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研究課題名

環境に配慮した食生活を実践する力を育成する食育プログラムの開発

代表研究者 高木 直(たかぎ なお) 山形大学地域教育文化学部生活総合学科教授
発表者 大森 桂(おおもり かつら) 山形大学地域教育文化学部生活総合学科助教授

【はじめに】

山形県長井市では、各家庭から出る生ゴミを回収して、堆肥をつくり、それを使って栽培された作物を販売して家庭で消費するという、台所と農業をつなぐ長井計画「レインボープラン」を実施しております。このレインボープランは、実際に稼働してから約10年になります。

開始当時は非常に先駆的な活動でしたが、今ではこのような資源循環型システムが各地でおこなわれるようになっています。このようなシステムが各地において今後も継続し、さらにより良く発展していくためには、次代を担う子どもたちにも、地域住民としてこのシステムに主体的に参加する姿勢を育む必要があり、そのための食育プログラムを開発する必要があると考えました。そこで、本研究では環境に配慮した食生活を実践する力を育成するための食育プログラムを開発するために、山形県長井市及び県内その他の地域の児童の、環境問題や資源の循環に関する知識や行動の実態を明らかにし、さらに授業実践を行ない、それによる児童の変化を調査しました。この発表では、長井市における調査と授業実践の結果を中心に報告していきたいと思います。

【レインボープラン】

これがレインボープランを表した全体の流れです。このレインボープランというのは、行政からだけではなく、市民も参加した町づくりとして企画されました。まず一般家庭から、生ゴミが出されます。週に二回、これがトラックで収集されて、コンポストセンターに運ばれ、約三ヶ月で堆肥になり、できた堆肥を使って農家が農作物を作って販売し、それがまた各家庭で購入・消費され、また生ゴミとして排出されるという循環になっています。このシステムにおいて一般市民の役割は、生ゴミをきちんと分別して出すこと、そして、レインボープランでできた農作物を選択・消費するということが考えられます。

当研究室では、小学生を対象にこのレインボープランについて紹介するための教材を作っており、具体的でわかりやすいので、今日はそれをいくつかお見せしながら、レインボープランについて紹介していきたいと思います。各家庭では、このようなグリーンのバケツに生ゴミを集めます。これは内側がザルになっていて生ゴミを水切り出来るようになっています。このバケツを持って、毎週二回、市民がその回収場所に生ゴミを持っていきます。この生ゴミのなかには、防腐剤を使っている果物の皮や、塩分の多い漬け物は微生物が分解できないので、いれないことになっています。このように各地域からトラックで運ばれた生ゴミはこのコンポストセンターに運ばれ、混ぜ合わされます。ここでは、各家庭からでた生ゴミ以外に糞尿や、畜糞、それからもみがらなども運びこまれ、混ぜ合わされます。

コンポストセンターで第一次発酵から第三次発酵まで進み、約三ヶ月で堆肥ができます。この施設は見学もできるようになっています。発酵の過程で分解されなかった金属片やプラスチックのスプーンに、調味料の入っていた小袋はこちらに除かれます。この施設を私も実際見学しましたが、分解されずに残ったこれらのものを実際に目にしますと、分別の大切さを改めて思いしらされます。ただ、このように分解されずに除かれる量は長井市では非常に少ないといわれています。そしてできた堆肥は、農家が直接トラックで持っていって、自分たちの農作物に使ったり袋詰めされ、家庭菜園などにも使われています。

農家で出来た農産物は、農協の直売所ですとかこのような長井市内のレインボープランのアンテナショップで販売されています。商品には、生産者の顔写真がついている他に、レインボープラン農産物推奨シールというものがついていまして、市民はひと目で分かるようになっています。このシールがついているということは、レインボープランの堆肥を使った農作物であるということ以外に、農薬を普段使う量の半分以下に抑えている、除草剤や土壌消毒剤を使用していない、などの規定を満たした農作物であるという証しになっています。安全で安心な食べ物を手に入れたいという市民にも非常に人気で、売り切れるようで、地産地消にもつながっているということです。現在40軒ほどの農家が、このレインボープランに賛同していますが、今後は、この賛同する農家を増やすことが課題になっています。

【長井市内の児童の意識調査】

このようなレインボープランを実施している長井市の児童は、資源の循環や環境問題に対してどのような意識をもって生活しているのか、ということを今回の研究で調査しました。これまでに、長井市の成人市民に対しての調査は行なわれていますが、子どもを対象とした調査は報告されていません。今回、長井市にある全小学校の協力を得ることが出来まして、6校の5,6年生男女計580名ほどの児童を対象に、調査を行ないました。調査は主に二つで、質問紙法とイメージマップ法による調査を行ないました。いくつかの調査結果を報告します。

まず、レインボープランの認知度です。約9割以上の児童が「知っている」と答えました。長井市以外の地域で比較調査を行なった結果では、「知っている」という児童は5%、「聞いたことがあるが知らない」という児童は30%でした。このことからも、長井市の児童はレインボープランについてよく知っていると考えられます。次に、環境に配慮した行動として、ここでは次の二つの結果を示しました。「あなたはゴミを分別して捨てていますか?」という問いに対しては、6割が「いつも分別する」と答え、「時々分別する」と答えた児童を合わせると、約9割以上が分別していました。比較調査を行なった地域でも、「分別する」が6割、「時々分別する」が約3割で、同様の結果が得られました。「あなたはゴミを減らす工夫をしていますか?」という問いに対しては、「とてもしている」と「少ししている」を合わせると約65%の児童が、なんらかのゴミを減らす工夫をしていると回答していましたが、「まったくしてない」という児童も13%みられました。

次に、本調査では画面に示した10項目の行動について、児童に日頃の生活で「出来ていますか?」と尋ねました。この数値は「出来ている」と回答した児童の割合になります。「出来ている」と回答した児童の割合が高かった項目は、水や電気の節約など、子どもたちにとって、身近で、自分たちの意志で比較的実行しやすい行動でした。実践率が低かったものは、購入の際の選択に関わる行動でした。本調査では、今示した質問紙以外に、イメージマップ法という方法で児童の生ゴミに対するイメージを調査しました。

これは、5年生の女子が実際に描いたイメージマップです。今日、教育実践では、物事の関係を図式化する方法として、コンセプトマップですとか、ウェッビングマップなど、さまざまなマップ化法が取り入れられています。このイメージマップという方法に関しても、自由に言葉をつないでいって、マップとして実践されている方も多いのですが、今回は、大阪大学の水越氏らが開発したイメージマップ法に則って行ないました。まず、「生ゴミ」という言葉を、イメージを刺激する刺激語として中心にあらかじめすえておきます。この「生ゴミ」から最初にイメージする言葉をこの四角の中に書いて下さいと指示を出します。この言葉は「ファーストワード」として、特に着目します。この「生ゴミ」からそれ以外にもイメージする言葉があったら、この内側の円に書きます。そして、この言葉からさらに連想することがあったら、この外側の円の上に書いて線で結びます。言葉はいくつ足しても構いませんという指示を出します。長井市の児童一人一人が描いたイメージマップを分析した結果、ファーストワードとして最も多かったのが「レインボープラン」という言葉でした。これはちょっと驚きで、そして、二番目が「肥料」という言葉でした。なお、比較調査を行なった地域では、一番多かったファーストワードは「食べ残し」でした。二番目は「臭い」という言葉でした。このことからも、長井市の児童は、「臭い」「汚い」という否定的なイメージだけでなく、生ゴミが資源になるとイメージしている児童が多いと考えられます。

この児童一人一人が描いたイメージマップから、さらにその児童が、資源の循環をどれだけ理解しているか、ということを評価してみました。最初に与えた「生ゴミ」という刺激語から、堆肥や土に関わる言葉までをイメージマップの中でつなげられた場合を「理解度1」、そこからさらに生産物や食べ物に関わる言葉までイメージマップの中でつないでいたら「理解度2」、さらにそこから再び生ゴミまで言葉がつながっていた場合には「理解度3」としました。一方、イメージマップの中で、生ゴミからその他の言葉のみがつながっていた場合には「理解度0」としました。これが全部の児童の集計結果で、もっとも多かったのは「理解度1」すなわち生ゴミから堆肥になる、土や堆肥のところまで結びつけられている児童でした。ただ、次に多かったのが「理解度0」で、これが36%みられました。「理解度3」の児童は、5%弱でした。比較調査を行なった地域で一番多かったのは「理解度0」で、約6割を占めており、「理解度1、2、3」の割合も長井市の場合よりも低いという結果でした。このことからも、長井市の子どもたちは、生ゴミは資源になると理解できている児童が多いことが考えられました。ただし、「理解度3」が5%ということから、資源の循環を全体的に捉えられている児童はまだ少ないと考えられます。

次に、資源循環理解度の高い児童と低い児童で何か行動に違いが見られるかということを分析してみました。今回は、行動としてゴミの分別をしているかどうか、ゴミを減らす工夫をしているかどうか、先ほど紹介した結果ですね、それからさきほど10項目を示したエコ生活チェックの合計点をエコ生活得点とし、取り上げました。上の二つの行動に関しては、これらを実践していると回答した群と、実践していないと回答した群に分け、それぞれの理解度0から3の割合をカイ2乗検定により分析しました。さらに、資源循環理解度0から3の各グループに、エコ生活得点に違いが見られるか、分散分析を行ないました。その結果、本調査ではゴミを減らす工夫をしていないと回答した群は、工夫していると回答した群に比べて、「理解度0」の児童が有意に多いという結果になりました。一方、ゴミの分別をしているかどうか、それから、エコ生活得点には、資源循環理解度との間には、有意な関連はみられませんでした。このことから、資源循環理解度と行動にはなんらかの関連があることが示されましたが、今後、さらに両者の相互関連性について多面的に調査する必要があると考えています。

さらに、環境について学習する経験や野菜づくりの経験がある児童とない児童で、この資源循環理解度に違いが見られるかについても検討しました。カイ2乗検定の結果はいずれの場合も有意で、環境問題について学習したことがない、あるいは学習したか忘れたと回答した群や、野菜を作ったことがない、あるいは忘れたと回答した群は、それらの経験があると回答した群に比べて、「理解度0」の児童が、やはり有意に多いという結果でした。この結果から、子どもたちが興味を持って、意欲的に取り組めるような環境学習ですとか、栽培活動を行なうことによって、子どもたちの資源循環理解度を高めることが出来るんじゃないか、そういう可能性が示唆されたと考えています。

【授業実践】

そこで、レインボープランは子どもたちにとって、非常に身近な生ゴミから環境問題について考えることの出来る効果的な学習教材になると考え、長井市以外の地域で、ゲストティーチャーによる授業を計画し、実践しました。この写真の男性は共同研究者の菅野氏で、この方はレインボープランの立ち上げから関わった推進協議会の会長であると同時に、長井市に生まれ育ち30年間農業をされているベテランの農業家です。各地からレインボープランの視察に来る団体の対応もされていますし、自らの今までの取組みや、思いを新聞記事や本にまとめられたりもしています。教育活動にも積極的に参加されている方なので、今回この方にゲストティーチャーをお願いし、山形市にある山形大学附属小学校6年生の家庭科の授業の中で、菅野さんをお招きして、環境に関する学習を行ないました。なお、このクラスは男子18名、女子22名、計40名のクラスです。

これは菅野氏の授業の内容です。カギ括弧の中の言葉は、菅野氏が実際に授業のなかで話された言葉です。菅野氏は授業の中で土に焦点をあて、資源、生命の循環について話しながらレインボープランの仕組みについても話しました。はじめに、土の中の微生物について説明し、そして土を通して私たち人間は食べ物を食べていて、生命がそのなかに循環していること、だからこそ、私たちは土を汚してはいけないんだということを話しました。そして、さらに生ゴミはまだたくさんのパワーが残っている資源だということに着目してレインボープランを発想したんだよ、ということを話され、レインボープランの仕組みについて、子どもたちに説明しました。最後には、土や自然をとおして、自分たちの命がたくさんの命によって支えられているんだ、だからこそ、その命を大切にしなくちゃいけないということを話してまとめられました。授業のなかで、菅野氏は土や自ら育てて今朝採った大根を持ってきて、実際に子どもたちに見せ、子どもたちは興味津々でさわったりしていました。

この授業を聞いたあとの児童の感想を分析した結果、新たな発見があったという意見や、何かをしたいという実践の意欲を示す意見が目立ちました。発見の具体的な内容としては、土の大切さ、生ゴミが資源になるということを発見した児童や、食べ物は大切なんだということを発見した、また、レインボープランは素晴らしい取組みで、山形市でもぜひやってほしいという意見などでした。また、実践したいという内容では、土や自然を大切にしたい、食べ物を大切にしたい、命を大切にしなきゃという意見の他に、私も堆肥をつくってみたい、これから分別をしっかりしていきたい、自分も生ゴミのリサイクルをしてみたいという具体的な活動を挙げる児童も見られました。このことから菅野氏の話を通して、改めて子どもたちは自然が循環していることに気づき、それを大切にしていこうという意識が引き出されたと考えられます。

それでは、授業の前後で、児童のイメージマップはどれだけ変化したでしょうか。これはある児童の授業前後のイメージマップです。この児童は劇的に変化しました。授業前には「生ゴミ」という刺激語から「臭い」という「ファーストワード」しか書けなかったのですが、授業後には生ゴミのイメージが大きく広がり、生ゴミが肥料になって、野菜が育ち、それを食べ、また生ゴミとして出るという資源の循環を理解できるようになった様子がうかがえました。このクラス全体のイメージマップを分析し、資源循環理解度がどう変化したかをみたところ、授業後には、「理解度0」の児童が有意に減っていました。このことからゲストティーチャーの話を聞くことで、生ゴミが資源になることを理解できるようになった児童が増加したことが明らかになりました。

授業の前後で行動はどう変わったか、ということについても調査しました。ゴミを分別していますか?という問いに対する回答では、全然しないという回答が若干減って、ときどきするという回答が若干増えたのですが、授業前後の変化は有意ではありませんでした。それから10項目のエコ生活項目の合計点についても授業前後で有意な変化はみられませんでした。ただ10の項目別で見ますと、買い物の時には袋を持参するという項目はできると回答した児童が、授業後に増えていました。このクラスでは、家庭科の授業で、学校にいっぱいたまった忘れ物の傘からエコバックをつくるという活動を行なっていたためと推察されます。以上のことから、今回の授業実践により、児童の資源循環理解度が向上したことが実証されました。しかし、行動の大きな変化にまでは至らなかったと考えられます。行動の変容にはゲストティーチャーの話を聞くといった学習の他に、児童自身が体験する活動などを組み入れる必要があるのではないかと思われます。

今回、長井市の児童を対象に調査をした結果、資源循環理解度には、環境問題に関する学習や、野菜づくりの経験が関わっていることが明らかになったことから、児童の資源循環への理解を促すには、環境や環境問題に関する具体的な学習や栽培体験をすることが重要と考えられます。しかし一方、児童の資源循環理解度と行動の関連については、今回の調査ではゴミを減らす工夫をする行動とは関連が見られたのですが、ゴミの分別やその他の環境に配慮した行動との間に有意な関連は見られませんでした。今後さらに、資源循環理解度と行動との間に介在する因子は何なのか、ということも含めて明らかにしていく必要があると思います。

また今回、ゲストティーチャーによる授業を実践したのですが、その結果、児童の循環理解度を向上させることができました。しかし、行動の大きな変化にまではいたらなかったので、さらに行動の実践を促すには、このような関係者の話を聞くことに加え、資源の循環が目で見て実感できるような、実践的、体験的学習を組み合わせた食育プログラムを考える必要があると思われます。例えば、施設の見学ですとか、家庭科の調理実習、それから学校給食などをうまく活用することが考えられます。現在、継続研究として、このような体験活動を活用して、体験を取り入れた食育プログラムの作成・実践を行なっており、今後さらにその教育効果の実証も含め、研究を深めていきたいと考えております。

座長坂本:どうもありがとうございました。食育の最終目的というのは、生命の大切さを学ぶことだとよく言われています。この山形大学では環境学習を介した実践意欲の中で自然の土がいかに大切であって、それがいかに食べ物を育て、且つ人間の命につながっていくかという、いうなれば間接的な食育のあり方をお示しいただいたと思います。環境学習も非常に今重要視されておりまして、自然環境をつくり、そこでおいしい作物をつくり、それを私たちが食べることによって、健康が慈しまれるというような自然のものの循環、そういう学習も非常に大事だと思います。こういった体験を取り入れてこれから食育プログラムが展開されるんだ、と私は期待したいと思っております。ぜひこういった活動から食育へ、間接的なものだけでなく、直接的な食育を展開していただけるような教育があればいいなと希望しています。


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