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食育にどう生かす栄養学

三浦理代/女子栄養大学教授

東北だからできること

講演をする三浦理代さん

 三浦理代 女子栄養大学教授は、食品の機能性、つまり食物の栄養素が人の体でどのような働きをしているのかを中心に、研究されています。

 まさに食事と健康のつながりについて、常日ごろから考えておられるのですが、それでも本日の「食育にどう生かす栄養学」という膨大なテーマには当初、何を話せばよいか考えたといいます。まず、日本人の健康の実態についてお話がありました。

 「食事と健康のつながりとは『生きるために食べる』ということなんですが、人生80年としますと、生涯に食べる量は、水、味噌汁なども含めおよそ50t。引越し用の4tトラック13台分という驚くべき量になります。これを毎日食べて、体を作っては費やしていますので、食べ物はすごく大事だということがおわかりになるかと思います。生活習慣病(メタボリックシンドローム)が言われていますが、それを予防するためには日々の、正しい食生活が大事になってくるわけです。

 では日本人の健康状態がどうかといえば、まず全国平均で女性の平均寿命は85.59歳、男性の平均寿命は78.64歳。それに対し東北は一般に平均寿命が短いといわれています。反対に長寿県に長野県、福井県、熊本県があがっていることを考えると、寒い・温暖といった気候のことが要因とは考えにくいのです。そこで皆さんがされている『食育』に、まさに一生懸命やって成果を上げる仕事が待っていることをお話ししておきます」。

日本人の肥満・やせの実態

 さらに日本人の抱える問題「日本人の肥満とやせの実態」について、話が進みます。
 「20歳以上の男女について調べた国民栄養調査によると、BMIが25以上のいわゆる肥満の人を見てみると、とくに中高年の男性に多く30%ぐらいの方が肥満です。逆にBMIが18.5より下のやせの割合を見てみると、若い女性のやせがすごく増えて25%以上います。しかも30〜39歳になってもまだ、やせの割合が年とともに増えてきている傾向にあります。若い男性でも増えてきています。
 疫学調査の結果、BMI22を超えてきますと、糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、痛風などの生活習慣病が増加することがわかっています。一方で22以下になりますと、消化器系の疾患、胃腸疾患が増えてまいります。BMIを22ぐらいに保つことが、病気に罹るリスクを下げ、健康を保つうえで重要なんですね」
 そして最近頻繁にきかれるようになった「メタボリックシンドローム」は、肥満、とくに内臓脂肪がたまりすぎることに注意しなければならないといいます。

 その原因として

  • 食事は満腹になるまで食べている
  • 間食をよく摂る
  • 料理によくお砂糖を使う
  • 濃い味付けが好きだ、緑黄色野菜をあまり食べない
  • アイスクリームを好んでたべる
  • 階段を使うことが少なくエレベーターなどに乗ってしまう
  • 運動の習慣がない
  • ストレス解消にお酒を飲むことが多い
  • タバコを吸っている
など、さまざまな生活習慣が肥満に密接に関係していることをお話しされていました。

朝食はなぜ大事?

 さらに国民健康栄養調査の結果から、年々「朝食欠食」をする人の割合が増えているというデータも紹介されました。

 「平成16年度は10.5%、つまり100人いると10人ぐらいが朝食を食べていません。年齢別に見てみると、20〜29歳と30〜39歳のあたり、若者に朝食欠食者が集中していることがわかります。
 朝食は脳を活性化するために大事な食事です。朝食を抜くと、脳のエネルギー源であるブドウ糖が欠乏してきます。パン・うどん・ご飯などのでん粉は、いわば脳のガソリンなわけですから、これがなくなると頭の働きが鈍くなり、集中力に欠ける、勉強に身が入らないなどの症状が出てくるわけです」

 そして朝食を摂ることは、脳のエネルギー補給になるだけでなく、一日のリズムを作ってあげるきっかけにもなるといいます。
 「お休みの日になると『やっと休みがきた』と、少しお昼を重くして朝昼兼用の食事で終わらせてしまう方もいるかもしれません。すると体は全然疲れていないのに、なぜか月曜日はすごく辛い、となりますよね。これがリズムの崩れなんです。
 それから、一日に必要な栄養素の基準(食事摂取基準)がありますが、朝食を抜きますと、残り二食分を摂っても、一日に必要な量はなかなか賄いきれません。とくに成長期にある子どもはたくさんの栄養素を必要としますので、注意しなければならないということですね」

 また食事をすると、体が温まるのと同じ、脳もわずかに温度が上がるとのこと。実際に体温計で何℃と測れるものではありませんが、そのおかげで「さぁやるぞ」と脳がウォームアップされるそうです。ただし、できれば食べる前に30分の時間が必要で、
 「寝ている間には副交感神経が働いて体を休めていますが、起きて動き出すと、交感神経に切り替わります。この切り替えに最低30分は必要なのです。交感神経に切り替わって初めて食欲が出ますから、起きたての人は食欲がなくても当たり前だということになりますね。
 以上のことから、朝食がいかに大切かがおわかりいただけたかと思います」

正しく食べるとは

 三浦さんが教鞭をとる女子栄養大学では、入学した学生たちにまず「正しく食べる」ことを教えるそうです。それには、学生たちのこれまでの体験が元になっているのだとか。

 「入学時や面接試験の時に『どうして本学を選んだのですか?』と聞いてみると、100人の10人くらいは『ダイエットに失敗したので』と言います。『これではいけない、食事の正しい仕方をもっとちゃんと学ぼう、と思って来ました』と言う学生もけっこういます。
 入学してもしばらくは、正しく食べるのが難しいようですが、一年が終わるくらいになるとだんだんできるようになり、4年経って今度は、元気よく卒業して社会のために役立つようになってくれる。『食べることを学ぶ』専門の学校でも、このようなことがあるわけです」

 バランスのよい食事の「ちょっと余談になりますが」と前置きしながら、なんと宇宙食開発のプロジェクトにかかわっておられることを話してくださいました。
 「5〜6年前からこのプロジェクトが立ち上がりました。今まで、アメリカ人やロシア人の栄養の話は、NASAに蓄積がたくさんあるんですが、日本人のはまったくありませんでした。
 日本人の宇宙飛行士は7人ぐらいらして、今度宇宙ステーションができますと、3カ月から6カ月ぐらい滞在する方がもいます。長期にわたって滞在する時の唯一の楽しみは、食事なんですね。
 ただし機器の関係で、電気冷蔵庫・電子レンジ・冷凍冷蔵庫などは今のところ使えないんです。するとインスタント食品・レトルト・缶詰を使うことになるのですが、重量の規制があって、あまり重いものは持ち上げられない。

 日本も宇宙ステーションを10%買いましたので、外国の方と食事をともにするのですが、『長寿国の日本はでいったいどんな食事をしているのか? 日本と同じような食事をしたい』という要望がでてきました。そして三食のうち一食を必ず日本食にしようということになり、宇宙食でも日本食の大切さが見直されています」

一汁三菜のバランスのよさ

 「日本では昔から、一汁三菜と言っていましたね。ご飯と汁物があって、主菜があって副菜がある、こういう食事が一番栄養のバランスがとりやすいのです。日本人の食事スタイルは、食べ過ぎず歯止めがしっかりきくのです」

 さらに日本の食生活、なかでも昭和50年代の食事は栄養バランスに優れたものだったといいます。一日に必要なエネルギーは、おもに「たんぱく質、脂肪、炭水化物」から得ているので、それぞれの%をだして円の中に三角形を入れた図にあらわし、食事バランスをみる方法があります。

 理想的な割合を保っているのが、昭和55年。円の中に三角形がすっぽり収まっています。それに対し昭和36年では、炭水化物が78.4%と突出しているのにくらべ、平成16年では58.2%。さらに脂肪は昭和36年では11.4%に対し、平成16年では28.7%。脂肪は25%程度におさえるのが理想的なのに、現代の食事は「脂肪が多すぎる」ことがメタボリックシンドロームなどのひずみになっていると考えられます。

 「昭和30-40年代の食事は脂肪がへっこんでいて、炭水化物がいっぱい左にひっぱられています。これも栄養的には問題ですね。
 で、日本人の栄養状態が悪いために欧米のよい点を学び肉や乳製品をたくさん摂るようにして、昭和55年あたりに理想的な形ができあがりました。
 ところが真似しすぎまして現在のようになると生活習慣病がどんどん増えてきます。アメリカは今、まさにこういう状態で、日本よりも早く食育とか栄養の問題が積極的に指導されていますね。日本も食育をやっていかなきゃいけない、ということなんです。
 東北は特にお米が美味しいですから、ご飯を食べさせていただきたいと思いますね」  そして最後の「食育とはなにか?」についてお話しが進みます。

食育とはなにか?

 「みなさんご存知の通り、知育、徳育、体育にもう一つ、食育というのが生まれまして、いろいろな食の問題が背景になっています。
 食を大切にする心の欠如、栄養のバランスの偏った食事や不規則な食事の増加、生活習慣病にやせ、それから食の安全性の問題。あるいは食文化、地産地消など、いろいろな問題が背景になって食育が始められたわけです。
 今、『食事バランスガイド』の活用編ということで、コンビニ弁当にもそれを表示させて、自分に合った内容のお弁当を選ぶという時代になってきました。中高年の場合にはその通りにするとちょっと摂りすぎだっていう批判もありますが、(私は直接教えてないものの)初心者の方にはこれで教えるのが一番いいそうです」

 あわせて日本人の健康志向について、
 「時々マスコミに『こういってくれ』と言われることもあるんですが、『いや、事実が、文献がないと言えないんです』とか、『ここまではわかっているけれどこの先はわかっていません』と伝えます。時には『そういうふうに言うのであれば、私は出られません』とお断りすることがあります。
 日本人の国民性といいますか、『これがいい』といわれると、誰よりも健康になりたい、とそればかり食べる方向に走ってしまいます。それだけで健康を作れることはまずないわけですよね。いろんなものを食べてはじめて健康がつくれるのですから」
 と注意を促し、その一例として機能性食品がブームになったころの様子をお話ししてくださいました。

 そして最後になりましたが、と東北地方各県の特産品の栄養的特長についてまとめた表が紹介されました。
 「ただ、成分分析されたデータがないと栄養的なことはいえないので、詳しくはお伝えしませんが、東北は野菜・肉・魚…食材がすごく豊富ですね。だからとても皆さんすばらしいところにいらっしゃるんですよ。こういう食材が豊富なところに皆さんいらして、幸せだなと思います。健康はいくらでも作れるというわけですね。
 健康を作る食事には、一つの食材が役立つわけではありません。いろんなものをバランスよく食べるということが、私から最後に言いたいことです」
と結ばれました。