開会あいさつ
講演/中橋義幸
福岡県/福岡女子大学しょくぼねっと
佐賀県/オリザジャポニカクラブ
長崎県/西海市地産地消地域推進協議会
熊本県/熊本県食生活改善推進員連絡協議会
大分県/本匠農林水産物生産組合「あぐり」
宮崎県/三者会
鹿児島県/かごしまの“食”推進員
意見交換会
 
 


 
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食の基本は家庭にあり――若いお父さんお母さんにメッセージを

中橋義幸/ホテル日航福岡 総料理長

本当の食育は家庭で

講演をする中橋義幸さん

 ホテル日航福岡の総料理長を務める中橋義幸さんは奈良県明日香村の近く御所(ごせ)市に生まれ、「おじいちゃんおばあちゃん、両親、そして兄弟3人、そして犬が1匹という家族構成でした」と、今ではなかなか望んでも叶えられないような自然と人に恵まれた環境で育ちました。

 子ども時代は日が暮れるまで外で走り回って遊び、「もう時効ですが…」と言って「夏になればよその畑でスイカをとって川に沈めて、泳ぎ疲れたら冷たくなったスイカを食べたり、いろいろなことをしました。そういう時代に育ったので、旬を体で覚えているんです」と話し、毎日の生活の中から「食べること」を自然と学ぶ日々だったと言います。

 講演のタイトルにも触れ、「僕たちホテルというのは、あくまでも家庭できちんと土台が出来上がったうえに、いわゆる非日常の部分、たとえば誕生日、結婚式、あるいは法人であればパーティといったことのお手伝いをさせていただく企業です。ですから、本当の食育という部分ではホテルに到達していただくまでの段階のこと。それを踏まえたうえで、非常に大切だと思って取り組んでいる部分もあります」。

 また、食卓の役割についても、
「昔、家庭の食卓は、ただ食事をするだけの場ではなかったと思うんです。
 僕は、おじいちゃんによく怒られました。テーブルに肘なんかついたらパシッとやられましたし、横着して箸で小さなお皿を引っ張っれば手をパシッとやられました。食事の時間にはそういったしつけも含まれていた気がするんです。
 と同時に、親父やお袋が『最近、元気ないね』とか『学校で何かあったのかな』と見ては、担任の先生に話をしてくれたり、食事の時間に僕らのクリニックをしてくれていたのかなと思います。
 そういった場所が本当になくなってきたので、できることならそんな機会をどんどん増やすことが、これから非常に大切になってくると思います」
と、「食の基本が家庭に」あることをまず、お話されていました。

シェフの仕事

 中橋さんは九州のよさを、まず「産地が非常に近い」ところにあるといいます。「あれはうちの水槽や」と呼び習わす玄界灘からは四季折々の海産物、また肥沃な大農場地帯である筑後平野に、山間地の果樹地域……、まさに「フードアイランド」、宝の島なのだとか。そのロケーションを利用して、休みの度に生産者のところを訪ね歩くうち、さまざまな発見がありました。

 「出荷の規格から外れた、いわゆる『B級品・C級品』ってありますよね。これは捨てられてしまうものなんですが、そんな現状を見ていたら『これはおもしろい』『いびつな形をしているけど、かわいい』と思ったんです。
 1級品と違ってB級品は、いい子ではないかもしれないけれども、がんばっているというのが伝わってきます。だから僕はB級品が大好きなんです。そしてそれを料理して皿に載せると、A級品に変わるんですよ。
 加えて、すばらしい、前向きな生産者にもたくさん出会いました。そこで聞いたことをお客様との会話の中で披露する。と、お客様はその野菜をただ食べるのではなく、その価値を理解して、食べてくださるんです」と言い、ほかにも、アスパラガス畑を見たおかげで、新しい盛り付けの発想が生まれた経験なども話してくれました。

 このように生産者とのコミュニケーションができるようになるうち、自分一人ではなく、若いスタッフにも産地を見せたいと思うようになったといいます。
 「恥ずかしい話ですが、最近入ってくる若いスタッフのほとんどは、アスパラガスが畑でどのようにできているかということなど、知らないんです。でも皆が皆、大都会出身なわけではなくて、まわりを見渡せば田んぼや畑がたくさんあったと言うんです。ところが、畑のことも知らない。旬も知らない」 。

 そして一緒に産地をまわって生産者の話を聞くうち、スタッフの間に野菜を大事にする意識が芽生えてきたそうです。
 「たとえば、レタスをケースで購入する。今までだったらちぎって一番外側の部分はゴミ箱にすぐ捨てていた彼らが、この残った分をどうしようかと考えるようになりました。
 きれいに洗ってボイルし、中に少し詰め物をして包んで、それをゆっくりブイヨンと少しのフォンドボーなどでコトコト煮込んで取り出すと、お肉の付け合せに非常に合うんですね。レタス1個で3人前、レタス10個だったら30人前できます。そういったことも含めて、野菜を非常に大切にするようになりました」

 「シェフの仕事というのは、メニューをつくり、若手の育成をして、料理の評価を上げると同時に売上を上げていく。コスト管理をし、企画も立てる。
 結構、守備範囲は広いのですが、そういった中で、やはり一番大事なのはメニューです。そして、食材がなければメニューはできない。だから福岡というところは僕にとっては非常にすばらしい土地に思えました」

ホテルから食育の発信を

 さらに中橋さん、今度は子どもたちを生産者の畑に連れて行く企画を始めます。
 「ホテルというのは、もちろん基本はビジネスです。お金を儲けるのが本筋です。しかし、地域に根ざすホテルという観点から考えると、いろいろな形で地域に貢献する、文化の発信基地でもあります。
 ちょうど7-8年前に、子どもたちの食を取り囲む環境が非常に悪化していることを見聞きして、それならひょっとしたら僕らに何かができるかもしれないと思ったんです」

 そしてまず、18年前から付き合いのあるハーブ農家に「産地見学に協力してくれる農家はあるだろうか」と声をかけたところ、「いいよ、うちを使え」と即快諾。「まあ、僕はそのつもりで相談したんですけどね(笑)」と当時の情景を思い出しながら、中橋さんの話は続きます。

 次は、企画を実行にうつすため、会社に説得を試みます。
 「とりあえず今、ビジネスにはならないです。でもこれを続けたらもしかして、10年後、15年後、子どもたちがお嫁さんをもらうとき、またはお嫁に行くとき、ひょっとしたら『日航の料理長と一緒に畑に行ったな』と思い出し、日航で結婚式をしてくれるかもしれない(笑)。ただしそれは、時期が来ないとわからない。それよりも食に携わる者として、地域社会への貢献も大切ですし、ホテルスタッフにも、この活動を通して、ホテルが将来歩んで行く方向も見えてくるのではと思いました。
 ですから、実がなるかならないかは今はまったくわかりませんが、種を播かせてください」と言ったところ、GOサインが出ました。

 今では春と秋の年二回の開催、12回目を迎えるほどになったそうです。

人間、外に出たらそれだけで楽しくなるから

 会場のプロジェクターには、産地体験の様子も映し出されました。

ピーナツ畑で。
『わあ、ピーナツって土の中にあるんだ』

食事の場所は、ビニールハウスの中。
テーブルクロスはきちんとかけます

 「これ、ピーナツ畑でおこなった様子なんですが、何人かのお父さんお母さんが、『わあ、ピーナツって土の中にあるんだ』『木になっているものだと思った』って言われたんです。ビックリしたんですけれども。ということは、子どもは知らないですよ。
 この時はピーナツをきれいに洗って、目の前でボイルしてみんなに食べさせました。千葉ではボイルピーナツってやりますよね、僕、好きなんですけれども。非常にたのしい思い出です。
 食事の場所をつくるとき、うちはホテルなので、きちんとしたテーブルにクロスをかけます。イスはワラ、ワラをきちんと巻いたものをイスにします。そしてビニールハウスの中でやりました。なぜかというと、雨の場合があるので。このとき、ハウスの横を開けて、天井部には日よけをつけてもらったら、快適なんですよ。結構、子どもたちが喜んでくれます。普通ビニールハウスでは食事しませんよね(笑)」
 いきいきと楽しそうな表情を見せる子どもたちの姿が紹介されます。

 この試みはホテルで働く人たちにとってもよい影響を与えたそうで、
  「営業の人間、フロントの人間、オペレーター、そして企画、調理もそうですが、みんなボランティアで来てくれるんですよね。そして、すばらしい笑顔でサービスするんです。休みの日ですよ。給金出ないんですよ。
 なんで会社でこの笑顔でサービスができないかなといつも思うのですが(笑)、本当に人間、外に出たらそれだけ楽しくなるということかなと思います」。

 回を重ねるごとに、断らねばいけないほどの人数が集まってしまうこと、また参加者が固定化しないように取りはからうことが悩みだそうですが、「今後何らかの方法を考えなければと思っています」と力強く話されていました。

日本人の方がよく知っている?―スローフード、スローライフ―

 3年ほど前からよく言われるようになりましたが…と「スローフード、スローライフ」のことを取り上げた中橋さん、スローフード協会の本部がある北イタリアの町・ブラを訪問した折のことを話し始めます。

「非常にすばらしいど田舎です。人口3000人くらいと言っていましたか、イタリアでは有名なチーズの生産地なのですが、まず到着してびっくりしたのが、ゴミ一つ落ちていないところです。人の動きがゆっくりとしていて、日本のようにあくせく走り回っていない。時がゆっくりと流れているような雰囲気。そしてスローフードを提供するレストランで料理を食べたのですが、本当に素朴な地方料理でした。
 イタリア各州にはそれぞれ、名物料理というかお袋の味があって、それが営々と引き継がれているのですが、スローフード協会の会員いわく、『これだけたくさんのおいしい郷土料理があるのに、どうしてファーストフードなの』という疑問が、ことの起こりだったらしいです」。

 中橋さんがスローフード協会の方にインタビューしたところ、「日本人の方のほうがスローフードをよく知っているのではないですか? 地元の人はスローフードという言葉はあまりわからないと思います」と逆に聞き返された、とのこと。

 「ごく普通に日常の生活をしているのが、周りから見たらスローフードというだけのことなんですね。僕は昭和28年生まれですが、あの当時に帰れば日本も、すばらしいスローフードの時代だと思うのです。でもイタリアでは今、日常でそれができている。学校の給食も、ほとんどが郷土料理を中心に出すのだそうです」。

 さらに続けて、「確実で安全な品物を入手して、手間隙をかけて、そして皆でゆっくり味わいながら元気になっていくというのが、スローフードの意味のひとつでもありますよね。地域を巻き込んで小さな生産者、いわゆる僕らが言うところの“顔の見える生産者”を大切にしながら続けていきたいと、協会の方も言われていました。僕たちにとっても本当に、いい勉強をさせてもらったブラという町でした」と、スローフードが「当たり前の、普通のこと」として行われていた土地のことを話してくれました。

ホテルの目指すLOHASとは

 中橋さんには、長年の夢があったといいます。それは…
「ホテルに畑を持ちたいということ。日本の大きなホテルで、畑を持っているところってないんです。実際、自分でも友だちから畑を借りてやったことがあったのですが、無農薬で野菜を育てるのは非常に難しいなということを実感していました」。

 ところが、長年付き合いのある農家の方に「俺はホテルの畑が欲しい。でもこれは無理だよね」とあるとき夢を語ったところ、北野町でトマトとベビーリーフを生産しているというその農家の方から一言「いいや、わからんよ」。
  「えっ」と聞き返すと、「俺がやりゃあできるっちゃろ」と、思いもかけない返事が戻ってきたのです。

 そうなると話は早く、「従業員が100人いるし、うちのじいちゃんばあちゃんを含めて、お年寄りが7人くらいいる。仕事の合間に、お年寄りにその畑をちょっと面倒見てもらえばいい。土地はたくさん空いているんだから、ホテルの畑をつくろう」と生産が始まり、今ではホテル内のレストラン『セリーナ』で毎日使われるまでになりました。

 すると評判は上々「お客様の反応がすこぶるいいんです」とのこと。「だいたい午前中に収穫してもらって、1時までにホテルに着いたら下ごしらえ、夕方のビュッフェには使っています。おかげで食材が非常に元気だし、旬のものしかつくっていないので、市販されている野菜よりもずっと鮮度がよくておいしいんです。
 また朝食にはジューサーを2台置き、お客様にはその野菜から自分でジュースを搾り、飲んでいただいてます。これも非常に好評です」。

 これも先の産地訪問の企画と同じく、お客様のためだけではなくホテルのスタッフのためにもなっていて、最近ではホテルのスタッフが自ら、休みの日には畑に行っているそうです。
 「 やはり自ら出向く。そして生産者から話を聞いたり、ときには農作業を手伝ったりしてほしいと思っています。そういう気持ちがなければいい料理はできないと僕は思うので、そんな若い人が1人でも増えるようにと願っています。これも、私たちのホテルの将来、進んでいくべき方向かなと思っています」 と、ホテルの今後を見据えた「食」を企画していることを話していました。

 最後に、これらの企画を続けていく苦労についても触れ、「LOHASとは、簡単にいえば、自分に優しくて地球環境にもやさしいライフスタイルということらしいです。確かにそういう意味では、地場の地産地消というのは、身近で穫れて、生産者の顔や地域がわかって、そしてなおかつ輸送にコストがかからず、輸送の燃料費もいらないから地球環境にもやさしい。確かにこれは一石二鳥なのでしょうけれども、ただ、そういったことがまだなかなか整備されていない。一番大変な流通がやはり、なかなか進んでいかないというのが現実です」。

 中橋さんのところでは、熊本県益城のにんじん、福岡県糸島や大分県久住高原のハーブ、福岡県北野町や大分県上津江のトマトなど、さまざまな地域の生産者と付き合いを続けて地産地消を続けているそうです。それは(特別な輸送経路をつかうため)どうしても「お客様の目に見えない」コストがかかるのが悩みであること、それをわかっていただくための説明が必要になってくると思いますといいながら、
 「今日、このあと皆さんの発表を聞かせていただきますけれども、本当にいろいろなところでいろいろな活動をされていることには、頭が下がる思いです。僕らはたまたま、こういう(生産者との)付き合いがあって、結果、たまたまこういうところでお話をさせていただいておりますけれども、もっともっと勉強して、そして安全なものを提供していきたいと思っています」と結ばれました。