Home >> 2006 食育実証研究発表会 報告集 >> 6  

研究課題名

食農体験とそれを生かした絵本作りによる、子どもたちと大人のコラボレーションシステムの構築

発表者

宮瀬 美津子(みやせ みつこ) 熊本大学教育学部家政教育学科助教授

【目的
まず、研究の目的について述べます。サツマイモやダイズなどの作物を栽培し、自ら収穫した食材を調理して食する活動は、それらの食材に対する理解や思い入れが高まる点でその教育的効果が期待されています。しかし、多くの園児・児童および保護者に「作物を育てる」農業の体験者は非常に少ないのが現状です。また、外食や中食の利用増に伴う野菜、特に食物繊維の摂取不足や、家庭状況の変化による孤食・個食などが問題視されております。 本研究は、園児とその保護者、および小学生のこれらの課題解決に寄与する食育システムと、園児−小学生−中学生という異年齢間の相互学習システムの構築、また教員養成学部における教材の開発を目的として進めました。

【研究方法】
次に、研究方法について述べます。本研究は、以下に述べます4点について実践を通して検証してまいりました。

1.幼稚園児とその保護者を対象とした食育システム
園児とその保護者、教育学部の学生が合同でサツマイモの苗の植え付けと収穫を行い、収穫したサツマイモできんとんを調理いたしました。さらに、中学生が作った絵本によって園児が、大学教員の講話によって保護者が、食物繊維について学習する機会を付加した食育システムを構築いたしました。

2.小学校低学年児童を対象とした食育システムの開発
中学生と大学生の支援による豆腐、きな粉、味噌作り、それから保護者と大学教員・学生の支援によるだご汁(熊本の郷土料理)作りの調理実習を行いました。さらに、中学生が作成した電子絵本でダイズの食文化について学習を深める機会を付加した食育システムを構築いたしました。

3.中学校の生徒を対象とした技術・家庭科用の食育システムの構築
自ら栽培、調理を行う活動のほかに、小学生と一緒の調理実習、ダイズをテーマとした小学生用の電子絵本や、サツマイモをテーマとした園児用のフェルトの絵本を作成し、読み聞かせを行なう食育システムを構築いたしました。

4.教員養成学部における教材の開発
園児・児童によるサツマイモ、ダイズの栽培から調理、その後の教育活動を生活科の教材として開発いたしました。これらの諸活動の学部に院生が参加することにより、教員としてのスキルアップを図りました。また、中学生の絵本作成時においても、学部生・院生が支援いたしました。

【実践内容】
結果の報告に移らせていただきます。
右の写真ですが、これは付属幼稚園児が、昨年10月に熊本大学の付属農場でサツマイモの収穫をしている様子です。植え付けは5月下旬に行いました。園児全員とクラスごとに保護者数名が参加しております。また、技術科教育の教員を志望する大学院生も参加して支援を行ないました。

下の写真は、11月下旬に保護者参観日を利用して、親子できんとんを作ろうという活動を行なったときの写真です。まず、研究代表者の桑畑が、実習に先立って講話をいたしました。その際に、『大きな大きなおいも』という絵本があるのですが、これを学生にパワーポイントにしてもらいまして、読み聞かせをしているところです。そして、この話のあとに、「サツマイモにはおなかの掃除をしてくれる成分があるんだよ」といったようなお話をしております。


実際のきんとん作りでは、サツマイモは50gほどに切って、事前に茹でております。ホカホカのサツマイモを保護者が取ってきまして、子どもたちがその皮をむいて、ボールのなかでマッシャーやスリコギを使ってつぶしてまいります。非常に簡単な作業ではあるのですが、調理体験の少ない子どもたちというのはなかなかうまくはかどっていきませんので、ついつい保護者が手を出してしまいがちなのですが、保護者には「できるだけ子どもたちにやらせてください、極力手を出さないでください」というかたちで子どもたちの体験を重視いたしました。

つぶしたサツマイモを、子どもたちが一生懸命に丸めている様子です。紫のサツマイモ、紫イモも用意しましたので、これは黄色いおイモと一緒にパンダを作っているところです。こういったいろいろな表現の工夫などもありました。

「おイモを食べてみて、甘みが足りないと思ったらお砂糖を足してください」と申し上げたのですが、保護者がすぐにお砂糖を入れようとなさるので、「できるだけ自然の甘みを体験させてください」とお願いいたしましたところ、おイモ自体も甘かったということで、ほとんどの子どもたちはお砂糖を入れずに、おイモの自然の甘みを体験しておりました。

それから、これは今年の2月に中学生がフェルトを使って、サツマイモをテーマに作りましたフェルトの絵本の一例です。フェルトとボンド、糸といったものを使って、簡単につくっております。これは、選択の家庭科の時間を使って行われました。絵本作成にあたって、生徒たちは、インターネットや書籍でサツマイモについての調べ学習をしております。

できあがりましたフェルトの絵本は付属の幼稚園に持って行きまして、生徒たちが読み聞かせをしています。

【結果と考察】
幼稚園児とその保護者を対象とした食育システムを行った結果を考察いたします。幼稚園で、講演会や親子での調理体験をしましたが、その結果、保護者や園児の意識が変わってまいりました。具体的には、活動前までは子どもたちのお弁当などを見ますと、冷凍食品が多用され、揚げ物が多かったのですが、活動後にはおイモの煮物などが入ってきたり、野菜が増えるといったような具体的な生活改善がもたらされました。保護者が食生活の問題点に気づき、その解決のために何から取り組めばよいのかということが理解できたのではないかと推察いたします。

また、子どもたち自身の食に対する関心が高まり、食事作りに興味を持ったり、野菜の味に気づいたり、食物繊維の大切さを理解したと考えております。野菜が苦手だった園児が、少しずつ食べる量が増えたといったような食行動の変化が見られました。

これらの成果につきましては、園児の変化については、幼稚園教諭の観察を元に考察いたしました。それから、後で述べます中学生については、幼稚園の訪問をした後に感想文を書いていただきまして、それに基づいて考察してまいりました。

先ほど述べましたけれども、お弁当の変化ということで、スライドをご紹介したいと思います。これは、昨年10月、サツマイモのきんとんづくりをする前に行った、保護者を対象とした食育講演会で使ったものです。実際の子どもたちが持ってきているお弁当を事前に撮影させていただきまして、保護者向けにちょっと気になるお弁当ということで紹介いたしております。

例えばこちらのお弁当ですと、ほとんど野菜が入っていないということで、野菜不足あるいは食物繊維不足というお話をいたしました。それから、こちらのお弁当についてですが、ピラフのご飯にいろいろな揚げ物が入っているということで、繊維も不足しておりますけれども、特に油脂が多すぎるのではないかといった指摘をしております。

これは、取組みの後に撮らせていただいたお弁当ですが、今回の取組を通して保護者の意識が非常に高まり、食に関心を持つ保護者が増えたということが見て取れます。例えば、こちらにはイモの煮物が入っております。それから、全体的に豆が入ったり、野菜が入るようになりました。ピーマンの肉詰め、ご飯のなかにひじきが入り食物繊維が増えており、すこしずつ改善がみられました。
小学校低学年児童を対象とした食育システムについて報告します。小学校2年生と中学校3年生、大学生、大学教員がいっしょになってきな粉や味噌、豆腐をつくりました。大豆をつかった食品をつくることは子どもたちにとって始めての経験でしたので、きな粉を石臼でひいたりすることに大変興味をもってくれました。

この実習には2年生が38名参加しました。それぞれをきな粉、味噌、豆腐の3グループに分けて、さらに4班編成としましたので、1班に3、4名の2年生が加わりました。それと中学生は、選択の技術科と家庭科を履修している3年生で、やはり1班に3、4名ずつ参加しております。試食では、白玉だんごを大学生がつくりそれにきな粉をまぶして食べてもらいました。味噌はすぐには食べられないので、つくったばかりの塩辛い味噌を味見し、3ヵ月ほどねかしてだご汁づくりをしますが、その時に味噌の味がどのように変化したのかを子どもたちに体験してもらいました。

なお、このだご汁というのは、熊本で今日でもよく食される郷土料理ですが、一般的にはだご(団子)は小麦粉だけでつくるのですが、今回はサツマイモをふかして、つぶしたものを小麦粉に混ぜて、やわらかくて甘味のあるだごにしました。地元では「お姫さんだご汁」とよばれています。

【コラボレーションシステムの効果】
小学校における取組みの効果について説明します。小学生では、きな粉や豆腐、味噌を作ることで原材料を知って驚いたり、手作りの喜びを感じたり、食品本来の味を楽しみ、過程における実践化への意欲を持ちました。また、共同作業の成果や、中学生や大人の支援に対する感謝の気持ちを表しており、コラボレーションシステムの教育効果が推察されました。

また、中学生が制作した電子絵本の読み聞かせによって、多くの児童が大豆について興味・関心を示し、大豆に対する幅広い知識を得るとともに食品としての有用性についても理解することができました。これにより、自身の食生活においても、大豆や大豆食品を多くとっていきたいと述べています。また、中学生の調べ学習の仕方や発表の仕方に対して、あこがれと尊敬の念を持ったようです。

 

それから、保護者が手作り味噌を使っただご汁作りに参加することにより、低学年児童が包丁を使う調理実習を安全にすすめることができ、親子の良好なコミュニケーションが促進されました。また、いりこや食材から出る旨みだけで十分に美味しいみそ汁(だご汁)ができたこと、手作り味噌が美味しく作れること、子どもたちが思った以上に上手く調理できることなど、親の側にも数多くのき気付きがあり貴重な食育経験につながったと考えております。さらに、大学教員の講話により、日常的に食されている郷土料理に込められた庶民の生活の知恵を学ぶ機会を取り入れることで、食育の生活文化の側面を取り入れることができたと考えます。

次に中学生においては、学校園における作物の収穫作業や小学生との調理実習に大変興味をもって参加することができたようです。ほとんどの生徒にとって大豆を使った食品づくりは初めての経験であり、多くのことを学んだという感想を述べています。また、電子絵本やフェルトの絵本づくり活動により、題材とした作物や食品に対する知識が広がるとともに、生徒自身の食生活に対する見直しの機会となりました。絵本の読み聞かせ活動では、幼児や児童の実態について多くの気付きが見られました。対象者に合わせたプレゼンテーションの難しさや、児童に理解してもらえたことへの達成感について述べられており、異年齢交流の効果が認められたと考えております。

幼稚園におけるきんとん作りや、小学校における大豆を使った食品つくりやだご汁作りを支援することによって、サツマイモや大豆が保有する教材的価値について体験的に大学生や大学院生が学ぶことができました。そして生活科や選択技術・家庭科の時間を使ったカリキュラム化や授業展開法についても学んだと考えられます。また、幼児や児童に対する理解も深まり幼稚園教諭や小・中学校の教員への志望動機を強めました。また、食育の教材開発能力および指導力が育成されたと考えています。しかし、本テーマを学生自身の問題意識に組み込むためには、取組みの設計段階から参加させることが必要であったと考えております。そして、支援という以上の責任のある立場での活動を保障することも必要であると考えます。

【まとめと課題】
本研究により構築した食育システムは、教科や総合的な学習の時間、特別活動等のクロス・カリキュラム的なアプローチにより、学習指導要領に基づく展開が十分に可能であると考えます。
幼児、児童、生徒の異年齢間の相互交流学習による食育を継続的な取組みとして展開するためには、学校の年間計画などのカリキュラム上に明確な位置づけを行なうことが今後の検討課題です。


▲ページトップ  →次の発表報告