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研究課題名

地域特産物を活用した食育教材プログラム開発(久留米市の事例)

研究代表者/発表者

山下 浩子(やました ひろこ) 久留米信愛女学院短期大学健康栄養学科准教授

【背景と目的
平成15年度のデータによりますと、久留米市の農業算出額は九州第1位、全国第4位という、屈指の農業生産都市ですが、実際のところ、地域特産物に対する市民の認知度が大変低いという状況です。
一方で、本市の保育所給食は、公・私立ともに統一の献立を実施しており、園児の食教育の一環として地域特産農産物を多く取り入れるように栄養士が工夫しております。
そこで、園児が食に関心を持ち、特に野菜や果物を喜んで食べるようになるために、研究の目的を、

  1. 毎日食べている給食に出される野菜、いも、きのこ、果物を見て、そして触れて、名前を憶えさせる。
  2. 農業体験をさせる。
  3. かるた遊びを通して、野菜や果物の名前を憶えさせる。
  4. 学生に食育教材として、かるたなどを考案させる。
以上の4点としました。

【対照】
対照は、久留米市立保育所8園の年長児、5歳児で、介入群92名、対照群94名です。8園を住所地が隣接する2園ずつに分けまして、そのペアからくじ引きで介入群を決定いたしました。実施期間は平成17年10月中旬から18年の2月上旬の約3カ月間となります。

【方法】
1.聞き取り調査
研究方法は、まず研究期間の前後にアンケート調査を行ないました。園児を対照に、野菜、いも、きのこ、果物の実物の全形22種類、切っているもの7種類を呈示して、それらの名前を知っているかどうかを面接による聞き取り調査で行ないました。
これは、アンケート調査のときの実物呈示の絵です。全形の22種類のうち14種類をスライドに載せておりますが、ダイコン、ニンジン、トマト、ネギ、チンゲンサイ、こまつな、ほうれんそう、ハクサイ、キャベツ、キュウリ、たまねぎ、ミカン、バナナ、キウイフルーツなどが載っております(アンケート調査1)。
こちらは、左側が全形の残り8種、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、きのこ類とリンゴです。右が裁断した図で、ハクサイ、ニンジン、ダイコン、キャベツ、キウイフルーツ、ネギ、たまねぎの図です(アンケート調査2)。

2.実物呈示
実物呈示は、毎日給食の献立にある、野菜、いも、きのこ、果物の実物と名前のポールをつくり、教室に1日中呈示しました。右の写真は、教室のテーブルにその日の給食の食材を前に実物を呈示し、一緒に名前のポールを立てかけているところです。ポールは三角柱になっておりまして、名前と学生が手描きした絵が書かれております。こうして1日呈示しておりますので、子どもたちは、見たり触ったりして、給食に出てくるその日の食材の名前を憶えていきます。名前のポールは、一つの面に食材の絵が書いてあり、残り二面に名前を明記しまして、このポールだけでも食育教材の一つとして子どもたちに使ってもらえるようにと配慮しました。

 

 

下左の写真も、実物呈示の場面ですが、中央にいるのが保育士の先生で、教室の後ろの棚にポールや実物が置いてありまして、先生が「これは何でしょう?」と野菜などを呈示して、それをみんなが答えたりしています。「給食のどこに入っているかな?」「どのおかずの中に入っているかな?」と問いかけることを、この期間、毎日行なっていただきました。

下右の写真で真ん中にいる園児の男の子がたまねぎの実物とポールを持って、両手を挙げています。この研究期間の中盤から後半にかけては、子どもたちも慣れてきて、給食の当番の子がクラスの子どもたちに対して、「これは何でしょう?」と質問します。子どもたちが「たまねぎ」と答えると、「じゃあ、それは給食のどこに入っているのかな?」と聞きます。そうすると、この手前にいる子どものように、みんな自分の給食を覗いて探していました。

3.かるた遊び
かるた遊びは、本学健康栄養学科の学生が作成いたしました野菜かるたで、園児が遊びながら学習するようにしました。
かるたの食材は、この研究期間の給食に出てくる食材に関してすべて作りましたので、36種類になりました。学生たちの手作りかるたは、手描きの絵ですので良し悪しがありまして、実際に使ってみると、「わかりにくいものもありましたよ」と、園の先生のご指導もいただきました。

読み札のほうは、“ちんげんさい はっぱがまるい やさいだよ”とか“みどりいろ たべるとげんき ほうれんそう”“こまつなは ビタミンたっぷり みどりやさい”というふうに、色や形、そして栄養の話なども取り入れながら、わかりやすく、そして子どもたちが興味を持って遊び感覚で学習してもらえるように心がけて作りました。学生たちがグループごとにそれぞれすべての食材の読み札を考え、その中から学生間の投票によって選出しました。
 

4.農業体験プログラム
農業体験プログラムは、農業者や外部の栄養士等の協力を得まして、苗植えや生育観察、収穫、調理までを子どもたちに体験させました。
これは、苗を植えたり種を播いたりしているところですが、直接農業者の方からご指導いただきながら、期間が短かったので、早く育つ食材を植えているところです。

久留米市の保育所では、年長児が卒園前に自分たちでかるた作りをするのが恒例のプログラムになっているそうです。今回はそのときに、野菜をテーマにしたかるたを子どもたちが自分たちで作りました。絵も野菜の絵です。後日、保育士さんからは「農業体験プログラムで実際に野菜作りをしたこと、自分たちが収穫したり調理をして食べたことが、1年間の思い出の中で非常に印象的だったんでしょうね」という言葉をいただきました。

 

 

【結果】
介入前後のアンケート結果です。ここに示していますのは、全形の22種類の野菜や果物について尋ねたものです。介入前の介入園児と対照園児には差がありませんでしたが、介入後、介入園児は対照園児に比べて野菜や果物などの名前を憶えたという結果が出ています。
約3ヵ月間の実証研究期間における給食食材の実物呈示により、介入園児が食材の名前を憶える学習の効果が上がりました。介入前に比べて、平均で5種類ほど増加しています。

農業体験においては、生育観察の役割、収穫、調理を通して、農業をする喜びや楽しみを体感できたと思います。以前から、園では子どもたちに自分たちで野菜作りや芋掘りをしたり、何らかのかたちで農業に携わるプログラムが実施されてきました。しかし今回、介入園では、たくさんの農業者の方たちが、畑を耕すところから苗を植える、種を播くなどのご指導、その後、作物を育てている最中にも様子を見に来てくださったり、また収穫の時にはお手伝いをしてくださったりということで、たいへんご協力いただきました。子どもたちも、普段、先生たちと一緒にやっている活動とは違って、外部の方から直接指導を受けたことがとても印象的だったようです。

もう一つは、野菜を身近なものとして関心を持つようになりました。たとえば買い物に行ったときに、それまではお菓子売り場に走っていく子どもたちが、スーパーの野菜売り場を通ったときに、「このちんげんさいを買って」とお母さんたちにお願いをするようになったそうです。お母さんが「これを買ってどうするの?」と聞きますと、「みそ汁に入れてほしい」と返事したそうです。

これまでも、久留米市の保育所では、地産のものをできるだけ意識してたくさん取り入れる献立を工夫してきましたので、子どもたち、特に年長児になれば、それらの野菜の入っているおかずや汁物をしっかり食べています。けれども今回、子どもたちが体験したことを家庭で話をしたり、自分から野菜の話をしたりという変化が少し出てきたということを感じました。

【教材開発「くるめの元気! 食育やさいかるた」】
これらの結果を受けまして、今度は学生の手作りかるたを食育の教材として再検討して、そして開発することに至りました。

かるたの食材は、最初に作った36種類の中から、地産農産物を中心に使用頻度の高い野菜20種、いも3種、きのこ3種、果物6種の計32種類を再選出しました。読み札も再検討しました。実は、そのときは気づかなかったのですが、よく読んでみるとどこかで聞いたことのあるフレーズが文章の中に入っていたりしたので、そういった言葉を引用しないように確認をいたしました。絵札は、写真カードとして32種類の実物を撮影し、表は全形、裏は裁断の構図としました。
そして、初版500部を作成しました。「くるめの元気! 食育やさいかるた」と命名しています。右の写真が外箱のデザインです。サイズはハガキ大(A6版)くらいです

こちらは中のカードです。左側が写真カードの表にあたる部分で、青ねぎの全形を写しています。その裏側がねぎを小口切りにした写真です。そして、答えの「青ねぎ」と書いてあります。

これは青ピーマンです。青ピーマンは久留米の特産ではありませんが、一般によく使われている野菜で、給食のメニューにもよく使われています。こちらが裏側で、切り口と答えの「あおぴーまん」と書いてあります。今、いろいろな色のピーマンが出ておりますので、緑が青ピーマンというのはどうかということは考えなければなりませんが、今はこのように作っております。

これは、その読み札です。“あおねぎは ほそくてやわらか あまいあじ”“あおぴーまん だいすきなひと げんきいい”というように、できるだけ5・7・5調になるように学生たちが考えたものです。

「くるめの元気! 食育やさいかるた」は、新久留米市内の保育所及び子ども支援センター72カ所に、本学から贈呈いたしました。それから、小学校47校には、本市の食育推進協議会から配っていただいております。

今後は、この結果を持って行政にもいろいろな働きかけをしていきたいと思いますし、実は子どもだけではなく、介護老人保健施設からも問い合わせがあったり、もちろん栄養士を目指している本学学生の食教育の推進の一環にもなると思っております。そして、ぜひ、子どもから大人へ、子から親へというように、大人の食育にも結び付けたいと考えている次第です。今回のかるたは、保育所の園児に研究に協力してもらい、実際に使ってもらったところから開発したのですが、幼児期の子どもだけでなく、学童期の子ども、思春期の子ども、そして私たち大人自身も、たとえば野菜の名前でも知らないものは意外とたくさんあります。あるいはかるたから季節感を味わうなど、一つの媒体から使い方がいろいろあるのではないかと期待しております。

座長坂本:今後、年間の期間を決めて、先方に出向いていって教育をするということはご計画ですか。

山下:そうですね。本当はそれをやりたいと思っています。今回は久留米市の協力を得て、公立の保育園から実施できましたので、この成果を久留米市に報告をして、このように私たちが介入していきたい、あるいは私たちが入っていけなくても、園の中で給食の食材を見せるということはそれほど大変なことではないと思いますので、紹介していきたいと思います。

座長坂本:ぜひ継続されて、子どもたちがどう変わっていくのか、あるいは子どもから大人へ、おそらく子どもを介して大人の教育を試みておられると思いますが、その大人の態度の変容もぜひ捉えていただきたいと思います。

質問:食育のツール開発が非常にうまくできた事例だと積極的に評価したいと思います。これを今後、どのように広げていくかということも大事なことだと思うのですが、その点でお考えがありましたらお聞かせください。

山下:「くるめの元気! 食育やさいかるた」は、この実証研究の期間に作りましたので、野菜や果物が秋冬ものです。将来的には年中の野菜も出したいと思っています。それから、初版で500部を作りましたが、それを一般の方に買っていただいた分で次の増刷をしています。また、久留米市内の保育所や小学校には贈呈したのですが、日本農業新聞の全国版に載せていただき、各県からお問い合わせをいただいております。これは一つの久留米市の事例ですけれども、皆さん方の町で使っていただいて、皆さん方の町なりのものができていけばいいと思いますし、私たちも新しい切り口の第2弾なども考えていきたいと思っております。


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