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研究課題名

視覚障害者向け食育教材の開発
―模型と点字活用方法の検討―

代表研究者/発表者 加賀谷みえ子(かがや みえこ) 椙山女学園大学生活科学部食品栄養学科講師

【はじめに】

厚生労働省が平成13年に実施した身体障害児・身体障害者実態調査による視覚障害者数は、30万1,000人。そのうち視覚障害児は4,800人と報告されております。本年、食育基本法が施行され、今後ますます健常者、障害者の区別なくそれぞれのニーズに合った食育が望まれていくと思われます。

しかしながら、現状として視覚障害者は障害の程度が個々人で異なることから、視覚障害者向け食育教材は晴眼者向きのものに比べて十分にあるとはいえません。視覚障害者のうち両眼の視力の和が0.01以下の一級障害者と、両眼の視力の和が0.02以上0.04以下の二級障害者の占める割合が59.5%で、視覚障害者の程度の重い人が多い現状にあります。

【目的】

私はこれまでに視覚障害者、視覚障害児との関わりの中でさまざまな実態があることに直面し、特に2000年の春、当時小学1年生と2年生の視覚障害児に出会ったことがこの開発のきっかけとなりました。

晴眼者は情報の80%を視覚から入手できるといわれておりますが、視覚に障害をもつ子どもでは触覚や聴覚、臭覚などを使って情報の入手を行っています。このような実態から、教育場面において役立つ、食育用として繰り返し活用でき、教育効果も期待でき、手指で触察できる教材の必要性を痛感してきました。そこで、視覚障害者向けの食育教材の開発を試み、目的別、用途別に教材を作成し、その教材の評価を得る目的で研究を進めました。

【目的・用途別の食育教材開発の手順】

まず、事前調査として情報収集を行ないました。盲人図書館ですとか日本点字図書館、ライトハウス、盲人情報文化センター、点字学習会、盲人の方の講演会などを訪問し、実態把握を行ないました。次に、盲人家庭や盲学校を訪問させていただきまして、盲人の方がどのような空間で生活し学習しているのか、特に盲学校では先生方のご好意で授業参観等もさせていただきました。家庭訪問や学校訪問をさせていただいたことで、保護者の方や先生方との対話の中から今回の教材開発のヒントなど、情報を得る機会となりました。

次に、模型づくりに入る前に、実物大の食材、市販品等を購入して、それらの計量・計測を行ないました。その後、各種材料を使って試作品づくりを行ないました。検討・改良後、再度盲学校を訪問し、最終的に各種模型を完成していきました。

これは2回目の盲学校訪問で持参した、ウレタンとスポンジでつくった試作品の例です。ウサギリンゴ、リンゴの皮むき、手綱コンニャクなどです。

【塩化ビニール製模型】

ここからは塩化ビニール製の模型について説明いたします。盲学校の場合、模型の活用方法として調理実習の前段階での座学で学ばせることが可能なものであること、丈夫で耐久性があって繰り返し確認ができるものであることなどが要望として出されました。

そこで、握ったり折り曲げたりしても弾力性があり、簡単には壊れない特性を持った塩化ビニール製の模型を考案しました。主な材料と器具はここに示す通りです。

完成までの手順を説明していきます。野菜・くだものは生鮮食品を購入後、調理の基本となる食材の切り方等で各種成形し、成形品をデジタルカメラで撮影後、直ちにバットに並べ、シリコン剤で包埋し、硬化後、食材を取り出して型としました。これらの写真は模型をつくる前の原型を示しております。

これらも模型の原型です。上がリンゴのかざり切りを理解させるための模型の原型です。下は、テーブルマナー用としてバナナのいただき方を学ばせるための模型の原型です。

食材を取り出した「型」の部分に塩化ビニール剤を注入後、150度に加温したオーブンで焼き、原型を作成しました。原型は室温で冷却後、「型」から取り出し、仕上げはあらかじめ撮影した写真の色に合うようにエアブラシで着色しました。繰り返しの触察が可能な模型として作成しました。写真は完成品の例です。

【布製模型の完成までの手順】

ここからは布製模型について説明いたします。日本や外国の食文化を学習する手段として、塩化ビニール製に比べて手触りが柔らかで変形が自由にできる布を使った、繰り返し学習可能な練習用の模型づくりに取り組みました。私は料理教室のボランティア活動を現在続けておりますが、その活動を通して盲人たちの動きを観察した中で、教える側、教えられる側にとって便利な教材をつくろうと考えました。主な材料と道具はここに示した通りです。

布製模型の完成までの手順について説明いたします。布製模型は、日本料理を代表して助六寿司、中国料理を代表して餃子、シュウマイ、小籠包、西洋料理を代表してロールキャベツを取り上げました。まず、それぞれの市販品を購入後、大きさを計測・計量しました。特に助六寿司は巻き寿司とあげ寿司をそれぞれの具ごとに分け、大きさも測定しました。

これは市販の助六寿司を実際に計測した値を示します。巻き寿司の重量は太巻きと普通巻きとで違いがありますが、幅の部分はだいたいどの巻き寿司も2センチ程度の感覚で切られていることがわかりました。あげ寿司は、いずれのお店のものもだいたい45グラム前後で出来ていることがわかりました。

例として、巻き寿司のつくり方の説明をいたします。巻き寿司はあらかじめ計測しておいた値を使って、のりの実寸に合った大きさの黒色フェルトを2枚合わせ、4辺の縁をブランケットステッチでかがりました。具は、異なった材質の布を利用して、卵焼き、かんぴょう、きゅうり、かにかまぼこ、しいたけに、飯は毛糸を使ってガーター編みをして作成しました。繰り返し学習ができる学習用模型として、さらに食文化教育・教材用としても活用できる模型として作成しました。のり巻きの模型は本日持ってきておりますので、後でポスターセッションの席でお見せしたいと思います。

左の写真は、あげ寿司をつくる上で用いたスポンジ、毛糸、マーカーなどです。矢印の方向にあげ寿司ができあがっていきます。

これはロールキャベツの包み方を練習する模型です。上のほうにはキャベツをつくる際に用いましたフェルト、毛糸、道具を示しております。

これは上段に餃子の包み方を示した模型を示しております。下段はシュウマイの包み方、右端に小籠包の模型を示しております。いずれも布製模型は手にとって形の確認ができるものです。

【紙粘土製模型の完成までの手順】

次に、ここからは紙粘土製模型について説明いたします。普段手にとって触ると型くずれを起こすようなものは、手で触りたくても触察できません。和菓子は日本の四季折々の美しさや繊細さが表現された、日本の伝統的な食文化の代表です。しかし、手指で細部まで触ることができず、和菓子の形を認識することはむずかしいです。そこで、この美しい日本の伝統の技に触れ、日本の食文化の伝承と和菓子の美しさを伝えるため、紙粘土模型を考案いたしました。主な材料と用具はここに示す通りです。

紙粘土模型の完成までの手順を説明いたします。和菓子職人の作成した春夏秋冬の和菓子、「こなし」を撮影後、計量・計測し、図面を作成しました。実際の和菓子模型製作に当たっては、あらかじめ職人の技術指導を受けた後、紙粘土を使って和菓子を再現しました。その後、実物大重量と乾燥重量の変化を測定し、重量が一定となった時点を完成品としました。「こなし」のような和菓子は、通常触察が不可能です。そこで模型化することによって、日本の食文化を代表する和菓子の伝統美の触察が可能となります。

上の写真は職人がつくった和菓子です。下は私がつくったのですが、抗菌性の紙粘土で作成した模型です。

先ほどの模型と同じものなのですが、「こなし」のいろいろの形をごらんいただけると思います。この中から一つを例にとって、ここでは桜の和菓子のつくり方の模型の説明をいたします。

視覚に障害がありますと、和菓子のできあがったものに触っていただいても、これがどのようにできたかというふうに問われるわけです。そこで順番にこういう流れで出来あがるのだということを示すために、このような模型を作成いたしました。上から順番に、左から右へと触れていきますと、最終的に桜ができるというふうになるものです。

【模型評価】

これまでの各種模型を、今度は実際に、視覚障害者の方に手にとって触ってもらい、その模型についての評価をいただきました。対象および方法のところですが、人数は22名と少ないのですが、視覚障害児と視覚障害者、男性10名、女性12名、年齢は10歳から65歳の方です。調査期間は平成16年11月から平成17年2月。調査場所は盲学校、対象者の自宅、障害者福祉センター、視覚障害者施設です。調査項目は、障害の程度ですとか障害歴、料理に関する内容、調理技術に関する内容、模型の良し悪しを判定していただく内容です。

触察方法について説明していきます。私たち晴眼者は観察ということをしますが、視覚障害者の方の場合は実際にものに触れて、触って、その形を認識するということを触察という形でしております。各種模型は、まず点字と墨字を併記したものを、市販の硬質の塩化ビニール樹脂でできた下地に貼りまして、そのそれぞれの場所に模型を配置しました。対象者にはあらかじめ点字表記箇所がどこにあるかということを説明し、実際に手をとって誘導いたしました。その後、自由に手指で触察してもらいました。それで、最終的にそれぞれの模型が認識できたか、評価のための調査を実施しました。

これは巻き寿司のつくり方を学習する練習用模型です。左上から順番に見ていただきますと、できあがる過程がわかると思います。茶碗一杯分の飯をのり状に広げて5種類の具をのせ、手前から向こうへ巻いていくと巻き寿司ができるのだということを、対象者各自に実際に手にとっていただき、体験をしていただきました。そして、その後評価をいただきました。

先にもお示ししましたが、和菓子の模型を使いまして、和菓子がどのような手順でつくられているのかを触りながら見ていただくことを行ないました。その際に、紙粘土でつくりました立体模型と、ウレタンでつくりました半立体模型を並べまして、比較しながら評価してもらいました。

これは加熱前後の違いを学習する教材です。まず初めに、生の状態で100グラムがどの程度あるか、「かさ」を確認してもらいました。その後、加熱後にどれくらいの「かさ」に変化するかをまず想像してもらい、そして触っていただき、想像通りであったのかどうかを評価していただきました。

これらはいろいろな食材の切り方を学習する模型です。触る前に、切り方について、切り方の名前を知っているかどうかを質問し、その後触ってもらって、自分の想像と合致しているのかどうかの確認をしてもらい、評価を得ました。

できあがった料理は素手で触ることはできませんので、視覚障害者に料理の盛り付け方やできばえを伝える手段として、サラダの盛り付け体験学習を実施しました。これがサンプルで、8種類の模型を用意しました。お皿に並べていただきまして、自分で自由にサラダづくりをやっていただきました。

何人かに実際に盛り付けていただいた写真をここに示しております。どちらかというと平面的な盛り付けが多く、しかも対称に重ねて盛りつけるというよりは、トマトも対称的だったり卵も対称的だったりという感じに盛られておりました。

【まとめ】

実物大模型を自由に触察できることでそれぞれの特徴を理解する一助となり、わかりやすい模型との評価を得ました。2つ目に、「最も好まれた模型は3つのうちどれですか」ということを聞きましたところ、一部の方は複数回答をいただいたのですが、布製塩化ビニール製模型が41%、紙粘土製模型が23%という評価で、ウレタン製の模型は好まれないという結果と得ました。

3つ目に、サラダの盛り付け体験学習を実施したところ、多数の者が皿上に平面的かつ対称的に盛りつけることがわかりました。4つ目に、今後触れてみたい、確かめたい、使ってみたいと思う食材、食文化教材についての回答を求めましたところ、魚の各種の形、魚の二枚おろし、三枚おろしの手順、パンの形、パンのつくり方、ケーキの形、ケーキのつくり方、アイスクリームパフェなどを挙げておりました。

5つ目に、盲学校教諭からは実習前の座学学習用としてこれら教育教材の活用が期待できるとの感想を得ました。

今後の課題として、私どもの大学は管理栄養士養成を行なっておりますが、これからも栄養士を目指す学生に対して障害者に対する知識と教育、視覚障害者向け教育媒体の作成指導を継続し、実施していきたいと思っております。また、全盲に近い視覚障害児が普通学級に通学し、健常者との統合教育を受けたり、社会性や豊かな人間性を育むための交流教育の場面や、地域社会活動、公衆栄養活動現場などでの媒体活用の共有化や、これら媒体の応用拡大を考えていきたいと思っております。

最後に、今回この場に参加していただけなかった岩山先生を紹介させていただきます。この先生は現在闘病中で、今病院にいらっしゃるのですが、その先生がつねづねおっしゃっておられる言葉をご紹介させていただきます。「我々盲人は不自由があっても、決して不幸ではない」という言葉です。

また、この研究にご協力いただきました不老園の加藤信氏、元名古屋盲学校の宮下先生、現在の名古屋盲学校の高野先生、棚橋先生、黒田先生には、いろいろご助言、ご指導いただき深謝申し上げます。

座長丸井 加賀谷先生、どうもありがとうございました。とかく見落としがちな、非常に大事な研究だったと思います。特に模型の食べ物が非常にきれいだったのが印象的でした。

先ほどらい、「食べ物で、実際に触るだけでは理解しにくいようなもの」というお話がありましたが、むしろ実物で構わないものもあるかと思います。場合によると、何か他のものでつくると触感が非常に変わってしまって、実物に触れたときに随分違うということが起きてくると困るのかな、ということも思いました。例えば布でつくると、手順は学べるけれども実物に触れたときにこれは随分違うと。例えば温度とか、そういう触感が違うというような問題はあまり起こらないのでしょうか。

加賀谷 実際に視覚障害児をもっておられるお母さんたちと話した際に、家庭では小さいころから実際のものに極力触らせて、これが何であるかということをさせています。それが私も一番だと思うのですが、教育現場、例えば教室の中に入りますと、毎回食材を持ち込んでやるということはなかなかむずかしく、費用もかかるということもありまして、子どもたちには「これは模型である、大きさは同じである」ということをあらかじめ伝えた上で、繰り返し触って形を確認するのには役立つのではないかというふうに、盲学校の先生からも助言をいただきまして、こういった形で発表させていただきました。


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