Home >> 2006 食育実証研究発表会 報告集 >> 1  

研究課題名

CO排出削減をめざした食生活の提案とその食育実践に関するプロジェクト研究

研究代表者/発表者

 

津田 淑江(つだ としえ) 共立女子短期大学生活科学科教授
瀬戸 美江(せと よしえ) 共立女子大学家政学部助教授

【研究の目的】

現代の食生活は物質的に豊かになりましたが、個人の食の欲求を充足させるために資源とエネルギーを大量に消費し、環境に大きな負荷を与えています。たとえば野菜の施設栽培、長距離輸送、輸入など、食材の生産・流通の過程では、大量の資源とエネルギーが消費され、さらに食材を調理するための電気、ガスの消費も含め、環境に負荷を与えながら私たちの暮らしは成り立っています。
1995年の国内の電力消費量は8700億kw/h、そのうち家庭での消費は2370億kw/hであり、全体の27%を占めしています。また、ガスの消費量では、全消費量に対し家庭での消費割合は44%を示しています。
京都議定書が発効され、日本は温室効果ガスの排出量を1990年比の6%削減することを約束しました。その温室効果ガスの主なものはCO2で、家庭においても排出量削減に向けた行動を起こすことが必要です。
これまでも地球温暖化対策として家庭での調理方法が着目され、ガスの火加減、鍋蓋の有無、食材のサイズや調温時間とガス消費量などの関係が測定されています。

そこで私たちは、調理法の違いによるCO2排出量を実測するとともに、食材の生産、輸送、調理、廃棄のライフサイクルにおけるCO2排出量を算定し、環境に配慮した食生活の提言を行なうことを目的としました。そのうえで、有限の資源とエネルギーを採取、廃棄し続ける食生活から持続可能な社会システムに転換するための食教育のあり方について検討を行ないました。

【研究方法】

CO2の算出は、日常的な料理を選定、調理し、そのライフサイクルにおけるCO2排出量、すなわち

  1. 食材の生産によるCO2排出量
  2. 食材の輸送によるCO2排出量
  3. 調理によるCO2排出量
  4. 廃棄によるCO2排出量
を、(1)(2)(4)については文献をもとに、(3)については実測により算出しました。

1.料理と食材の選定

料理と食材の選定は図の通りです。

2.CO2算出方法

(1)食材の生産にかかわるCO2排出量
生産にかかわるCO2排出量は、社団法人資源協会編『家庭生活のライフサイクルエネルギー』に示されている原単位を用い、以下のように計算しました。
 <CO2排出量=生産エネルギー原単位×使用量×0.0743>
原単位とは、農産物の場合、生産するためのトラクター運転や温室暖房に使用される燃料などの直接エネルギー量と、トラクター・温室・肥料・農薬などの製造に使用される間接エネルギー量、その両方の合計であり、その農産物の1kgあたりの生産エネルギー量をkcalで表しています。
また、式のなかにある0.0743とは、農産物の場合はトラクター運転のための、水産物の場合は船に使用する重油1KJあたりのCO2排出係数を示しています。

(2)輸送によるCO2排出量
輸送によるCO2排出量の算出方法は、まず、食材のパッケージに表示されていた産地から東京まで輸送する場合の輸送エネルギーを以下の計算式によって算出しました。
<輸送エネルギー=輸送エネルギー原単位×距離×使用量×1.1÷100万>
輸送エネルギーの原単位は、船が158、トラックが949、飛行機が5658です。1.1は、ロス率です。距離は地図帳によって調べました。
そして次に、環境省温室効果ガス排出量算定に関する検討結果に基づく以下の計算式により、輸送によるCO2排出量を算出しました。
<CO2排出量=輸送エネルギー×CO2排出係数>
CO2排出係数は、船が71.6、トラック68.8 飛行機67.1を用いました。
なお、外国産牛肉については、前述の社団法人資源協会編『家庭生活のライフサイクルエネルギー』のデータを用いました。

(3)調理によるCO2排出量
調理によるCO2排出量は、料理を実際に調理し、そのガス消費量をシナガワ製 乾式ガスメーターDC-2型を用いて測定し、環境省温室効果ガス排出量算定に関する検討結果で示された都市ガスCO2排出係数を用いて算出しました。計算式は以下のとおりです。
<CO2排出量=ガス消費量×CO2排出係数>
都市ガスのCO2排出係数は、2.15になります。

(4)廃棄によるCO2排出量
廃棄によるCO2排出量の算出は、都市ゴミの処理によるCO2排出量を評価している論文を参考にしました。都市ゴミと食品残渣を同様と考え、次の計算式によって算出しました。
<CO2排出量=廃棄量×0.119>
都市ゴミは質重量で扱われています。CO2排出係数は、都市ゴミを処理するときに消費されるエネルギー起因のCO2排出量と輸送起因のCO2排出量の合計量で示されており、都市ゴミ1kgあたりのCO2排出量は0.119kgと計算されています。

【結果】

1.“旬産旬消”の効果  
生産におけるCO2排出量の結果です。たとえば、天ぷらの場合、具に用いるナスは、旬である夏秋どりの露地生産でのCO2排出量を調べますと0.079kg-CO2ですが、冬春どりのハウス加温による生産では0.351kg-CO2となり、露地ものと比べ約4.5倍のCO2を排出していました。
また、ピーマンでも同様の結果があらわれ、旬の夏では0.020kg-CO2、冬では0.202kg-CO2となり、夏に比べ約10倍のCO2を排出していました。  
この図は、天ぷらを夏生産された食材と冬生産された食材を使用した場合のCO2排出量を示したものです。上が夏生産、下が冬生産を表しています。白がナス、黒がピーマン、赤がダイコンです。天ぷら全体では、夏生産の食材を使うとCO2排出量は1.962kg-CO2、冬生産の食材を使用すると2.393kg-CO2となっており、冬生産の食材を使用することにより夏より約1.2倍、CO2排出量が多くなることがわかりました。今回の結果から旬の野菜を利用することが生産によるCO2排出量を少なくし、旬にとれたものを旬の時期に食べる“旬産旬消”を利用することがCO2排出量の削減に効果があることがわかりました。

2.“地産地消”の効果  
次に、輸送に伴うCO2排出量の結果です。この表は、チラシ寿司の結果です。チラシ寿司に使用するタラの場合、輸送によるCO2排出量はアラスカより飛行機で輸入すると1.005kg-CO2となりますが、船を使うとその値は0.029kg-CO2となり、飛行機は船よりCO2排出量が約35倍多いことがわかります。  
その他の料理も同様の結果が認められました。地産地消という言葉にあるように、食材を選ぶときは地元の産物を選び、輸送距離の短いことがCO2排出量を少なくすることがわかりました。

3.“中火・蓋あり・短時間”の効果  
ここからは、調理におけるCO2排出量の結果です。省エネルギーの調理には、蓋の使用が効果的であると言われます。そこでサケのムニエルを焼くときの、蓋ありと蓋なしのCO2排出量の違いを見ました。蓋ありでは、0.093kg-CO2、蓋なしでは0.113kg-CO2となり、蓋ありは蓋なしに比べ、CO2排出量が約18%抑えられることがわかりました。
この図は、強火、中火、弱火、各温度ごとの蓋あり、蓋なしのCO2排出量を示したものです。図の上から赤が強火・蓋なし、黄色が強火・蓋あり、青が中火・蓋なし、黒が中火・蓋あり、緑が弱火を示しています。測定条件は直径15cmのアルマイト製の片手鍋を使用し、水温20℃の水1リットルを入れ、鍋の蓋ありと蓋なしで測定しました。沸騰100℃のCO2排出量は、強火の場合、蓋ありが0.059kg-CO2、蓋なしが0.064kg-CO2となり、蓋ありは蓋なしに比べ、約8%もCO2排出量が押さえられました。強火の場合も同様の結果が認められ、蓋をすることで10%CO2排出量が抑えられました。また、同じ蓋ありでも、中火の場合は強火より13.5%CO2排出量が抑えられました。

以上の結果から、ガスを使用するときは、鍋底の熱効率のよい中火で蓋を使用することがCO2排出量を削減できることがわかりました。  次に、調理法の違いによるCO2排出量の結果を示しました。CO2排出量が最も少ない調理はピーマンと牛肉の炒め物で0.059kg-CO2、次にザーサイと豚肉の千切りスープ0.088kg-CO2でした。他の料理に比べ加熱時間が短いことが、CO2排出量を抑えていると考えられます。  
それに対し、CO2排出量が多い調理は、蒸しおこわ0.694kg-CO2、ポークシチュー0.627kg-CO2でした。蒸しおこわは炊飯に約46分、ポークシチューは煮込みに約50分かかったことが、CO2排出量を多くしたと考えられます。また、同じおこわでも炊きおこわは0.224kg-CO2であり、蒸しおこわに比べ約30%CO2排出量が抑えられました。これは、蒸しおこわが全工程、過熱時間が64分5秒、炊きおこわが35分8秒と約半分の時間であることと、全体の約78%が強火で調理される蒸しおこわと、20%が強火の炊きおこわの違いと考えられます。  
また、高温短時間の揚げる調理である天ぷらは0.185kg-CO2となり、CO2排出量が低く抑えられていることがわかりました。

4.廃棄によるCO2排出量  
この表は、チラシ寿司の廃棄によるCO2排出量を示したものです。今回の調理で廃棄された食材は、イカの内臓や皮、卵の殻、サトイモ、ゴボウ、ニンジン、レンコン、ジャガイモ、タマネギなどの皮でした。  
実習で使用した食材の成分表からの廃棄率の平均を求めたところ、13.1±7.8%に対し、実際に調理した食材からの廃棄率の平均値は、18.1±12.7%と実際の調理から出る廃棄率のほうが高くなり、有意差も認められました。  
平成12年に策定された食生活指針にも、「調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく」と示されています。環境問題をキッチンから見直すためにも、学生の指導においては、廃棄によりCO2が排出されるということを意識させる必要があると考えられます。食生活と自然環境が密接であることから、調理段階での配慮、買い物の際の心がけ、台所での気配りなど、無駄や廃棄を少なくする取組が必要であると考えられます。

5.栄養摂取エネルギーとライフサイクルエネルギー   
本研究で取り上げた日本料理、西洋料理、中国料理の中から、天ぷらとおこわに焦点をあて、そのライフサイクルCO2排出量を示しました。  
この表は、天ぷらの結果です。左から、空輸や遠隔地からのトラック輸送、ハウス栽培の食材を使用した場合、真ん中は露地物、国産の食材を使用した場合、右が船便やハウス栽培の食材を使用した場合です。青が輸送によるCO2排出量、緑が生産によるCO2排出量、赤が調理によるCO2排出量、黄色が廃棄によるCO2排出量を示しています。ライフサイクルCO2排出量は、左から18.59kg-CO2、2.29kg-CO2、3.18kg-CO2でした。縦軸はライフサイクルCO2排出量の中でも生産、輸送、調理、廃棄の割合を示しています。空輸や遠隔地からのトラック輸送の食材を使用することにより、ライフサイクルCO2排出量の中で輸送によるCO2排出量の割合が多くなっております。  
この表は、おこわのライフサイクルCO2排出量の結果です。先ほどと同様に、青が輸送によるCO2排出量、緑が生産によるCO2排出量、赤が調理によるCO2排出量を示しています。左側の二つのグラフが炊きおこわ、右側の二つのグラフが蒸しおこわを示しており、それぞれ左側のグラフが遠隔地からトラック輸送した食材を使用した場合、右側が近距離からトラック輸送した食材を使用した結果です。縦軸はCO2排出量を示しています。ライフサイクルCO2排出量は左から0.814kg-CO2、0.771kg-CO2、1.120kg-CO2、1.073kg-CO2でした。先ほどの天ぷらの結果と比べて、空輸での食材を使用しないことにより、ライフサイクルCO2排出量の中で、輸送によるCO2排出量の割合が少なくなり、生産や調理によるCO2排出量が多くなることがわかりました。

この表は、ライフサイクルエネルギーと摂取エネルギーを示したものです。ライフサイクルエネルギーは、旬ではない時期に一番遠方の地域で収穫され、よりエネルギーがかかる方法で輸送された食材を用いた場合と、“旬産旬消”“地産地消”した場合をそれぞれ計算し、多い少ないで示しています。その結果、たとえばチラシ寿司では、ライフサイクルエネルギーが最も多い場合は9388kcal、少ない場合は4564kcalでした。また、摂取エネルギーは2500kcalでした。この結果から、“旬産旬消”“地産地消”で食材選択を行なっても、私たちが料理を摂取する以上のエネルギーを生産・輸送・調理・廃棄のライフサイクルの中で消費していることがわかりました。

以上の結果、私たちの食生活は、栄養として摂取するエネルギー量より、食材が生産・輸送・調理・廃棄され、それが食卓に上るまでにかかる多くのエネルギー量やCO2排出量の上に成り立っていることがわかりました。また、献立とそれに伴う調理法により、ライフサイクルCO2排出量は異なることを伝える必要があると考えます。

【まとめ】
以上をまとめますと、日本人が日常食べている日本料理、西洋料理、中国料理のライフサイクルによるCO2排出量についてCO2排出量を検討しました。その結果、以下のことが明らかになりました。

食材の購入の際、旬のものを購入すること、近県の食材を使用することがCO2排出量の削減に大きな影響を与えることが数値で示されました。
調理においては、鍋の大きさ、火加減、蓋の使用有無によってCO2排出量の削減の効果があることを数値によって明らかになりました。煮込む、蒸すなどの調理法によっては、CO2排出量が大きくなることから、環境保全の面から調理方法を工夫する必要がありそうです。
各家庭の調理によるCO2排出量はわずかであるように思われがちですが、日本の世帯数は2005年国勢調査報告によると、4953万世帯と報告されています。それを考慮すると、全世帯が調理におけるCO2排出量を意識することによって、地球温暖化対策として大きく貢献できるものと思われます。
熱量自給率わずか40%、穀物自給率は27%という食料低資源国の日本で、食生活における環境負荷低減策の実現を目指し、実践する力を育てる食教育のため、今回の結果を活用したいと考えます。

最後に、本研究の結果は日本LCA学界に投稿、掲載されました。ここに感謝申し上げます。

座長丸井:どうもありがとうございました。食の問題は非常に裾野が広く、このような研究はとても大変なことだったと思いますが、それをあえてやってくださったことに感謝いたします。それでは、会場のほうから、特に今ここでお聞きしておきたいということはございますか?

質問:調理に電気を使った場合にもCO2は排出されるのでしょうか。たとえば炊飯などは、通常の家庭では電気釜を使っていますので、そうするとまた数値が違ってくるのではないかと思うのですが。

瀬戸:たとえばお湯をわかすときに、電気ポットやIH、電子レンジを使っても、やはり同じようにCO2排出量は出てまいります。ただ、電気の場合、電気をつくるためにどのくらい石油を燃やしているかということで、CO2排出係数がガスとは違ってまいります。

質問:ガスよりも電気のほうがCO2の排出が削減されるということではありませんよね。

瀬戸:調理方法によって、電気のほうが多くなったりガスのほうが多くなったりということで、一概には言えません。調理時間にも関係ありますし、それから熱の損失についても、炎が出るガスと出ないIHでは違いがあります。様々なデータを持っておりますので、また別の機会にご報告したいと思います。


▲ページトップ  →次の発表報告