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研究課題名

パネルシアター等の教材開発と小学校食育プログラムの開発

研究代表者/発表者

白尾 美佳(しらお みか) 実践女子短期大学助教授

【研究の目的と方法】
近年、児童、生徒を取り巻く環境は大きく変化するとともに食生活も多様化してきました。特に子どもたちの朝食の欠食、孤食、偏食、肥満などが増加しており、これらの状況は生活習慣病予防の観点からも懸念される事項です。平成17年食育基本法が施行され、平成18年3月に食育推進基本計画が策定されたことにより、さまざまな分野や職種、ライフステージにおいて食育が展開されていくこととなりますが、特に児童・生徒に対する食育を実施していくことは急務です。

この研究では、児童の食に関する知識や自己管理能力育成のための教材開発を行なうこと、そして、小学校などでの学校給食、授業、体験学習時における食育実践活動を行なうことによって、この食育プログラムの有効性や問題点を検討することを目的としました。食育プログラムの有効性や問題点については、担任の先生方のインタビューや子どもたちの反応や話の中から探りました。

小学校では、まず、学校給食の前に5分から10分間の食育を行ないました。それから、「総合的な学習の時間」と家庭科、生活科などの授業での実践です。生産現場の活動としては、学童農園などでの体験学習を行ない、そのときの子どもたちの反応などから、食育プログラムの有効性や問題点などを検討しました。

【食育の教材開発について】
食育の教材は、食品の生産、加工、食品の選択や分類の仕方、機能性などに関するもので、高学年向けには、栄養と病気の関連性に関する教材を作成し、手洗いや虫歯にならないためにはどういうものがいいかといった衛生についての教材や、食事のマナー、食文化についてのパネルシアターや紙芝居、ペープサートなどの食育教材を本学学生と共に検討、開発しました。

パネルシアターは、幼稚園などでよく使用されておりますが、不織布にくっつけたりはずしたりすることにより物語をつくり、子どもたちが楽しく見れるように工夫されています。その他には、紙芝居や絵本、クイズ、ペープサートなどをつくって食育を行ないました。

それでは、教材の内容をご紹介します。こちらは3色食品群です。いろいろな果物や野菜、お肉がありますが、これらには磁石がついておりまして、黒板に貼って授業などで使えるようになっています。

左のパネルシアターは、カルシウムが少ない食事をしていて、骨が折れてお医者さんに行くという内容です。日本人はカルシウムの摂取率が少ないため、幼少のころから積極的にカルシウムの摂取に取り組むための教材になっています。

これは紙芝居の一部です。内容は、「お米について」「豆腐のでき方」「脳に働くもの」「おやつの食べ方」「いただきますとごちそうさまの意味」「正しい手洗いの仕方」などです。食文化については、「陸稲(おかぼ)の話」や「たらし焼き」についても作成しました。本学が設置されている日野市は平山陸稲で有名ですし、「たらし焼き」は日野市の昔の農家で、昔、小麦粉を少し水で溶いたものをホウロク鍋で焼いておやつに食べていたということです。 

 

 

【給食時の食育プログラムの検討】
給食時の食育の流れとしましては、まず、手洗い後、子どもたちと一緒に給食の準備をします。それから、給食を食べる前に5分〜10分間の食育活動を行ないます。その後、子どもたちと一緒に給食を食べて、後片付けを行ないました。対象学年は1年生から6年生で、障害児学級も含まれます。この活動は、3年ほど前から行なってきております。

食育の内容は給食の食事内容を中心に実施しました。
左下の写真は、給食の時にさんまの蒲焼が出ましたので、特に魚嫌いな児童が多いことからさんまの効能等についての話をしているところです。
右下の写真は、昨年の11月ごろですが、パネルシアターを使って、給食の食育を実施しているところです。パネルシアターは、比較的低学年の子どもたちに喜んでもらえたようです。

給食前の食育の有効性を担任の先生や子どもたちのインタビューなどから検討したところ、次のような結果が得られました。まず、食育の直前に指導することにより、食品の名前、栄養や食品の機能などが覚えやすく身につけやすい。そして、嫌いなものでも努力して食べようとする。さらに、残食が少なくなる。子どもたち同士で食育をした内容について話して、給食を残そうとしている友人に対して「おまえ食べろよ」と話している様子も伺えました。
また、生産者や地域社会の人々が給食に同席することで、楽しく給食を食べることができるようになります。特に、学生など、少しでも子どもたちと近い世代のほうが良いようです。

【教科学習における食育プログラムの検討】
次に、日野市日野第一小学校における食育の取組み例です。

日野第一小学校では食育が研究テーマになっております。4年生を対象に行なわれた「心と体を健康にするおやつ屋さん」と「How to eat」というタイトルで食育が実施されました。これらの授業は担任の先生と学校栄養職員とで実施されました。
「心と体を健康にするおやつ屋さん」では、日ごろ食べているおやつを子どもたちが学校に持ってきて、みんなで食べてみるという「おやつパーティ」を開きます。その次の授業では、日頃食べてるおやつの中には油や砂糖がどのくらい入っているのかを勉強します。それから、「体にいいおやつとはどういうものだろう」ということをみんなで考えます。
子どもたちは、家の方々や学校の校長先生などに「体にいいおやつってどういうものなの?」「昔はどういうものを食べていたの?」というインタビューをしたり、インターネットや本などで調べ学習を行ないます。その後、体にいいおやつのメニューを自分たちで考え、実際に調理をします。そして、おやつ屋さん開店ということで、保護者の方々にも学校に来ていただいて、子どもたちがつくったおやつを食べてもらいます。
こういった一連の過程で、子どもたちは体にいいおやつというものを認識することができるようになりました。

一方、「How to eat」という取組みでは、食事バランスガイドをもとに、1週間の間にどういうものを食べたかを色分けしてもらいます。そうしたところ、副菜の量が少なく、特に野菜嫌いが多いという結果が出ました。そこで、同じものが嫌いな児童同士がグループになって、それを食べられるような献立を本学学生も共に考え、調理実習をしました。
自分で嫌いなものを材料に料理を作ったところ、ほとんどの子どもたちが嫌いなものを食べることができるようになりました。「食べられたよ、先生」と報告してくる子どもたちに、担任の先生、学生、私も非常に感激しました。

以上の取組みに対して担当された先生や栄養職員の方々の熱意と努力により子どもたち自身が食生活に関する課題を解決できる能力をつけることができてきているように思えました。

【外国の食文化への理解】
4年生の「総合的な学習の時間」の授業では、共同研究者の三田と私が外国の食文化とマナーについて講義しました。外国への理解、外国の食文化への理解を深めることを目的に、コンピュータールームで行ないました。

東南アジアのマレーシアは、マレー系、中華系、イスラム系、インド系の他民族国家で、食べるものについても、イスラム系では豚肉、インド系では牛肉を食べることができません。しかし、それぞれの民族が理解しあって、非常にバランス良くうまくいっている国です。そういったことを、食べ方や食事のマナーも含めまして、子どもたちに話しているところです。子どもたちも本当に興味深く聞いてくれまして、それぞれ食文化は違っても理解しあうことが大切だということを理解してもらえたと思います。

【食育プログラムの有効性】
食育プログラムは、児童自らが問題を考え解決する、一貫性のある問題解決型学習が効果的であると考えられます。それから、調理などの体験学習の導入により、その有効性が増すものと考えられます。また、1年生から6年生まで継続することが必要ではないかと思われます。

それから、先ほどのおやつ屋さん開店のときや嫌いな野菜を使った料理のときには、大変多くの保護者が参観してくれました。特にお父さん方の参観が多かったのですが、子どもたちが一生懸命つくっている側に見に来られまして、ハラハラしながら見ていらっしゃいました。そのように、保護者に参観してもらったり、子どもたちが家庭で聞き取り学習をしたりすることが、家庭での食育につながるのではないかと考えられます。また、学校の話題を家庭で話し、保護者が興味をもって学校に足を運ぶことによって、学校教育への理解も深まると思われます。

【農業体験学習における食育プログラムの検討】
左の写真は、生産現場における体験学習の様子ですが、子どもたちが草取りをしている場面です。無農薬でやっておりますので、草がたくさん生えます。特に夏の暑い時期、7月8月に草取りをしなければなりません。草にあたって手が痛くなったりもします。
学童農園といいますと、田植えや稲刈りだけというところも多いのですが、子どもたちが農家の方々の苦労について身をもって体験することが重要ではないかと思われます。

秋の稲刈りの後に、農家の方々に「落ちたお米を拾おう」と指導していただくと、子どもたちは一生懸命落ちているお米を拾って集めます。この体験は米一粒がどれほど貴く大切なものかを子どもたち自らが感じ、生産者の方々への感謝の念を持つ事ができます。 

 

こちらは、日野市で行われている日野産ダイズプロジェクトの種付けと草取りの様子です。
このプロジェクトは、学校の栄養士さんの「学校給食で子どもたちに安全でおいしいダイズを食べさせたい」という願いから始まったもので、日野市の市役所が事務局となりまして、農家の小林さんという方が代表を務められております。小学校の栄養士さんや調理員やボランティアの方々が協力し合って生産したダイズを、子どもたちが給食で食べるというプロジェクトです。

このような農業体験学習による食育プログラムには、次のような効果が見られました。

  1. 食べものができるまでの過程を体験することによって食べ物への理解が深まる。
  2. 食べ物をつくる農家の方々の苦労がわかり、感謝の念を持つことができるようになる。
  3. 残さずに食べようとする。
  4. 伝統的な食文化を知ることができる。
  5. 地域の人々との交流により、コミュニケーション能力が発達して人間的にも成長する。
  6. 保護者も一緒に参加することによって、家族との会話が増え、学校教育への理解が増す。
こちらは、実際にダイズや米づくりを通すプログラムの例です。「味噌ができるまで」という内容で、総合的な学習の時間や家庭科の授業で行なわれています。まず、授業でダイズやお米の構造を学び、実際に栽培します。そしてまた授業で加工法を学び、実際に味噌をつくって熟成させ、調理実習をして食事をします。日野市の第一小学校、第三小学校などでは、5年生で味噌をつくり、熟成させて、6年生で調理実習をして食べております。

【食育プログラムの問題点】
食育に関する問題点として、ある栄養士さんから「授業で学んだりして理解ができていても、実際の食生活に生かされていない」という指摘がありました。ただ、食育プログラムを続けていくことによって、徐々にではありますが理解が深まっていきますので、やはり単発的でものではなく一貫性のあるプログラムが有効ではないかということです。

また、子どもたちは、野菜嫌いが多いということ。給食の時間での聞き取り調査によると、好きな食べ物は肉類、果物、ポテトチップ、ケーキ、プリンなどで、ピーマンを初めとした野菜が嫌いな子が多いという結果でした。また、ゴーヤが嫌いという意見も多かったのですが、私個人の意見としましては、ゴーヤは非常に苦味が強く、子どものうちに強烈な苦味を感じてしまうと大人になって嫌いになる可能性があるので、無理やり食べる必要はないのではないかと考えております。

食育に充てる授業の時間が足りないということも問題点のひとつです。小学校では英語の授業が必修になりましたが、その分、他の授業時間が少なくなります。また、これ以外にも給食の時間の問題や保護者への食育の問題、食に関する情報が氾濫しすぎているという問題点もあります。

【まとめ】
以上をまとめますと、次の6つの結果が得られました。

  1. 児童に対して食育を実施するときは、継続した一貫性のある食育プログラムが有効である。
  2. 食育教材は視覚的に捉えることができるものが有効である。
  3. 小さいころからの食育が必要であり、幼稚園との連携が必要である。
  4. 頭で理解するのではなくて、体験的に感覚的に覚えることが大切である。
  5. 児童への食育は保護者の食育につながる。
  6. 食育を実施するためには、地域との連携が不可欠である。
    様々な人と触れ合いながら、人間的な成長も見られる。

最後に、本研究に助成いただきました、農文協の方々ならびに関係の先生方、関係諸機関の方々に深く感謝申し上げます。また、食育活動におきましては、日野第一小学校、第三小学校の先生方、農業体験におきましては、日野市産業振興課、JA、農家の方々、また、ボランティアの方々に深く御礼申し上げます。

座長丸井:どうもありがとうございました。小学校における多彩な活動の成果についてご報告いただきました。会場から何かご質問はございますか。

質問:最終的に調理実習して食べるところまで授業を継続されたようですが、前段階の指導からトータルでそれぞれ何単位時間を使ったのでしょうか。

白尾:8時間くらいだったように思います。

質問:本日のご発表にはなかったのですが、態度変容に関して、数値のデータもお取りになっているのでしょうか。

白尾:態度変容に関しての数値のデータは取っておりませんが、食育をやった後の給食の残食状況やおかわりしたものとか、そういうデータは取っております。

質問:農家の苦労を体験することで子どもたちに感謝の心が芽生えるというお話がありましたが、私は、苦労だけでなく、つくる喜びや食べていただく喜びを子どもたちが実感することが、今後の農業の繁栄に繋がる一つの要因だと思いますので、その辺をぜひ深めていただきたいと思います。

白尾:子どもたちとともに本学の学生も農家の方々と一緒に作業していますけれども、やはり農家の方々の一生懸命な姿を見て感動したり、「これはこういうふうにしたらおいしいよ」というような喜びも味わうことができております。また、生産者の方々に給食のときに来ていただいて、子どもたちが食べる様子に非常に喜んでいるという話も伺っております。

座長丸井:どうもありがとうございました。いずれにしても、非常に多彩な活動を学生の方をたくさん動員してやっていらっしゃるので、学校の先生や栄養士の方だけで進めていかなければならない学校で、実際にどうやって取り組むかというが新しい課題だと思います。この後のポスターセッションで、また細かいところなどを直接お聞きください。


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