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研究課題名

栄養・栄養表示の社会的ニーズの解明と食育実践への活用に関する研究

代表研究者/発表者 池上幸江(いけがみ さちえ) 大妻女子大学家政学部食物学科教授

【研究の目的】

みなさんもご承知のように、食品にはさまざまな表示が行われています。それらの表示の中で、特に栄養や健康に関わる表示というものは、一般の方々が日常健康的で適正な生活、食生活を営まれる上で、大変重要な手段となるのではないかと思います。我が国ではいくつかの制度がございます。そういうものをどの程度一般の方々が活用になっておられて、そして、どんな表示が一般の方々にわかりやすく適正なのか、そんなことをさぐってみたいというのが、この研究の目的です。私どもはすでにある学会の研究活動の一環として、数年間この問題に取り組んでまいりましたけれども、財政的な支援はまったくなく、それから学会もこの活動も中止するというような状況になりましたので、今回この協会の研究費をいただいて、規模も少し拡大をした形で取り組みたいということで、この研究に関わったわけです。

現在、食品の表示に関しましては、食品の原材料ですとか、品質ですとか、原産国、あるいは食品添加物、製造年月日とか消費期限といったような表示が行われています。それらの表示は、一般的には食品衛生的なあるいは食品の品質を表わすような表示になっておりますけれども、それ以外に栄養や健康に関わる表示というのも行われております。この表示は、食育の目的には非常に一般的で、一般の方々が利用しやすい、一般の方々が健康な食生活を営む上では、大変重要な表示ではないかというふうに思われます。

【研究の方法】

我が国の食品の栄養や健康表示の現状に対する、消費者の認識や要望というようなものを明らかにして、食育のツールとしてどのような改善をしていくと望ましいのか、そんなことを探りたいというふうに、考えました。この研究は二つの方法によって行いました。一つは、いろいろな方々にアンケート調査を行ったということです。対象としましたのは、栄養士あるいは食に関わる大学や研究機関の研究者の方々、それから健康や食品に関心のある雑誌の購読者とか、それから食物学関連の学生とそのご父兄に協力を頂きました。アンケート用紙は全部で3000枚以上配布して、最終的に集計ができましたデータは2000枚程度です。首都圏を中心とした人たちが多かったんですが、例えば、雑誌の読者の会の人たちにはかなり全国的な規模で参加していただきました。

そのアンケート調査と、もう一つは、現在、食品の栄養や、健康の表示というのは国際的にもいろんな形で取り組まれております。ひとつはWHO/FAOの通称コーデックスと呼んでおりますけれども、食品の規格を取り扱っているところで、国際的な栄養や健康表示のあり方が検討されています。それから、アメリカとかヨーロッパでは、先進的ないくつかの取組みも行われていますので、これらに関しても、報告をまとめていただくという形で、海外での情報を集めました。最終的には、私たちとして未だここまではいたっておりませんけれど、食育としての表示のあり方に関してきちんとしたまとめをしてみたいというふうに考えておりまして、これらについてはさらに議論を深めてまいりたいと思っております。まとめたものに関してはなんらかの形でそれぞれの対応する組織やあるいは論文としてまとめていくということを考えております。

『アンケート調査』

まず、最初にアンケートのご紹介をしたいと思います。アンケート用紙はA4の6ページからなるものですが、題名は「栄養成分と健康に関する表示についてのアンケート」です。構成の細かい内容はここでご紹介する時間がありませんので、大まかな内容だけご紹介したいと思います。アンケートに答えて下さった方々の属性に関する項目です。それから2番目には栄養表示に関してどんな意見を持っておられるか、どんなふうにとらえておられるか、これをまとめました。それから3番目は厚生労働省が行っております栄養表示、健康表示の典型的な食品群に関するものであります。保健機能食品というものがありますが、これに対してどのくらい一般の方々が意識されておられるのか、とりわけこのなかでは健康表示にあたりますが、特定保健用食品というのがございます。それに対して、一般の方々がどういう風に受け止められておられるのか、これについて詳しく調査を行いました。それから、あまり立ち入った調査が出来なかったんですが、健康商品に対してどの程度利用されていて、健康食品の情報をどんな風に入手され、その効果に対してどのような考え方を持っておられるか、こういった項目について調査を行いました。

『対象者』

実際にアンケートに参加していただきました方のおおまかな年代別の集計と属性別の集計、そのほかにも集計の仕方はいろいろあるんですが、今回は時間の関係で、あまり詳しく紹介ができませんので、男女別に大体の特徴をみなさんにお知らせすることにさせていただきます。このような集計をしてそれぞれの統計的な処理も行いました。

『アンケート項目と集計結果』

最初には、栄養成分表示に対して、皆さんがどんなふうに受け止めておられるかを調査いたしました。どの程度皆さんが本当に見ておられるのか、見て食品を買っておられるのか、これを調査したいということで見ましたが、「必ず見る」という方は女性のほうがやや多めです。3分の1の方は「必ず見て」買っているとおっしゃっています。「ときどき見る」あるいは「関心ある時に見る」というような方々を加えますと、9割以上の方々がこれを見て食品を買っておられるというふうに判断ができます。男性はちょっと低めです。ですから、この栄養成分表示に関してはかなりの方々が見ておられるということがわかりました。

属性別に見てみますと、やはり、栄養士の方々は高い比率でご覧になっておられるようです。さらに学生について調査してみますと、比較的高い割合です。学生は、全員ではないんですが、研究参加者が食物系関係の学校で教えておりますので、それらの教育を受けている人たちが多く、これらの学生はしっかりと見ているということがわかりました。ただ、学生は全員が食物系の学校というわけではなくて、全然関係のない学部の方も入っております。では、どんなときに、この栄養成分表示を利用しているかといことですけど、やはり多くの方々が「健康保持、増進」です。6割以上、7割近い方々が、これを「健康維持、増進」に活用しているとおっしゃっている。「肥満解消」という所はご想像のとおり、学生の4分の1はやはり肥満解消に見てこれを使っているというふうに答えておりました。

実際に、現在用いられております栄養表示を典型的な形を、市販されている食品を調査いたしまして、3つのパターンに分けてみました。まず1番目のパターン、これは栄養表示基準制度というのが厚生労働省によって設けられておりますが、これだけに合致する内容のものですが、この「例1」の形です。ただし、日本の栄養成分表示基準制度というのは義務ではありません。表示をしたいと思う企業が食品に表示するという、そういう制度になっていて中身に関しては一応ルールが決まっていて、そのルールに従うというふうになっております。あとでご紹介するアメリカあたりでは、ほとんど表示が義務になっています。「例2」では左の2列は義務の表示になっています。一日あたりの摂取基準を示し(第6次改訂の栄養所要量)、それに対して何%くらいとれるようになっているか、例えば、基準は18グラムの袋の18グラムを食べたときに、どの程度の栄養がとれるかというようなことを書いてあるものです。

「例3」の上の部分は義務になっている表示項目です。下のところに、それ以外にこういった微量の栄養素なんかについても書いてあるものがあり、なおかつこれをグラフにして見やすくするというような、こんな表示をしているようなものがあります。それはまったく任意で企業が考えて、こういう表示をやっているというようなものです。この3つのパターンの中から一体どういう表示が望ましいと思われるか、というようなことで、次の項目を調査致しました。

今の3つのパターンについて、わかりやすい表示はどれですか、という質問に対して、「例1」でも構わないという方もかなりおられますが、「例2」や「例3」のほうがやはり見やすくて分かりやすいという返事をいただいております。とりわけこの中で、専門の研究者ですとか、栄養士の方々は「例3」が望ましいというふうに答えておられます。専門家の目で見ると、基本的には、「例2」や「例3」をミックスしたような表示が行われると一般の方々にはわかりやすく、活用しやすい表示になるのではないかという感じがいたしました。アメリカではニュートリションファクトという、栄養表示の制度がありますが、だいたい「例2」と「例3」をまじえたような表示が一般的には行われております。

次には、この栄養成分表示をどんなときに利用しているか、というようなことを、別な形で質問いたしました。ここで見ていただけますように、食品の選択や、栄養摂取の参考、こういったところを中心にしながら活用しているというふうに答えております。それから、もっと表示食品を増やしてほしいという声があります。これは我が国が先ほども申し上げましたように、栄養成分の表示が義務ではありませんので、表示をしてない食品があっても、これは特に問題にはならないわけで、そういう面で表示のない食品もかなりあるということで、もっと食品を増やして欲しいというような要望があることがわかりました。すでに私どもは2000年に、今回の4分の1くらいの規模の調査を行いましたけれども、その時の要望、数字をみますと、ほとんど大きくは変わっておりません。ですから、消費者の方々には、こういった意識がほぼ定着しているというふうに理解されました。

次は、先ほど紹介しました保健機能食品のうち、特定機能食品というのが、最近ではかなり認知度が上がっておりますので皆さんもよくご存知だと思います。平成3年に、世界に先駆けてこの制度が作られて、現在500から600の商品が出ております。これがどの程度みなさんに知られているのか、そして、どの程度利用されているのか調査してみました。まず、認知のほうですが、平均すると6割から7割の方々はこういった制度があるということを、よくご存知でいらっしゃるということです。他の調査にくらべて、これはたぶん対象者に栄養士とか研究者とか、かなりいろんなことを知っている方々は入っているものですからかなり高い数値になっているとは思われますが、かなり認知度が上がっているということです。聞いたことがあるという人も加えてまいりますと、9割の人々がこの制度があることをご存じでいらっしゃるということがわかります。そして、利用の頻度の調査です。さすがに「毎日利用されている」方は、そう多くはないんですが、「たまに利用している」というような方が半分くらいおられます。「利用したことがない」、「わからない」といった方も、いらっしゃるんですが、かなり利用されつつあるというのがわかりました。とりわけ、栄養士とか、学生の間では8割が「利用したことがある」というふうに答えておりますので、こういう制度をよく知っている人たちには、かなり浸透してきているということが分かりました。

特定保健用食品には、保健の用途という表示があります。例えば、カルシウムやマグネシウムの吸収を促進しますとか、あるいは「へム鉄の商品」では貧血ぎみの方にというような表示があります。これは複数回答で答えて頂いてます。ここでは比較的高かったものを並べてみました。これでみますと、「体脂肪がつきにくい」というのが極めて関心が高いということがわかります。その他では、ここにあります「ビフィズス菌」とか、「腸内改善」、「便通改善」、「お腹の調子」といった大腸の機能を改善していくようなことを表示しているものに関心がかなり高い。その他に、虫歯とか歯あるいは骨の健康といったようなところが高くなっています。その他にコレステロール関係もかなり高いです。その他の項目では、例えば、血糖値を高めの方に、というのがあるんですが、こういったものに対しては、関心度が低いということがわかりました。

次は、特定保健用食品のどんな成分が使われているかを、しっかりとした認知がされているかどうかを調べるために成分のほうの項目についても調査をいたしました。これは保健の用途とは連動しているんですけど、食物繊維が突出してみなさんがよく知っておられ、関心が高いということがわかりました。その他では、大豆のイソフラビン、茶のカテキンといったようなものに対する関心、あるいは乳酸菌ですとか、オリゴ糖、このあたりはお腹の調子を整える成分になっているんですが、こういうものはお腹の調子を整える成分と一致して理解されていると思います。茶のカテキンは体脂肪がつきにくいということをいって売っているものなんですが、これなんかについてはみなさんよくご存じだろうと思います。ところが「ジアシログリセロール」は、おそらく単品の特定用保健食品として一番売れている食品で、しかも、体に脂肪が付きにくいと言う成分なんですが、成分の名前になるとみなさんほとんどご存じないというようなことで成分と効果の間に、認知のギャップがあるということがわかりました。また、こういった傾向を見ていますと、いろんな宣伝効果というようなものをある程度垣間見ることができるという感じがいたしました。

次は健康食品に関しての項目です。これはどの程度利用されているかを見る調査ですが、やはりこれらも想像以上によく利用されているということがわかりました。実際には健康食品には健康の用途に関して表示することが出来ないということになっておりますけれども、やはりテレビのCMとか番組から情報を得ている人が多いことが分かりました。専門の雑誌や本からというのが、栄養士の方々がより高い回答を寄せています。

健康食品がどの程度期待されているのかというと、「薬として認識されている」方というのは少ないということがわかりました。それでも、5%近い方々が、薬と同じように認識されている方もあるようなのです。ただし、多くの方々が「薬とは違う」というふうに思っておられて、「健康の維持」に利用したり、「気休め程度でしょう」というふうに考えておられる方もあるということがわかりました。

『食品の栄養・健康表示の国際動向』

食品の機能に関して、表示を簡単に紹介してみたいと思います。食品の栄養と健康の表示に関しては、栄養表示というのと、健康強調表示という大きな2つのカテゴリーに分けることができます。これはFAO/WHO食品規格委員会、通称CODEXと称している委員会での考え方が国際的に合意されています。健康強調表示としては、栄養機能に関しての表示、高度機能表示、その他の健康強調表示といったりしているんですが、これは我が国の特定保健用食品がまさにこれにあたります。それから疾病リスク低減表示、これは昨年から我が国でもこの表示ができるようになっていますが、まだ具体的には食品は出ていませんが、アメリカあたりでは14項目ほど認められています。

アメリカの、主に健康強調表示のところだけご紹介しておきます。アメリカの場合、ここに書いてありますのが、さっき申し上げた疾病リスク低減表示という表示にあたります。我が国ではまだ具体的な例がありませんので、どんな形で導入されるかわかりませんが、アメリカでは14項目を認めています。アメリカでは我が国の健康食品あるいは特定保健用食品にあたるようなものはダイエタリーサプリメントと呼んでおります。これはFDAに通知するだけで実際に安全性や有効性の審査はまったく受けずに表示することができるようになっておりますので、ちょっと特殊な形になっております。

ヨーロッパにつきましてはまだ制度化はされておりませんけども、制度化の方向で進んでおります。栄養と健康表示に関する規則案というのがEU参加の国々に、提示されて、そして、欧州食品安全機構というところで審査を行うという方向で、今議論が進んでいてここにあるようなこんな項目を対象として、日本でいう特定保健用食品に近いような感じで進むのではないかというふうに思われます。

実際に、食品の表示というのは、消費者にとっては、健康に関する正しい情報を食品の表示から知ることができるということで、最近では病気になって薬で直すより、食品で病気のリスクを減らしたいという要望が強いと思います。そういうものに叶うような表示が行われるということが望ましいわけですが、生産する側では、差別化することによって、開発の活性化にしていきたいという面もあります。適正な表示というのは、消費者の食品選択の上で重要であると思われます。消費者にとって理解しやすく、なおかつ適正表示であるということが必要です。私たちは今回の調査はまだ不充分で、そういうところまではしておりませんけれども、受け取る側の消費者の知識充実ということも、これも一つの食育の課題になるんだと思います。表示を、適正に理解して活用できる消費者の知識というものも、求められるのではないかというふうに考えられます。

【研究のまとめ】

栄養成分表示は非常に浸透してきているけれども、わかりやすく、そしてもっと対象食品を広げるということが、今求められているのではないかと考えました。また、特定機能食品についても、かなり認知が高まって広く利用されていますが、適正な情報提供や栄養、健康政策とに一致したものを作っていくということが今後の課題ではないかと思います。

そして健康食品に関しては、これを全体的に統一して取り扱う法律や制度がまったくありません。そのために、現在、いろいろな健康被害、死者も含めて重篤な健康被害もでておりますので、やはり今後の適切な制度や管理というようなことが望まれますし、消費者自身も惑わされないで、判断する力をつけていくということが必要ではないかというふうに思われました。以上で発表を終わらせていただきます。

座長坂本:どうもありがとうございました。今、健康食品による健康被害というものがあちこちで出ておりまして、おそらくこれから話題となるものに、皆さん方が日頃愛用しておられるものに、いろんな健康障害が出てくるというような代物もございます。ですから、消費者が賢くなって、こういうものを選択すべきだと思いますが、それには今お話がありましたように、食品についている情報といいますか、表示が非常に重要な役割をするということだと思います。今度のこの大々的な調査というのが、おそらくこれからたぶん池上先生のグループはこういうものを国へ提言しようというような、学会での最初の意向もそうでしたけど、そういうことで形を整えられると思います。ぜひそういったことを進めていただきますように、お願い致します。

ある本によりますと、健康食品のイメージが「食品のように安全で、薬品のような高い効果がある」のではなくて、「食品のように安全ではなく、薬のような効果はない、ただ飲むことで気分が良くなる程度だ」というふうに専門の先生が書いておられる言葉がありました。まあ、なかなか意味のある言葉ではないかと思います。


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