切りが粗くても「粗いよ」というような言葉はかけないようにし、サポーターさんが必ず「できたね」と完成したことを一緒に喜んで声をかけます。「料理が楽しいな」という感覚を味わうと同時に達成感を感じてもらえるのではないかと考えています。 どうすれば子どもが食べるか、どういうときにどういう状況で食べたり食べなかったりするか、という意識化が明確になっているというコメントも多く、お母さん方にとっても、子どもたちへの観察が綿密になっていくという効果も期待しております。

年度末に、「クラブに参加して子どもたちが変化したこと」を質問したところ、保護者からは「お料理への関心が増した」「食事の手伝いをよくしてくれるようになった」「食事内容への関心が増した」「野菜をよく食べるようになった」というこどもたちの前向きな方向性が認められました。

そこで、野菜に着目して、野菜をどの程度食べるようになったかということの指標として、一日の摂取野菜数を調べました。

比較のために高校男子生徒、短大生にも、同じように「一日に食べた野菜数」を調査しました。野菜クラブメンバーの1日の摂取種類数は11.5、高校男子生徒では3.5、残念なことに生活系の短大生でも5.2というふうに、メンバーで有意に多いという結果が得られております。

1年間という短い期間の観察ですが、野菜クラブの子どもたちの「食べっぷり」は変動しやすく、料理体験やその場の雰囲気などに左右されやすいということが確認されました。したがって、料理の内容だけでなく、食事の前後や食卓の雰囲気を大事にするという必要性が感じられました。また、メンバーは家族で野菜作りや料理教室に興味をもっており、一日の摂取野菜種類数が有意に高い傾向が認められました。

2 一般園児、小学生、中学生、高校生についてのアンケート調査

次に、一般の園児・小学生・中学生・高校生について、料理や食事に関する興味や家庭の食生活環境が野菜摂取に影響するかを調べるために、一日の野菜摂取種類数、73種類の野菜についての認知度、野菜に対する意識、家族の食事に関する意識などについて、アンケート調査を実施しました。

1)野菜の認知度および好きな野菜・嫌いな野菜

一日に食べた野菜の種類で多くあげられたものは、ニンジン、タマネギ、キャベツ、キュウリ、レタス、ネギ、ダイコンというような、いわゆる指定野菜でした。従って量的にも多く摂取されているものが多いと考えられます。

73種類の野菜の認知状況では、アーティチョーク、あさつき、あしたば、クレソン、タラの芽、菜花、クワイ、セリ、ジュンサイ、ワケギなどについては「名前を初めてきく」という答えが多く、トウモロコシ、キャベツ、枝豆、レタス、もやし、ハクサイなどは「好きな野菜」という答えが多かったものです。全体的にみて、好きな野菜が案外多く、嫌いな野菜は少ないのではないかと考えられます。具体的に好きな野菜、嫌いな野菜の種類数をみますと、園児、小学生、中学生、高校生の全学年において、好きな野菜数のほうが圧倒的に多く、全平均約21種類で、嫌いな野菜種類数の平均10種類の2倍以上もありました。「初めて聞いた」野菜については、経験の差によることが多いため、高校生は他の学年に比べ有意に少ない結果となっております。その他については年齢で有意差はありませんでした。子どもたちは野菜が嫌いというイメージとは逆に、子どもたちの好きな野菜の種類は大変多いのではないかと考えられます。

「嫌いだった野菜を食べるようになった理由」で一番多かったのは、「料理方法が違った」「違う料理に使ってすごくおいしいと思った」という意見で、改めて調理の重要性を認識します。

また、「知らないうちに何となく」「感じ方が変わった」という理由も多く、自然に食べるようになる場合もあり、嫌いだからといって食べる機会を無くさないようにすべきではないかと考えられます。「食わず嫌い」「努力」「慣れ」「エピソード的なきっかけがある」「自分で栽培してみた」「おじいちゃんの家へ行ってとれたてを食べておいしいと思った」というような理由もありました。

2)1日の野菜摂取種類数

一日の実際の野菜摂取種類数を学年ごとにグラフに表してあります。1日の全野菜種類数、緑黄色野菜種類数を食事ごとに表しております。園児・小学生に比べて女子中学生・女子高校生で減少傾向にありました(p=0.000)。女子高校生が女子中学生よりもやや多いという結果が得られていますが、調理実習が必修科目の女子高校であるなどの影響が出たためではないかと考えられ、先の男子高校生・短大生の結果とあわせてみると、成長するにつれ野菜摂取数が減少傾向にあると考えられました。

3)野菜摂取数に影響する食生活環境

野菜に関する意識についてのアンケートの項目から、74変数を「林の推量化理論三類」によって分析しました。1軸の説明変数は、自分自身の意識として野菜が摂れているかどうか、野菜の認知度、嫌いな野菜が実際に出てきたときに食べるかどうか、というような野菜摂取意識をあらわしており、2軸の説明変数は、野菜摂取の意識、実際の野菜摂取が多いか少ないかということをあらわしております。各年代について見ますと、園児と小学生のグループは、家庭での野菜関心度が高く、平均よりも摂取数が多い、嫌いな野菜をしっかり食べようとするという素直な意識が特徴としてあげられます。中学生では、家庭での野菜関心度が低い、認知度得点もやや低い傾向で、野菜摂取数もやや低いという特徴があり、他の群に比べて嫌いな野菜は食べないという傾向があります。高校生はその中間に位置しております。
これらの結果から、家庭の野菜関心度と実際の摂取種類数がきわめて関連していると考えられました。

クロス集計の結果から、家庭での料理のお手伝い頻度と野菜摂取について、お手伝いをよくする人で野菜摂取数が多く、しない人で少ないという傾向がありました。また、「嫌いな野菜が出てきたらできるだけ食べるか」の質問に対する答えで、「できるだけ食べる」、「食べない」、のうち「食べない」という答えが36%もあり、必ず食べる群で実際の摂取種類数も多いという結果が得られています。嫌いなものは食べない、という人が多く、もう少し食べる・食べさせる努力が必要ではないかと考えられます。家族に教わって調理することが多い人と、そうでない人では、一緒に調理する人が少ないためか「多い」の回答数は少ないのですが、野菜の摂取数は大変多いという傾向がみられました。

まとめ

「こども野菜クラブ」メンバーが、野菜や料理、食事に対する関心が高く、定期的に料理教室で一緒に食事をするという特徴があり、1日の野菜数が高いという傾向が認められました。一般の園児〜高校生へのアンケート結果でも、家庭での野菜の関心度、家庭で一緒に料理をするなどの場合に、実際の野菜摂取数が多いという現象が認められました。従って、「こども野菜クラブ」のような活動が日常の野菜摂取を高めるための一つの手段として有効ではないかと考えております。

ただし、成長に伴って家庭における野菜関心度が低くなる、あるいは家族とのコミュニケーションも少なくなる傾向も認められます。「食に関する知識」は成長するにつれ蓄積され、定着するはずであるが、現実には知識のみでは実際に結びついていない状況が存在します。その上、「こ」食化(孤食、個食、小食など)が進行していると言われているように、仕事や友だちとのつきあいなど、家族の食卓から離脱するライフスタイルになりがちです。そういう「非日常的な」場合でも幼いころから自分の食事を準備すること、みんなで楽しく食事をする、という習慣が身体感覚として身についていると、食事内容への配慮や、日常の食卓における家族とのコミュニケーションを大事にできるのではないだろうかと考えます。まだまだ、食の細さ、むら食い、アレルギーなど問題は山積しておりますが、1年間という短い期間でも、こどもたちの毎回の料理の上達や野菜に対する関心度の高まりが観察されました。活動を支えるボランティアの方々のご苦労があってのことですが、引き続きこども野菜クラブのメンバーの食べっぷりの状態、「食卓力」などを見守っていきたいと考えております。
最後になりましたが、このような研究発表の機会を与えていただきました農山漁村文化協会にお礼申し上げます。また、アンケートにご協力いただきました先生、ご回答いただいた方々にこの場を借りてお礼申し上げます。

座長丸井:原先生、どうもありがとうございました。家族そろって非常に関心が高いであろうというグループと、どちらかというと一般の生徒、学生のグループ、二つのグループについてのご報告だったと思います。
この「子どもはほんとうに野菜が嫌いか」というタイトル、私も非常に印象的です。お話の中にありましたが、「好き嫌い」というのと「食べる食べない」というのはかなりずれている要素がありますが、一つは本当に子どもは野菜が嫌いなのかどうか。これについてのお考え、そしてもう一つ、「食べる食べない」と「好き嫌い」との間のずれというのはどんなふうにお考えでしょうか。

:「好き嫌い」というのは主観的な感覚で、何をもって好きと判断するかは人によって異なっているかもしれません。例えば、アンケートでも「好きである」「嫌いである」というふうに丸をつけて答えていただきましたが、直感的に好んで食べたいものが「好き」と判断されていると考えています。

こどもたちの食べる様子をみておりますと、「嫌い」すなわち、あまり食べたくないというものの中にはたまたま以前に食べてあまり好ましくない印象があった、食べず嫌いなどのケースもあり、本当に野菜が嫌いであるとはいえない場合が多いように感じます。また、嫌いだったが食べるようになった野菜のアンケートの答えに、調理方法が変化したり、収穫したてで食材の状態が違っていたりエピソード的な経験をする、などいろいろな理由で「おいしいと思った」という答えが多かったことと、さらに、好きな野菜の種類数と嫌いな野菜の種類数を比べると好きな野菜の方が有意に多い、ということなどから、子供たちは必ずしも野菜が嫌いではないと考えております。もう1点の、実際に「食べる食べない」については好き嫌いとは別の問題なのですが、「好き」=「食べる」と考えてもよいのですが、「嫌い」=「食べない」ではありません。昔は嫌いなものでも食卓に出されたものは一応食べるというしつけがありました。ところが、最近は、「嫌いなものは食べない・食べさせない」という傾向があり、好きになる機会が全く与えられないことが多いのではないかと危惧しています。

タイトルに「こどもはほんとうに野菜が嫌いか?」とつけましたのは、「こどもは食べないだろうから出さない」という先入観で食べる機会を奪っている状況はないだろうかという気持ちをこめております。もうひとつ、少し飛躍しますが、レトルトパックやお惣菜・加工食品があふれていて非常食が日常化しています。「お料理をしなくても食生活が営める時代になっている」と言う方もいらっしゃいますが、お料理をして食べるという行為が本当に不必要な時代になっているのだろうか、一緒にお料理をしてもともとの素材の味を知る、素材からどういうふうにして食べ物ができていくかということをふまえて食べる、あるいは作り手の苦労を想像して食べるということをしてほしい、このような思い入れを込めてつけさせていただきました。


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