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研究課題名

学校・家庭・地域が連携した食育活動の展開

研究代表者/発表者

岡崎 光子(おかざき みつこ) 女子栄養大学栄養指導研究室教授

【研究の背景】
近年、我が国ではライフスタイルが変化し、核家族、あるいは共働きの家庭も増えるなか、子どもたちに食に関する知識を教えるだけでなく、その知識を使って望ましい食の選択や食行動に結びつけられるような、実践的な栄養教育(食育)を行なっていくことが一つの課題となっています。

また最近では、食品の種類が多様になり、同時に、食生活の合理化により料理の軟食化、あるいはファーストフード化が進んできています。
このような食環境で育ってきている子どもたちのなかには、「噛めない」あるいは「噛もうとしない」「なかなか上手に飲み込めない」といった摂食機能の低下を示す子どもが増加しています。咀嚼は摂食には欠かせない行為であり、離乳期から経験的に獲得される行為であるため、幼児期からの咀嚼訓練は極めて重要です。

本研究は、幼児期より少し年齢が上の児童を対象に、咀嚼と食生活についてのテーマを取り入れた栄養教育を行なうことにより、児童の食行動や咀嚼能力にどのような変化を及ぼすか検討することを目的としました。なお、この研究では咀嚼能力という言葉を使っていますが、現実には、咬合力を測定しております。私どものこれまでの研究で、咬合力を測定することによってある程度、咀嚼能力を表現することもできるという結果を得ております。

【研究の方法】
1.研究対象
栄養教育の対象は、鶴ヶ島市に所在するF小学校の2年生と4年生(栄養教育介入校)、それからS小学校の2年生と4年生を非介入校(コントロール校)としました。介入校で144名、コントロール校146名、合計290名です。また、研究の実施期間は、昨年の5月から10月の約半年間です(夏休みは除きました)。

2.栄養教育の方法
栄養教育の方法は、右図に示すように、まず第1に、調査期間中は、鶴ヶ島市給食センターの栄養士さんたちと協働し、できるだけ噛み応えのある給食をF小学校、S小学校に配食していただくことにしました。そして、介入校では給食を食べる前に約10分程度、本学の学生がテーマにあわせた教材を使用し栄養教育を実施しました。
第2に、栄養教育の内容をそれぞれの児童に定着させるために、担任の先生には、栄養教育で行なった内容をできるだけ毎日、児童にお話ししていただきました。また児童へは、自己評価ノートとして栄養教育の内容に関連した目標を定めた“たっせいノート”を配布し、達成の状況を記すことを実施しました。
第3に保護者への栄養教育としては、直接的な栄養教育は不可能なため、子どもたちに実施した内容をおたよりとして毎回配布させていただきました。そのなかには、家庭でも日常的に噛むことを意識していただくために、できるだけ噛み応えのある食材を利用したレシピ“かむかむレシピ”を記載し、家庭でも実施するように依頼しました。
以上のように、学校と給食センターや本学の学生などの地域の人々、そして家庭が連携したかたちで食育活動を展開させました。

3.栄養教育の内容
子どもたちへの栄養教育は、5月から10月の間、1週間に1回、合計10回実施しました。第1回目は、これからどういうことを勉強していくのかについてのオリエンテーション。2回目は、「朝食と脳の働き」につき、朝はご飯を食べたほうがいいですよというお話。それから、よく噛んで食べると食べすぎを防止できるという話を3回目に行ないました。この頃に夏休みの時期になりましたので、子どもたちの咀嚼能力の実態につきまとめました。それから、6回、7回、8回、9回で、咀嚼回数を多く必要とする食品にはどんなものがあるか、バランスのよい食事とその食事を食べるとどのくらい噛むことが必要になるか、あるいは、お菓子や飲み物の砂糖の量と虫歯との関係、おやつの選び方の話をしました。そして最後がまとめで全10回実施させていただき、栄養教育の前後でアンケート調査と咬合力測定をしました。

4.評価方法
児童の食行動の変化を調べるために上記内容に関するアンケートを実施しました。その結果から栄養教育の評価を推測しました。また、保護者に関しても態度の変容を評価する目的からアンケート調査を実施しました。
咬合力測定は、咬合力測定フィルムを使用し、咬合力測定システム・オクルーザー(左下写真)により結果を出しました。
 
右下写真は、デンタルプレスケールというフィルムですが、噛んだところが発赤するようになっています。子どもの口の大きさによって、S、SS、M、Lとサイズがあります。子どもたちを椅子に座らせ、あごを引いて、このフィルムを下の歯並びに添って乗せて、約2秒間、ぐっと噛ませます。それを取り出すと、噛んだところが赤くなります。これを測定器に入れますと、上あごと下あごで、どこの歯にどのくらいの力が加わったか、そして歯の面積と瞬時に加わった圧力を掛け合わせたかたちで咬合力が算出されてきます。これを2枚採得しその平均値を咬合力測定結果として用いました。


オクルーザー

デンタルプレスケール

 

【対象児の概要】
1.日常生活
対象となる子どもたちの日常の生活状態は、介入校の子どもは、就寝時刻については9時から10時が60%でした。起きる時刻は7時前が60%。コントロール校も、7時前後くらいに起きている子どもが多い状態でした。
朝食喫食時刻は、起床直後の7時から7時半くらいです。夕食喫食時刻は、2年生と4年生では若干時刻は異なり、4年生が少し遅くなっています。2年生では7時前に済ませている子どもが多い状態です。また、朝食喫食時間は15分から30分と短いことに対し、夕食は、30分以上要している子どもたちが6割近くになります。間食は、6割から7割の子どもたちが、ほとんど毎日食べています。そして、テレビを見ながら食事をする子どもたちも6割近くいる現状です。

2.体型
これは介入校のデータです。2年生男子女子、それから4年生の男子、女子を示しております。ここに赤く示したのは女子と男子の平均値です。この数字は全国平均の子どもたちとそう大きくは変わらないと思います。前期と後期でBMIを算出しましたが、それほど大きな変化はありません。見たところでも、そう太っている子どもは今回の対象児には見当たりませんでした。
コントロール校の子どもたちは、ここが平均になります。2つ並べてみないと理解しにくいかと思いますが、なぜかコントロール校のほうが、若干、身長も高いし体重も重い子どもが多かったように思います。
これは4年生の平均ですが、コントロール校のほうが優位に高く、後期も同様のことが言えます。体重についてもこのように差が見られました。
次に4年生女子も、コントロール校のほうが重いという結果です。

3.歯科の状況
これは介入校の歯科状況です。defと小文字になっているデ−タは、乳歯が虫歯になってそのままになっていたり、治療してあったりする歯のことを意味します。そして、DEFと大文字は、永久歯が虫歯になり、そのまま放置してあったり、治療してあったり、あるいは欠損していたりの状態を意味します。ここに赤く示してあるように、介入校の子どもたちはどういうわけか、乳歯がまだ多く残っている状態でした。
コントロール校の子どもたちを見ますと、ここは永久歯ですが、ほぼ全国平均と同じです。コントロール校のほうが、介入校の子どもたちに比較しますと、永久歯はいずれも多い状態になっていました。介入校の女子も平均乳歯数が多い状態です。永久歯の虫歯は、0.8本ですが、介入校のほうがコントロール校よりも多かったという状況です。

今、なぜ乳歯と永久歯のお話をさせていただいたかといいますと、永久歯が生え変わってくる時期は、歯が少しデコボコいたします。そういう時期には少し歯がグラグラしたりするという問題が生じます。先ほどのフィルムを2秒間噛ませるところに支障が生じます。特に4年生では、半年間の栄養教育や噛み応えのある給食の配食によって有効的な咬合力の向上は見られませんでしたが、それには、この乳歯と永久歯が関係していたものと考えております。

【栄養教育の評価】
子どもたちの食行動の変化については、特に朝食の欠食状況、1回の噛み回数、食品の噛み方、食事中の飲料の飲み方等につき、栄養教育の前後にアンケート調査を行ない、評価しました。さらに、咬合力測定を実施しました。

朝食の欠食状況と噛み回数
朝食の喫食状況については、2年生も4年生もほとんど食べておりました。したがって、栄養教育の効果は明確には示されませんでした。
次に、「食べ物を口に入れたら、できれば20回くらいは噛もうね」という話を子どもたちにしてまいりましたが、介入校とコントロール校でその結果がどうなったかの結果です。結果は30回以上、20回くらい、10回くらい、5回以下、ほとんど噛まない、無回答となっております。いずれにしても有意な差は見られませんでしたが、ご覧いただいてわかりますように、介入校の子どもたちの2年生の平均では、20回以上よく噛んで食べる子どもが後期には増えてきております。ですから、これをもう少し長い期間にわたって訓練を続けていけば、有意の差が出てくるのではないかと考えております。コントロール校と介入校を比較していただきますと、明らかに介入校の方が多くなっていることがお分かりいただけるかと思います。

それから、2年生女子につきましても、介入校の場合は前期と後期を比較しますとこのような結果になります。有意の差は認められませんが、コントロール校の場合はこのような結果ですので、「よく噛んで食べよう」という指導は、ある程度の効果を得られたものと考えております。
これは4年生ですが、やはり同様のことが言えるかと思います。

それから4年生の女子も、このように後期は介入校のほうが増えてきています。
食品の噛み方については、和洋女子大学の柳沢先生らが開発されました噛み応えのランク付けのリストを引用しました。あまり一生懸命噛まなくてもいい食材から少し噛まないと咀嚼しにくいような食材まで、ランクの低いところから高いところまでの食材を一つずつ出し、子どもたちの噛む状況を見ました。咀嚼ランクでは10が一番噛むことを必要とするわけですが、ブタひれ肉やイカの煮物、ホウレンソウなどの食材は、6、7、8くらいの比較的良く噛まないと咀嚼しにくいところに相当するものです。これは介入校だけのデータですが、有意の差は認められないものの、後期になるとやはり「よく噛んで食べよう」という変化が現れつつある状態です。
それから、ゴボウやキャベツなどの噛むことを必要とする食材についても、後期になりますと、よく噛む傾向になってきています。
それから、食事中の飲み物。これはコントロール校、介入校とも、前期後期でほとんど変化は見られませんでした。だいたい90%近くの子どもたちは、食事中にはなんらかの飲み物を添えて食事をしている状況でした。

【家庭における栄養教育の評価】
母親の態度の変化については、噛み応えのある食材の使用状況、市販食品の使用状況、加工食品の使用状況、外食の状況について調べました。

私がこれまで行ってきた幼児期の子どもたちを対象とした研究では、市販の食品を種類多く、あるいは回数多く使っているご家庭の子どもの咬合力は低いという結果が出ています。また外食については、低学年の小学生が外食でどんなものをよく食べているかといった外食産業等々の結果から考察しますと、ハンバーグやオムレツ、カレーライス、餃子など、一生懸命噛まなくても飲み込めるような料理が比較的多く食べられています。事実、幼児期の子どもですと、外食の回数の多い子どもは咬合力が低いという結果を得ております。

結果的には、これは後期のみのデータですが、やはり有意差は認められません。しかし、介入校の子どもたちのお母さんのほうが、できるだけそういうことを意識して使う傾向にある気がします。もう少し継続的な取組が必要と思っております。

【まとめ】
今までお話しましたように、今回は明快な答えは得られませんでしたが、できれば継続的な栄養教育が必要だと思っております。それから、咀嚼能力の向上には、日常的に噛むことを意識させるとともに、そういった食材を積極的に与え続けていくことが必要かと思います。 また、今回のものは一例ですが、今後、保護者と学校と地域が一体となって取り組むための栄養教育プログラムを考案していくことが一つの課題であると思います。


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